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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
蔵前高校編
41/133

第41話 命終域のイレギュラー

 今度はアレスが雄たけびを上げ神力(じんりょく)を解放する。今までに感じたことのない神力を目の当たりにし、危機感が最大までに達した。


マズイことになったと璃久瑛(りくあ)もわかるが、「いやどんなところにキレてんだよこの人。世の中で一番関わったら怖くて面倒な、沸点の分からないアラフォー相手にしてる気分だわ」と冷静に呈すると、これには優気(ゆうき)も納得するほかなかった。


「醜く勝負の道を外れた弱き攻撃…そんなの効くわけなかろうがぁぁあああああぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁああ!!」


能力を発動させると手元に具現化した槍を握り優気の懐へ飛び込んだ。『始撃速』の与護と言うよりかは鬼の形相で詰め寄るアレスに怖気づき、動けなかったというべきか。


優気の心臓を狙って突いた槍は、アレスの意図した軌道と逸れ、左脇腹へ向かっていく。離れて戦うヘラクレスが飛ばしたアクセサリーに弾かれたのだ。


致命傷は避けることは出来たものの優気の左半身には激痛が走り、大声をあげてしまう。アレスは何が起こったのかわからず咄嗟に右を向くと先程までギルガメッシュと交戦していたヘラクレスが大剣を構えこちらに向かって来ることを把握。優気に刺した槍を抜き、迎え撃つ準備を整える。


二人の神器がぶつかり合った音がグラウンド響き渡ると、神力など何も持たぬ璃久瑛は一人目の前の戦闘をまざまざと体感し、おどおどと狼狽えてしまう。


「んっと、えぇ~と。そうだ!璃久瑛っつったな?優気連れて二人とも離れとけ!!」

「は、はいっ!」


 優気の両脇を持ち引き摺って場を離れ一安心。と思いきや手の空いたギルガメッシュがヘラクレスを目掛けて突撃する。


「あぁぁぁ~ヘラクレスさん!!やばい人が来てます!」


「わかってんよ!!」


アレスの連撃に対応した直後。ギルガメッシュの攻撃に大剣を地面に差し込み受け止める。ギルガメッシュの大振りの攻撃後は体制を整える若干のラグがあるため大剣の表面に乗り、踏み台のように扱ったところで神器を消散させ、勢いよく相手の懐へ向かい、再び大剣を現前させ突き刺す。


ギルガメッシュは辛うじて武装していた左腕で防ぐも、それはがっつりと貫通しており、半人の部分のためかなりのダメージとなる。それでもギルガメッシュは一撃食らわせようと右腕をスライドするように動かし、裏拳でヘラクレスの全身を打ちつけ、カウンターに成功する。物凄い勢いでグラウンドの高台ネットの柱に衝突し武装右腕が壊れかけていた。


「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええっ!!!!」


アレスが大声を上げ、(つるぎ)を神器として現存させ攻撃に転じるもすぐにヘラクレスは体制を立て直して大剣で応じる。ダメージを負った右腕を下ろし、休ませながら剣を交わすと僅かに見えた隙を活かす。武装した右足でアレスの半身を目掛けて蹴りを食らわせようと試みたが、相手の剣技が上回り華麗に守られる。


アレスの剣が隙の空いた胴体を切り裂こうと攻撃に転じるが、それならばと足を引き戻す勢いで回転し、フィギュアスケートのアクセルのような勢いで、かかと落としを両の腕に食らわせた。相手の持つ剣を手から離させ、首を狙って大剣を振りかざすも、ギルガメッシュの強化された大きな右腕に守られた。二名の敵使者は一旦距離を取ろうと離れるも、その意図を理解し追撃を仕掛ける。


___攻め込むならば今。


二名から手を引かせることができればヘラクレスの目的は達成される。現状相手が望んだ距離を取りながら戦えばそのうち痛み分けで退却の手が打たれるだろう。それが無難で安全な策である。


しかし、数多ある戦闘経験から得た答えは違った。ここで更に追い打ちをかけることでヘラクレスの考え得る最も残虐な結末、優気と璃久瑛への過失リスクが高まるものの、それほどまでに相手を追い詰めることができると判断したのだ。また、数十分で交わした戦闘において、致命傷は受けたが自身が命を落とすことはないと踏んだ。


___差せる。


味方二人を守りつつ相手二人にプレッシャーを与え続けるほどの攻撃を食らわす。ヘラクレスにとって自信しかなく、最良最善の選択であることは間違いなかった。思い通りの行動は、見事に相手の退却の手が早まると踏んだ名案であった。


「おいおい、ここで詰めんのかよ!あぁ!!?」舌打ちをし、アレスと二手に別れ始める。


 二人相手であるものの、あまりの大剣の連撃に俊敏性が追い付かず別々に散らばる。相手のリアクションから想像以上に手を焼いていることが分かり、気を抜く暇を与えていなかった。


「右手は~、ま、大丈夫だな」直接大きなダメージを負ったのは何年振りだろうか、そんなことを考えていると、優気が立ち上がり四神化する。怪我を負ったヘラクレスが戦っているというのに、患部が回復した自分がフォローに行かないことにいたたまれる訳がなかった。


「お、怪我治ったか?」

「はい。お陰様で」

「なら、そうだな。じゃ、適当にどっちかの相手してくれ」

「適当ですか!?さっきやばかったんですけどね…」

「だから適当だ。やばくなったら指示出すからそれに従ってくれ。もし言うこと聞けなかったら…そうだなぁ」


大剣を持った左手で顎を摘み考える。はっ、と何か思いついた様子で笑みを浮かべる。


「じゃあ東京陥没させるわ!」

「ガチでやるなこれ。ってか毎回破壊衝動に駆られるのは何なんですか?」

「それは知らんな。で、後は…」


璃久瑛!名前を呼び引き締まった面持ちと大きな声で返事をすると、「そこで応援してろ」と指示される。「わかりました!」と納得の意を確認すると、ヘラクレスは対峙していたギルガメッシュに近づいた。優気はアレスと対峙し、ヘラクレスに近づけないよう距離を取るように戦い、再び開戦の火蓋が切られた。


___________________________________


 ヘラクレスは対するギルガメッシュと同等のダメージを負っていたことから、互角の戦いを繰り広げていた。


一方で、優気には再び神器を槍に持ち替えたアレスの『始撃速の与護』を持つ攻撃が来る。優気は先程の攻撃は心臓を狙ったものだったため同じ魂胆だろうと予想建てると、上手く躱すことに成功する。それからの攻撃も速いことは変わりないが、ギャンブルチックな攻撃を体感した後だったためギリギリ対応できないこともなかった。


 「ちょこまか避けてばかりで攻撃せんのか!小僧ぅ!」


攻撃してぇけどできないんだよ。心の中で回答すると右脇腹を槍が掠める。これを機に反撃として左足を振り回すもあえなく槍で防がれ、終いにはがら空いた胴体に蹴りを食らわせられた。


少し吹き飛ばされ距離を詰められると思ったが、アレスの狙いは違った。ギルガメッシュとの戦いに精を出すヘラクレスの背後に近づいていく。


先程と現在において、戦ってみたかった朱雀の継承者からは手応えを全く感じず、余興にもならなかった。強敵と戦いたいアレスにとっては機転の利く独特な戦闘方法と二対一の数的不利な状況も物ともしないヘラクレスとの戦いを望んでいたのだ。アレスは神器を斧に持ち替え、ヘラクレスの死角を切りかかる。


「戯け!殺意がバレバレだっつの!」


武装右腕とぶつかり合っていた大剣に一気に出力を込め両者の攻撃が弾かれたことをきっかけに、死角から攻め入るアレスの攻撃に対抗すべく回転しながら躱す。そのままの勢いでアレスとぶつかり合うと、かなりの出力を込めた攻撃のまま対抗したことからアレスは遠くに弾き返された。


弾き飛ばしたアレスに追撃を食らわすため距離を詰めるが、その後ろをギルガメッシュが追う。しかし、そうはさせまいと優気はギルガメッシュのダメージを負った左腕に右ストレートを叩き込んだ。


「おぉ!やんじゃん優気!!」

「このままアレスさんを詰めまs」


言いかけたところでギルガメッシュの飛び蹴りを思い切り食らった。それも見事に鳩尾に入り、グラウンドに転がり飛んだ。


「いっけぇー行け行け行け行け行けヘラクレス。いっけぇー行け行け行け行け行けヘラクレス。おっせー押せ押せ押せ押せヘラクレス。おっせー押せ押せ押せ押せヘラクレス。って、優気大丈夫か!?」


ヘラクレスの言う通りに声援を送る璃久瑛の元へ転がり着いた。呼吸をするのも気分が悪く、蹲って痛みが引くのを待つ状態を取るしかなかった。


「やばそうだな…ほら、痛いの痛いの飛んでけぇ~」

「そんなんで…治ったら、朱雀の力要らんわ」

「おぉ…微かだけどまともなツッコミできるなら大丈夫だわな」


咳込む優気を見て「やっぱやばそうだな」と心配する璃久瑛だったが、ギルガメッシュが大きな右拳を振りかざしていることに直前まで気づかず、またもや死を覚悟する。


「これ死んだわ」


と、声に出した時にはヘラクレスが大剣で防いでおり、大きな衝突音が夕焼けのグラウンドに響いた。


「安心しろ。少なくとも()()()死なねぇよ___」


座っている璃久瑛を目掛けてアレスは神器を変え、遠くから矢が放たれるが矢の中央部を片手で上手く掴み、追撃を防ぐことに成功する。再び大剣を持つ左腕に神力を込めギルガメッシュの攻撃を弾き返す。


「______絶対にな」


神力で放たれた矢が煙のようにゆらゆらと消滅していくと、額に巻いていたバンダナが背後にひらひらと舞い落ち、癖の強い髪束が襟足と額に流れ落ちた。


___________________________________


 「はー、そう来るか。しっかし分からない戦い方をするなぁ~」

別棟の屋上から終わりの見えない戦いを眺める者は少年のような風貌ながら、戦況の流れを把握していた。


「今のも神器で2人を対応するんじゃなくて、神器を囮に片方を崩してもう片方に攻撃を入れるとは…」


二人の人間を防衛しつつ数的に不利な状況を予想外の対応で打破し続け、優位に立つヘラクレスの立ち回りに感服する一方であった。


「自身と同等の神力量を持つ2名を使者に対応しつつ、それぞれの能力へのクリアも怠らない。そして、極めつけは2人の子守りをしながらというところ。味方の受けた攻撃も致命傷のところを最小限にまでとどめ、その後のフォローは完璧。この戦闘を通して仲間にも自身にもほぼダメージを受けていない時を保っている…」


屋上の扉が開く音がすると、少年のような者は大きく呼吸をし、出入口まで聞こえるよう声を張り上げ始めた。


「待ってたよ、ゼウス」

「100年ぶりだな。ロキ」


両手を後ろに着き、首をゼウスに傾ける。敵と対峙しているというのにも関わらず、ロキの異様なほどの身構え無さに若干の懸念が脳裏にチラついた。


「さっきからヘラクレスの戦闘を見てたんだけど、やっぱりとんでもないね。力を出し入れの調整と独特な間の取り方に躱し方。まさに『命終(みょうじゅう)域のイレギュラー』の異名は伊達じゃない」隣座りなよ、と声をかけられるも無視をして話を続けた。


「ペラペラとお喋りが好きなのは変わってないようだな。自分のことを主張したいばかりの幼子のようだ」


「『150億年以上生きてきてまだ若い』っていう褒め言葉として受け取っておくよ」


震えた笑い声に砕けた笑顔で応対されるゼウスには無理に笑うロキの姿が気に入らなかったため、「凄い妄想力だな」と称賛にならない気持ちで称賛を送った。


「褒めたくないのにお褒めの言葉を送れるゼウスにお褒めの言葉を送りたいな」無理に持ち上げた意図を見透かされており、少しでもこの表情を見られたくないと手で顔を覆うも項垂(うなだ)れてしまう。してやられた、そんな言葉にピッタリと当てはまる状況を抜け出したくて仕方がなかった。


そうだなぁと声を漏らすロキは髪をぐしゃぐしゃとかき乱して考え続ける。


「よっ!元全知全能!」

「全く褒め言葉じゃないな。どんな言葉でも勢いで何もかも上手く行くと思うな」

「おっ!これは全知全能だね」

「叩き殺していいか?」


拳を力づくで握りしめるゼウスの顔は冷徹に満ちていた。嘲笑気味のロキに更に腹が立っていたが、高度なレベルで術法じゅつほうを扱うロキに対する勝算は実のところ五割にも満たないため必死になって堪える。


 ところで、と笑い終えた後に切り出した言葉は冷たくて安全性の欠けた鋭利なものに感じる。


「昔のゼウスと今のヘラクレスならどっちが強い?」

「100%儂。こればかりは異論は認められないな」

「やっぱりそうだよね。昔のゼウスに対抗出来るのはラーか鬼族の頭くらいじゃないかな」


何かこの話には狙いという裏がある。そう踏んでいたゼウスは厳重に注意しながら話を進めることを意識する。ちなみに、と言うとロキは立ち上がりゼウスの方へ向き合った。


「ちなみに、これはどうでもいいことなんだけどさ」やけに溜めた言葉からスパッと話題が切り出された。


「ゼウスって本名何て言うの?」

ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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