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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
青龍編
44/133

第44話 男卑女尊

 七月七日、七夕の日。季節は夏に差し掛かり、外は灼熱の太陽が照り付ける。梅雨明けとまではいかない時期であり、室内も蒸し暑く、とにかくどこに居ても暑い。そんな毎日が日常となっていた。


「ぬぉおぉおぉおぉ~涼すぃ~」


階段を駆け上がってきたばかりの優気(ゆうき)はチャイムの鳴る三分前というギリギリの時間に教室に着くと、驚くほど快適な教室に快哉を叫んだ。


「おぉ優気。暑い中おつ」

「おはよう!!優気!!」

「おぉ健勇(けんゆう)。健勇は迫力という『熱気』があるから俺に近づかないでくれ」


元気満点な健勇に反して、流れるようにとても冷徹な対応取ると、集まっている仲間内で笑いが巻き起こる。当の健勇は笑顔を浮かべつつも頭を抱えて悶絶している。


「いや、それ、怜真(れいま)も同じこと言ってた」


璃久瑛りくあの発言は優気に驚きを与えた。流石長年の付き合いというべきか、小学校六年間と高校三年間の計九年に渡る関係は伊達ではなかった。


「俺も驚いたけど、2回も同じこと言われる健勇っt」


再び怜真は小さな笑みをこぼす。更にギリギリで教室に到着した炎示(えんじ)が盛り上がるグループに近づいて来る。


「なーに盛り上がってんだ!?オメェら!!」

「あ、炎示は既に不快だから近寄らないでくれ」

「なんつうこと言うんだ!!?ゆーき!!」


健勇と同等にむさくるしい暑さを感じさせる炎示には、笑みを浮かべるテンションとは対極に、無情に餌を貪る鳥類のような表情を浮かべる。炎示の今日一番最初の会話に対して、とても冷ややかな対応を取る優気と、とばっちりを食らう炎示が示す驚きのリアクションという二者のギャップが笑いを生み出す。


「炎示。言葉通りの意味だから静かにするんだ」

璃久瑛も便乗して炎示を諭すように注意する。その声も普段の璃久瑛より大分落ち着いた声であり、普段バカ騒ぎを共にする炎示は理解に苦しむ。


「いや、朝イチ開口一番で『静かにしろ』ってどういうことだよ!?この小さなスペースだけ朝から避難訓練でもしてんのか!!??」


炎示にしては珍しく上手い例えをすると、トントンと怜真が肩を叩いた。口元に人差し指を立て、歯の隙間から息を靡かす。


「いや、『シィー』じゃねぇよ。避難訓練じゃねぇかよ!!」

「炎示。二度と口を開くな」

「けんゆぅうぅぅぅぅぅぅぅうううううううううう!!!!!!!!???」


同じ煩さを誇る健勇にまで腫れ物扱いされたことから、健勇の体を大きく揺らす。その光景に笑み交じりに「暑くなるからやめろ」と周りが止められるとホームルームを知らせるチャイムが鳴り、集団はそれぞれの席に移動する。


 仲睦まじい光景は傍から見ると負の感情が湧きやすい。それは優気の隣に座る本辺美奈(もとべみな)に湧いていた感情だった。学校に行くことに若干の気怠さを抱きながら浮かない顔で登校し、大して仲の良くない他クラス生徒に絡まれ、取り繕った建前を重ねたことでナイーブな心情を朝から抱く。


そこを追い打ちに、自身の一番嫌悪する『男』という存在が喚き散らしている姿をまざまざと見せつけられ、苛立ちを隠せない。やりたくもない習い事先で講師にむちゃくちゃな説教を説かれたと似た現状であり、今年の朝の中で最も気分の悪い日が決定した。


 そんな気分の中、美奈(みな)のタブレットに一件の通知が画面に表示された。姉からのメッセージであり、ホームルーム中だが隠れて内容を開く。


_今日帰る前に時間ある?暇ならお母さんのお見舞い一緒に行かない?


内容は入院中の母への見舞いだった。どうやら仕事が早く終わるのだろう。放課後に特に用事もなかったため美奈は了承のメッセージとスタンプを送る。


_七夕だしちょっと贅沢なもの買って来るね!


姉からのメッセージで今日が七夕であることを思い出させる。訳あって遠く会えなくなった男女が一年で七月七日のこの日だけ会えると伝承されているが、男という生き物が嫌いな美奈にとってロマンチシズムの欠片も感じず、男が居なければ行事は成り立たなかったというところに不快さを感じずにはいられなかった。


「美奈~」

友人の和野夢叶(わのゆめか)から声をかけられると、いつの間にかホームルームが終わっていたことを理解する。もう一人の友人、三沢智花(みさわともか)もこちらにやってきてベタベタとくっつく。


「智花暑いからやめ」頬っぺたをブルブルと震わせられ「さっきから暗い顔して、可愛い顔が台無しだぞ~」とからかわれる。


「今日さ、放課後ミズドで駄弁らない?久しぶりにさ」


放課後に予定が入ったと思ったら、誘いが来る。この絶妙なタイミングの悪さに頭を抱え、ため息をついた。


「っごっめん、今さっき用事入れちゃったよ」

「えぇ~それは仕方ないね」

「まー美奈が私らの誘い断るってことは大切な用事なんでしょ?」

「そう。お母さんのお見舞いにおねぇと一緒に行くんだ」


やっぱり、夢叶からため息の混ざった納得の声が吐かれ、さらに申し訳なくなる。


「せっかく七夕限定のクリーミースタードーナツ一緒に食べたかったのに~」落ち込む智花に美奈は姿形を思い浮かべる。


「あれって確か11日までやってたよね?」

「えっ!?七夕限定なのに??」

「美奈の言う通りで、そういうのは七夕の季節限定ってだけで、その日以降もちょっとはやってること多いよ」

「えっ!!なら明日行こっ!」

「私は大丈夫だけど、夢叶は大丈夫?」


サボれば大丈夫と気楽に話を進める夢叶だったが、あまりにも簡単にサボる宣言をしたことに美奈は驚きと心配の表情を浮かべる。


 会話を続けながら一時間目の授業の準備をしにロッカーへ移動する。気楽に話せる女友達が居て良かったと安堵し、朝からの美奈の不満は段々と解消されていった。

ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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