第47話 望んだ惨状
七月七日の二十三時頃。燦然と輝く夜空の星々は眠る子供たちを見守っている。そんな中、昼時に美奈とぶつかった女性と後ろをついてきた者は暗い部屋に誘われ、奥に座る男と対面した。
にやにやと不敵な笑みを浮かべる少年のような風貌をした者、ロキは「お疲れ様」と二人を労う。大して感情の籠っていない軽薄な言葉に敢えて女性は反応をしなかった。
「課せられた内容はコンプリートしたわ。ロキ、さぁ報酬を頂戴」
「はい、1億ドルね。しっかし、もうそろそろ人類滅ぶのに、お金でよかったの?」
「いやぁ~ね、確かに計画ではそうだけど、今のうちに人間を下に使わせて満足するのも悪くないでしょ?」
「ノイローバでも人間くらいボコボコにできるじゃん。無理矢理従わせることだって簡単なはずだと思うけど?」
「それがねぇ~」
ノイローバと呼ばれた女性はロキと同じような悪意に満ちた笑みを浮かべると言葉を続けた。
「ゴミのように扱う人間をそれと関わりのある人間に見せびらかすのが楽しくって。人が堕ちていく流れを見せつけた相手の顔は…最高すぎるったらありゃしない…!」
ブロンドの髪を揺らしながら興奮するノイローバに同情し、笑いを浮かべるロキはとても満足気だった。同じような風景を何度も見てきたロキは納得を示し、腹を抱える程更に笑いが込み上げてくる。対照にノイローバの後ろにいる者は無表情を変えることなく、その場で立ち尽くす姿はこの空間において異質を放つ。
目元を擦るロキは「じゃあ、そろそろ始めよっか」と一言発するとロキとノイローバたちの横に何も表示されていない大きなビジョンが現れる。
「ニャット、能力を発動してくれ」
ノイローバの後ろをずっとついてきた者がロキの前に移動すると「にゃぁ」とたちまち一言残し、身体全体が紫色に発光していく。蠟燭でしか照らされていないこの部屋では一つ輝くランタンのように部屋中を照らす。
どんどんと輝きが増すとニャットの身体がひび割れていき、やがて身体は粉々に散る。薄れる光と共にサラサラと消えていく。
「うーん、やっぱり発動と引き換えにぶっ壊れちゃうよなぁ」
「ま、これでも完成品なんだから良しとしましょう」
「流石に合成獣と神の使者の合成は無理があるってことだね」
命があった者を壊れてしまった物のように扱う二人は画面が映し出されたビジョンに注目する。
どこかの部屋の一室を映し出している様子で、苦しむ声が聞こえてくる。先程まで安心感を与えていたペンダントを握るもそれはニャットが能力を発動した際に同時にひび割れ、無くなっていた。
しばらくすると電池の切れたロボットのようにフラフラと部屋を出て外へ向かう。普通の人間であれば目を瞑り、意識のない中絶対に動くことはないが、この時、下した髪が揺れる女子は行かねばならないところがあると勝手に脳が判断し、身体がそちらの方向へ吸い寄せられていく。
これは先程崩れ去ったニャットの能力によるもので、ペンダント内に制限されていた力が解放されると、女子高校生の内に潜む憎悪や怨念などの悪心が彼女の思考を支配してしまったのだ。ゆらゆらと波引く海のように揺れる身体は自我を保てておらず、ふらつきながらなんとか歩くという動作を保っていた。
「さぁ、実験の答え合わせだ。見せてくれ、|青龍《せいりゅう》」
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怪しい歩き方でようやく辿り着いた場所は家から二,三十分離れたごく普通の住宅街だった。終電ということもあり、残業帰りのサラリーマンが数名夜の街並みを支えている。一人のスーツを着ている男が家の前に着くと誰かが門柱に寄りかかっていた。
「お前は…美奈じゃないか!なぜここに居るんだ…?」
別居している娘がわざわざ会いに来ることに何かしらの理由があるはずと父親は勘繰るが、それよりも外見が普通ではない。少女の立ち上がった姿は重度の熱がある病人のような見た目でその場でじっとしてられない程だ。
しかし、得体の知れない怖さが父親には感じ取れた。恐怖心だ。理解した途端、冷や汗が自然と湧き出てくる。その悪い予感は見事に的中し、一瞬にして対面する父親の腹部を貫く。
それは神力で生成された鋭く尖った水の固まりのようなものであり、非現実的な現象によりワイシャツに滲み出る大量の血と激痛に理解が出来ず苦しまざるを得ない。
更に追い打ちをかけるように両腕と両足の太股部分も貫かれ、父親はその場で寝転がって「やめてくれ」と悶絶する。しかし、当の美奈は薬物乱用者のように善悪の区別がついておらず、無情に攻撃を振るう。心の内に潜む恨みが晴らされる爽快感が心の中にあるようで、ニヤニヤと笑顔を浮かべていた。
痛みに打ちひしがれる中、瞳を合わせた父親は死を悟った。
瞬間、先程攻撃した神力を展開して父親の首を横に切り裂いた。勢いよく血が噴き出しており、グロテスクな姿で地面に転がる父親の姿を見て、自我を保てていない美奈は嘲笑を浮かべた。
自身の足で身体を蹴り上げたり、ジッと死体を観察したりなど数分その場に滞在した後、力の代償という訳か、酷い頭痛に苛まれたため自身の家に向かい始めた。
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ロキとノイローバはその姿を映し出されたビジョンで非人道的な惨状を見届け終える。静かな部屋に反響する拍手は盛況を高める。
「気にいった!これは使えるよ!」
かなり満足気で、ノイローバも見事な手応えを感じるほかない。それらは自身らの玩具が増えたような感覚に近しいものだった。
「本人の悪意を利用した使者の覚醒…これで成功例は3回か」
「四神も3人目よね?」
「うん、そうだよ。これを朱雀の力を宿す奴に差し向ければ…」
「いよいよ四神同士の討ち合いってことになるわね」
「そういうこと!恐らく現状、力をかなり解放した青龍が有利だから、約8割は勝てると思うな。ま、勢い余って朱雀を殺さなければいいけどね。ノイローバ見に行ってあげてよ」
「いやよ~。回収役ならカグツチにやらせなさいよ。私はもう3連続で回収してるわよ。それに援軍来たら面倒だし。それこそスサノオなんて来たら終わりよ」
拒否を示すノイローバに頭を悩ませるロキだったが、自身も現場へ赴くのは嫌である。『戦場の申し子』の異名を持つスサノオに至っては対処に手を焼くことは間違いない。
何かいい策はないか、背もたれに深く寄りかかると上向きに溜息を吐く。
「じゃあちょっと頑張るから。ノイローバは回収と監視ね」
「頑張るって何を。ただの結界ならクシナダに調和されて突破されるのがオチよ」
「そんなんわかってるって。あいつらのアジトの情報が正しければ、僕の神力と下僕共の技術でどうにかするよ。ノイローバはいつも通りやってくれればいいよ」
「それなら納得ね。了解~」気の抜けた声で返すと「作業分の金を用意するの忘れないでね」と思い出したかのように後ろ向いて言い放ち、ロキの適当な返答を貰う前にその場を去った。
「ったく、金の亡者。まるで人間かよ」
再びロキは椅子に持たれて楽な姿勢を取る。さぁどうする朱雀の継承者。同じ四神、同じクラスメイトのマッチアップにどう出るのか、どう接するのか、ロキは楽しみと疑念を抱きながら不敵な笑みを浮かべた。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




