第42話 2つの視点
「へぇ~ゼウスの本名って『グレイティスト・パーフェクタル・ファンタジスティー・キングオブ・ゼウス』って言うんだ」ダッサァ~と嘲笑されるが、対極に「煩い」と一言言い放つ。
「毎回君は全盛期の話になると即答するよね」
「事実だからな。事実を述べて何が悪いんだ?」
「事実かもしんないけど僕は見たことはないんだよね。だから実感が湧かないんだ。話は聞いたことはあるよ。ほら、それこそラーとオーディンの誘いを断って『鬼征討』に参加しなかったとか」
「それ戦ってない話じゃないか」
過去の行動を掘り起こすと真面目なツッコミにロキは大笑いを浮かべる。しかし、同じ使者であるのにも関わらず全盛期のゼウスの姿を見たことがないという発言には疑問符が浮かんだ。
「でも儂の神力を感じたことはないか?」
「神力なら辛うじてってとこかな。あのビリつく感じのやつ。たまに惑星が3つくらい離れてても伝わってきたときあったからね。能力とかは全く分からないけど、途轍もない神力を発する使者もいるんだなって思ったよ」
流石に神力くらいはあったかと想像通りの結果となるが、連続してロキの経歴が気になってくる。
というのも、神の使者であるならばゼウスの『雷を操る』といった能力やそれにまつわるエピソードが出てきてもおかしくない程の認知度があるからである。あまりそのような情報を知らない使者は今まで封印されてきたか、生き物も何も無い孤独の中で暮らしてきたかと想像を張り巡らせた。
そこであることにゼウスは気が付いた。ロキと初めて会ったのは百年前であり、神の使者の中でかなり直近である。蟻の巣や人の規模と比較できないほど数のない神の使者の社会だが、それまで一度も顔を見たこともなかったことに違和感を覚えた。
「ちなみにだが、100年前初めて会った以前は何をしていたんだ?」
「冥界で暗闇をずっうぅぅっと彷徨ってたんだよ。出来損ないの使者とかもう消滅した合成獣、冥界に落とされた救いようのない人間とかを葬ったりしてさ。そこを150年前くらいかな、冥界王であるハデスさんに拾われて地上に来たって感じ」
「それじゃあ、あんなにハデスのこと慕う訳だな」
「そりゃそうよ。ま、奥さん殺されかけた代償にとんでもない呪いかけられて、今も神力制御された当人は、慕うって感情から一番遠い感情があるだろうね」
「いやそんなことも最近はないかな」
再び過去の話に花を咲かせていてもずっと余裕のあるロキだったが、この時ばかりは理解に苦しんだのか、はたまた予想だにしていない回答だったからか顔を曇らせた。
「えっ、どういうこと??」思わず口にも出ており、ロキにしては感情が先走る。
「神力が無くなって色んな視点が増えたというか、人間の目線に近づくことができたのが大きいな。何より、戦闘を意識しなくても良かったことが一番だな」
ふーん、と関心を示しているようには見えない相槌をするロキだったが、でもさ、と次の言葉に移る時には笑顔を浮かべていた。
「もしあの時に戻れるのなら、戻りたいでしょ?」
「仮定や妄想の類であるならば興味はない」
「じゃあ、戻れるなら?」
「戻れるわけないだろ。過去に戻ったとしても今の未来は変わらないと『予見』の与護を持つオーディンも言ってたからな」
外していた視線をロキに戻すとくしゃっと顔が変わりそうな程の満面の笑みを浮かべていた。
「それができるんだよ~。強靭な力で守りたいものを守り、失うはずだった者を救い、説法を説くに振りかざし、過去も未来も何度も思いのままにしてきたであろう姿を再び取り戻せるとしたら…??」
ロキの言葉は机上の空論にしか受け取れない。というのも、ゼウスにはハデスという神の使者に斬りつけられた体験、もとい、神力を扱えない呪縛がある。訳あって冥界に封印されたハデスだが、その呪いは非常に強いものであり、どんなに解呪を施したところで消えることなく、ゼウスに付いて廻っているのだ。
術法や解呪の得意なクシナダを以てしても不可能だったため、信用には値しないが、ゼウスは否定を言葉にすることはしなかった。想像を張り巡らせても答えが出ないため、正確には否定ができなかったのだ。しかし、相手は敵である改革派のロキ。上手く口車に乗せることこそが狙いなのは間違いない。
しかし、どこからこんな自信が出てくるのだろうか。何せゼウスが全盛期レベルの力を得たとしてもロキ側にメリットが無い。何かがおかしいと違和感を踏みながら思考を巡らせる。
「あ~あ、ここまでか」
ロキは残念そうな面持ちで校舎から出てくる凱矢を見て気怠く呟いた。右手の指を使い摩擦で音を鳴らし、ため息をつくと「まぁいいや」と自身を鼓舞した。
「不可能が可能になる。希望があることを視野に入れた方が良いよ。えぇっと、『グレイティスト・パーフェクティング・ファンタジスタ・キングオブ・ゼウス』」
「いや、『グレイティスト・パーフェクタル・ファンタジスティー・キングオブ・ゼウス』だ。間違えるんじゃない」
「簡単に覚えれんわ!!」まぁ正直どうでもいいよ。
ロキは若干不貞腐れながら忘れようとする。相手の名前を覚えないのは無礼講だと感じるゼウスであったが、数分で長いフルネームを暗記することは厳しいため今回ばかりは許容した。
「今回は撤退だ。じゃあ、またいつか会おう」全能神ゼウスさん、と捨て台詞を吐き屋上から背面で飛び降りると、突如空間が裂けて行きそこに入り込んでいった。
ゼウスは先程のロキの言葉が引っかかりながらも別棟を急いで移動し、グラウンドへ向かった。
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優気とヘラクレスがギルガメッシュとアレスと戦闘になっている頃。健勇は逃げる凱矢を捕らえるまでずっと追いかけていた。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええ!!!!!凱矢ぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「うるせぇっつの!」
凱矢は面識も交友もある健勇と言えど、鬼の形相を浮かべ、執念で追ってくる姿に臆していた。その姿は命懸けで獲物を追いかける大型動物のようで、捕まったら死を意識するほどのものであった。
東側の階段を駆け上がっては廊下を全速力で走り、西側の階段を駆け上がったと思いきや、そのペースを崩さずに再び東側の階段まで廊下を疾走する。
凱矢は体力と足の速さには自信があり、中学の頃なら健勇と同じくらいのレベルでいつも競い合っていたが、高校であまり運動をしなくなった凱矢と甲子園を目指して日々鍛錬を積む健勇とでは段々と体力と走力の違いが如実に表れてきていた。階段を下りるのにもなるべく体力を温存するため、階段の仕切りに跨り滑って階層を移動する。
しかし、雨の日は校内で走り込みをしている健勇には階段の下り方に慣れており、距離差は埋まっていく一方であった。
ただ走るだけでは追い付かれると判断したため、凱矢は近くの教室に入り姿を晦ませた。凱矢の隠れた教室を走り去り、足音から反対側の階段に移動していくことがわかる。
ただ走り続ける健勇がダチョウのように思えてくるが、そこまでの知識レベルではない。先程まで後ろ姿を追えていたが、急にそれが見えなくなったことで怪しさを感じ、再び凱矢のいる階層へ戻ってきた。一つ一つ教室に入る度に「どこだ!?」と大きな声を発しており、徐々に近づく度にホラーゲームのような緊迫感が湧いてくる。
「ここかぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!?」
口元を手で覆い、息を止めてこの場をやり過ごす。しかし、この部屋を一番に疑っているのか、健勇は教卓へ向かう。クラス全体を隅々まで見られたら確実にバレるため、ゆっくりと廊下へ逃げられるように体制を整える。
「あ!いた!!」
「やっべ!!」
直ぐに立ち上がり階段を駆け下りる。少し休憩出来たとは言えど、凱矢の体力は限界近くに達しており、このまま廊下に出ても直ぐに追い付かれることを危惧してそのまま一階まで下りる。そのままグラウンドに出ると、想像とはかけ離れた光景が広がっていた。
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