第46話 プレゼント
「あれだけ辛い想いして、精神病院5年も通ってようやく普通の生活送れるようになったってとこ間近で見てきたってのに。なんで…なんでそんなことが言えんのよ…」
スーパーへ買い物に向かう道中、美奈は先程の姉の発言に憤慨し、思わず言葉が溢れ出る。
理解が出来ないというよりかは、理解をしたくない。考えたくもないといった答えが頭の中で駆け巡る。あまりの苛立ちによって、表情は鬼の形相を浮かべており、道行く人はたどたどしく美奈から離れる者も少なくはない。
そんな中、買い物帰りと思われる女性にぶつかった。前傾姿勢かつ力強く早歩きをしていた美奈の当たりは軽量車両のようで、相手女性は勢い良く尻餅を着くと同時に、持っていたビニール袋からたくさんの購入物が道端に転がる。
「痛っ…」美奈はその場で後ろによろけると虫の居所が悪かったため鋭い目で睨みつけると、ぶつかった女性は転がった買った物よりも口が先に開いた。
「ごめんなさい、前、気付かなくて」罵声を浴びせてもおかしくはない状況だったが、理性が働き思いとどまる。
「…こちらこそすみません」
素っ気なく適当に返事をすると落ちた物を拾い集める。相手に感謝されるもまたも素っ気ない返答を繰り返した。今はとりあえず誰とも関わりたくないため早々と済ませようとしか脳がなかった。
女性はブロンドの髪を靡かせながら対照的な肌の色をしていたことから日本人女性とは離れた容姿だと遅れながら認知する。チラりと顔を見ると鼻が高く、海外の人間のようにも見えた。昨今の日本は移民受け入れが活発で、国内に住まう外国人は非常に増加傾向にあるため珍しくはなかった。
「ほら、あんたも手伝いなさいよ」
ぶつかった女性の後ろからフードを被った者が無言で助力する。七月という開夏真っ盛りの猛暑日にダウンで上半身を覆い、厚めの長ズボンを着用していた。おまけにフード被り、手袋装備ときたもので、むさくるしいその姿を見ているこちらまで暑苦しくなる。
「これで全部ですかね、どうぞ」全て拾い終え手渡した。若干大げさな笑みを浮かべているのを見るとかなり満足気な様子であった。
「本当にありがとうね。お礼と言っちゃなんだけど」
肩にかけていた小さな鞄からはたまた小さな物を取り出した。銀色の鎖に繋がれており、青色の宝石のような物がメインとなったペンダントのようなものだった。この流れから察するにまさかのまさかだったが、そのまさかだった。
「はい、これあげるわ」
「いや、その、お気持ちだけ頂いておきます」
「そんなの大丈夫だから。ほんの少しものお礼よ」
外国人っぽい見た目の女性だったためか、この手のやり口で金を請求する海外のゴロつきや景気の悪い現在の日本に蔓延るホームレスを想起させる。また、見知らぬ人が使用したであろう物を押し付けられているような気がして、本当に欲しくなかった。
「高価そうですし、大丈夫なので」
「確かにこれを作るのに物凄い労力と時間がかかったらしいけど、あなたにピッタリと合いそうなのよ」ペンダントをつけようと女性が美奈に向かう。掛けた瞬間金を請求する算段だと考えられ、逃げようと身体を外へ向ける。
「お金今ないですし大丈夫ですって!」
「そんなの要らないわよ。ほら!」
半ば強引に押し付けられ、美奈は渋々と受け入れると女性はルンルンと首にそれをかけ始めた。
「うん!十分似合ってるわよ!」
「あ、ありがとうございます」
嬉しくも無い感謝を述べると再び大げさで笑みを浮かべる。視線を後ろに向けると、フードを被った者が手袋の辺りを気にしている。
「あんたもなんか言ったらどうなの?」お節介というダル絡みに巻き込まれると意外にも大きな一歩で美奈の元へ近づき手袋上から美奈の肩を三度叩いた。
「ぃにゃぁ」
言葉が喋れないのか、言葉と捉えられない高い声で何かを呟き女性の後ろに戻っていく。なんだか不思議な二名に絡まれてどうような行動を取ることがベストなのか見当もつかず、結局女性の笑顔に合わせ、愛想笑いで「ありがとうございます」と感謝を述べることしかできなかった。
「もっとお話ししたいところだけど、私たちもそろそろ行くわね。この後楽しみな予定があるのよ」
「それは、楽しみですね」あなたたちの絡みは全く楽しくないし、今後未来永劫絡みたくないけどね。内心で呟くも、お得意の愛想笑いを継続する。
「それではごきげんよう」
フードを被った者は挨拶をすることもなく女性の後についていき、面倒事はその場で終わった。変わったことに巻き込まれ、ストレスがどっと来るも、混沌としたダル絡みが終わり安堵していた気持ちが強かった。
貰ったペンダントを外そうとするも帰宅時間ということもあり、人通りがある道となっていたことに気づく。立ち止まるのは迷惑だと判断できたため、家に帰ってから外すことにし、再び本来の目的である買い物をしにスーパーへ向かい始める。
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買い物から帰宅すると直行で姉に謝罪する。内心で男に気持ちを許すことはできないものの、感情的で一方的な押しつけがましい発言は発するものではなかったと猛省した。
姉からは想像以上にあっさりと許しを得ることができたが、交換条件に料理を任され、買って来た食材で料理を振る舞う。いざ食事となると姉から一つの疑問を受けた。
「さっきから気になってたんだけど、そのアクセサリーみたいなのどうしたの?」
「あっ、そういえば」反射的に胸元に手をやり、それに触れる。夕方に貰ったペンダントを外すのに今の今まで忘れていた。
「買い物に行く前に女の人にぶつかっちゃってね。相手が買った物が散らばっちゃったからそれを拾ったらお礼だってくれた」
「へぇ~そんなことあるんだね」
「押し付けられた感じあったけどね」
苦笑いを浮かべる美奈と対照に、姉は疑いのない笑顔を浮かべる。
「けど似合ってるじゃん!羨ま~」
「そ、そうかな?」確認をするとかなり良好な反応を示したため美奈もペンダントに対する意識が変わった。
それは食事を終えた後も勉強をした後も、SNSを閲覧している時もずっと付けていたことから確信となる。ヘアゴムを外し、束ねられた髪を開放するとベットに頭だけ乗せ上を向けた。左手でペンダントを目の前に持ってくると自然に笑みがこぼれた。少し強めに握りしめ、そのまま胸へ持って行く。
____あぁ、とても落ち着く。安らぎを与えるペンダントは精神的に不安定な美奈の心を和らげる物となった。そんな安心感からか、段々とうつろうつろと眠気がやってきた。大欠伸をして姉が風呂から出るまでの間、自然とその場で目を瞑ってしまった。
目が覚めるとそれは外だった。目の前には血しぶきを上げて倒れる大の人間が一人。高そうな腕時計と清純なスーツを身に纏う会社員。
それも自分がよく知る人物だ。そう、憎悪漲る父親である。絶望の表情を浮かべ、無惨な肉塊になった父親が涙を流している。顔面が胴体と分離しているところが奇妙かつ巧妙でにやけ笑顔が止まらない。今にも大声で笑いをとどろかせられるほどだったが、深夜ということもあり少量の声で堪え精一杯抑える。
達成感で全身が満たされると感じたことのない頭痛が襲い掛かった。とりあえずその場から離れるも、痛む脳内より感じる喜びを味わいながらゆっくりと家に戻った。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




