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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
青龍編
48/133

第48話 くノ一 ~上~

 七夕の日から土日が明けた。二日経っても倦怠感の残る美奈(みな)は家を出るギリギリの時間に目を覚ますと身体からは汗が噴き出ており、掛け布団の中に籠る熱気が気分を害す。全身にかかる地球の重力を感じながらベッドから出ると洗面を済ませ制服に着替える。


「あれ?」無い。貰ったはずのペンダントが無い事に気づいた。ただ、探している時間も無いため、その作業は帰ったら行うことにし、駆け足でリビングへ向かう。


鏡に窶れ気味の酷い顔が映るも、家族に心配をかけたくないため、いつも通り学校へ向かうことには変わりなかった。食欲が湧かず、朝食はいつもの食べている食パンではなくサラダスティック一本のみで済ませ、前日に準備したカバンを腕にかけ家のドアを出た。


 今から走って最寄り駅へ向かえばギリギリで学校に着く。体調の優れない中、足早に向かい、なんとか電車に乗ることができた。


いつもと乗車時間の違うこの時間帯はかなり混雑しており、満員電車の中押しつぶされそうになりながら学校を目指す。人混みの中、顔を出し、電車の電光掲示板の小さなニュースを見て気をはぐらかす。


すると、見覚えのある通りが飛び込んできた。それは以前住んでいた家の前の通りであり、殺人事件が起こったというものだった。被害に遭った場所が映し出されると見覚えのある門柱が映る。画面は切り替わり、被害者の顔が映される。


本辺和也、男性。間違いなく美奈の父親である。自分と関わりがあったニュースが取り上げられていることに動揺を隠せず、必死に細かい字で書かれた説明文を読み始める。近隣住民が第一目撃者であり、近くの電柱に生首が転がっていたとのことで、離れた胴体には四つほど穴が開いていたらしく、何か鋭い物で刺されたような様子だったらしい。


目撃者曰く、「道路に大量の血が飛び散っており、白い門柱は真っ赤に染まっていた」とのことだった。朝から途轍もなく悲劇的で残虐なニュースであり、目を通した誰もがいい思いはしていなかった。美奈は下を俯き気持ちを整理し始める。


_______ざまぁみろ。


込み上げてきたのは笑いだった。家族を散々虐げてきた者が遂に最大級の報いを受けたことは美奈にとって吉報であったのだ。人を殺すことはいけない事だと思っていたが、人を苦しめ、貶める人は殺されていいと心の何処かで思っていた。それがこのニュースを経て確信に変わった。憎き者は相応の罰があれば良い。


美奈の心は行き過ぎた懲悪心に淀み始める。学校の最寄りに着くと疲労困憊の中、少しだけ気分が和らぐのを感じながら電車を降りた。


_____にしても犯人は感謝しないとな。一体どんな人なんだろ。


卑劣な人間は因縁を買いすぎているだろうから、主犯者がわからない。美奈は不明な真相に今は只感謝するほかなかった。自身の心に潜む敵意が犯行に及んだことを知らずに。

 

 階段を駆け上がり、教室に足を踏み入れるとほぼ同じタイミングでチャイムが鳴った。ふぅと息を吐き呼吸を整え、そのまま起立したクラスメイト達に乗じてそのまま挨拶をする。


着席するとどっと朝から重くのしかかっていた倦怠感が身を襲った。必死に学校へ向かうことに意識が傾いていたからであろう。今日一日辛い日となりそうだ。気だるい身体を起こし、一時間目の授業の準備をしにロッカーへ向かった。


___________________________________


 帰りのホームルームが終わり、美奈たちは昨日約束していた限定商品を食べにミズドでドーナツを食していた。


七夕限定のドーナツは半分がチョコ、もう半分にストロベリークリームが中に入っており、表面にはチョコミントがコーティングされ、その上には星々を連想させるトッピングがなされている。それぞれのクリームはかなり濃厚で、味には申し分ないが、トッピングのチョコレートの粒たちがボロボロ落下していくため大変食べづらい。少し縁起が悪く感じてしまうが、結局美味しければいいという結論に三人は至った。


「よーし。もう2つくらい食べちゃうぞ~」

「えぇっ!智花(ともか)流石にそれはヤバいんじゃない!?」

「大丈夫大丈夫。我慢は体に毒って言うし」

「じゃあ私は担々麺買って来る」

夢叶(ゆめか)はもはやドーナツじゃないし…」


席を立ち上がり列へ向かう二人を追いかけると朝から引きづる倦怠感と共に酷い頭痛がやってきた。グッと脳が潰されるような痛みに乗じてか、ぐらぐらと視界が回り壁に手をついてなんとか態勢を保つ。


目をつむり痛みを堪えると智花から気にするような声をかけられるが、軽い立ち眩みと言って強がった。そんな姿に二人は美奈の心中を察し、「買う物なかったらそこ居ていいからね」と優しく気遣われる。美奈はその言葉に甘えるとこめかみに両の親指を当て目の周りをマッサージし、何とかこの場を持ち堪えようと入念にそれをこなす。


 美奈は二人と別れた後も一人になる時まで、体調の悪さを一度も見せぬよう虚勢を張っていた。二人には自身の問題で迷惑はかけられないと思うと同時に、そんな自分を認めなくなかったのだ。


内に秘めいていたプライドの高さ、そこに重なる嫉妬心と猜疑心が悪化する体調によってどんどんと強まる。今まで発せられる言葉や考え方がそちら側に傾き始めたが、当の美奈はとりあえず『ただ不調な日が続く』と特別な容態だと答えを出さなかった。一人になっても辛さは抜けず、帰りの電車は横の壁に寄りかかって目を閉じた。


ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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