第38話 勘違いも偶には悪くないのかもしれない
四神化し、素早い組手で稽古をつけてもらう優気はスサノオに少しでもダメージを与えようと尽力するも、今日もそれは難しそうだ。
「はい、終了。5分後にもっかいやんぞ~」
「はいっ!!」
やる気の入った返事で応答する優気を他所にランニングマシンで体力作りに勤しむ怜真はかれこれ二十分が経過しようとしていた。
部屋を隔たダイニングテーブルでは璃久瑛に対してフィルセル、ウォック、リュウ、士純の外国人四人が戦闘用の拳銃や小銃の弾薬の詰め方などを指導していた。
「そう、ライフルの場合はここにマガジンをセットして…こう構える。そんでもって構え方のコツはな…」
フィルセルが実演しながらの説明に璃久瑛は理解が深まり、すらすらと手順を踏んで進めていく。しかし、他の三人はスナック菓子や摘まみを広げ談笑するばかりであった。
全く集中することができず時々会話に入りたくなる時もあり、気が散って仕方がない。というのも、小銃の使い方を教授するフィルセルの口が意外にも止まらないため、それに反比例するように璃久瑛の集中力が落ちてきてしまっていた。
「毎回お前は俺の分の菓子やらデザートなら食べるのは何なんだ?」
「偶に間違って食べちゃうネ!」
「リュウくん、それはダメだよ。流石のボクでもそんなことしない。ところで璃久瑛くん、キムチ食べる?」
「お気持ちだけ頂いときます」全く締まられねぇ~。弾む話の中で心の中で呟くことしかできず、この流れに乗るしかないと踏んだ。
「確かに勘違いって仕方ないような気がしますね。例えば今日も、クラスの女子たちが『花脇君が一番かっこいいかな~』って言ってるところ偶然耳にして聞き耳立ててたらドラマに出てくる登場人物だったことありましたよ」
「それは気の毒だな、ご愁傷様」肩をポンポンと叩きながら励まし言葉を送るウォックに好印象を抱く。説明が終わったのか話を聞いていないことに気が付いたのか、フィルセルが会話に参入する。
「大体顔面が腐ってるのにさらに趣味のわりぃ服着てる璃久瑛がそんなことあるはずないだろ」
制服の下に来ているアニメTシャツを指摘され、女子ウケと程遠い現実を受け入れざるを得ない。
「うぉおっ…フィルセルさん結構言いますね…それも否定できないところを」
「キモオタは、死ネ!!」
「リュウさん言い方きっつ!?」
「リュウくん。流石にそれはマズいよ。ところでキムチ、いる??」
「要らないって!!」
コントのようなやり取りを続けていると優気の組手を取っていた相手が怜真になっており、お互い切磋琢磨していた。こちらの雰囲気とは真逆であり、殺伐とした稽古が続いている。優気は四神化しているが、元々朱雀の力は攻撃力が低い点や怜真を纏う対神の使者用の防具が装備されていることからこのマッチアップが許されたのであろう。
「おいおいおい、修行積んでる優気に怜真は戦えんのか??」
「ウォックに同意。例え相手がトレーニングし始めたばかりとは言え結構戦えると判断できるな」
「四神化もできるしネ!」
「一体どうなるんだろう~」
「怜真は一応空手と合気道と剣道でそれなりの結果出してて、おっきい大会とかでも上位に食い込むくらいの実力あるんですよ」
「へぇ~そりゃすげぇこって。文武両道でおまけに顔もいい」
「どっかのキモオタと大違いだな」
「そこ!静かにしてくださいっ!!」
ウォックとフィルセルを纏めるように指で早々と円を描いて注意する。そんな戯言の中、序盤優気優勢の展開がひっくり返され、怜真が優勢となっていた。
「そこまで」とスサノオが止めると互いに寄与していた防具と力を解除し一礼をし組手が終了した。
スサノオの視点から二人の稽古やこれまでのトレーニング成果について、フィードバックを送っていると小さな女児が近づいてくる。スサノオの妻であるクシナダだ。
夫婦間で話すことかと気を使い、二人はその場を離れようとしたが「2人はそのままリビングの方行ってて、スサは上にいる使者たち呼んできてくれない?」と指示を受けた。何か説明しなければならないのことができたのか、優気と怜真は顔を見合わせ、取り敢えずリビングへ移動する。
家にいる限りのメンバーが席を埋めるとクシナダが前に立って呼び出した経緯を説明をし始めた。
「みんな各々作業中にすまないわね。今回は呼んだのは敵の使者に関する情報共有よ」
「情報共有?」璃久瑛が首を傾げて困惑する。
「そう。実は日本の至る所に士純の作った監視装置に私の神力を組み込ませたものを設置したのよ」
「それで使者を発見できたってことか。ただ、こちらの神力が仕込まれてるなら探知されそうじゃね?」ウォックの危惧に確かに、と優気は首を縦に振る。
「それは大丈夫。向こうからの探知は遮断できる作りにナってますから~」
「凄いな士純!」
「マジックミラーみたいな感じでバレないよ~」
「ド変態ネ!」
それは関係ないだろと否定するも、少し士純がにやけていたためそこからヒントを得たのだろうか。
また、クシナダの神力あっての装置のため、当人に神力消耗があるはずだが全くそんな姿は見られず寧ろピンピンしているため、クシナダの神力の総量に優気は格差を感じた。
「で、どこで使者の姿を確認できたんだ?」フィルセルが本題に戻してクシナダの話に耳を傾ける。
「それが、東京都内にある蔵前高校ってところで二人ほど確認できた。ギルガメッシュとアレスよ」
優気と璃久瑛は聞いたことのある高校名に「凱矢が行ったところじゃん」と反応を示す。
「凱矢って、柴内くんのこと?」
「柴澤な」
「そうだったそうだった」
「何で俺らと中学違う怜真が知ってんの!?」
璃久瑛が眉を寄せる。懐かしむ表情の怜真は「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりにどこか喜びを感じていた。
「小学生の頃偶に遊んでたんだ。クラスが1回も一緒になったことないから優気と璃久瑛以上に深い関わりはないけど」
中学時代。私立に進学した怜真以外の船堀高校、維持派組は凱矢といつもと言っていいほど密接な関わりがあった。大会に駒を進める健勇の部活が終わるまで、誰もいなくなった教室にて、優気と璃久瑛と凱矢の三人で駄弁りながら放課後を過ごす。そんな青春の一ページが各人の頭に強く残っていた。
強固な絆の中、高校進学後はSNS等の連絡が途絶えており、話題となれば行方が気になる。優気たちにとって、柴澤凱矢はそんな人物だったのである。
「何故その高校で使者を探知したのか。理由はわかってるのか?」
ジャンジャンの指摘にクシナダは小さく頷くと、何か神妙な空気感が空間を覆う。クシナダは暫く黙り込むが、解答をひねり出すよう姿勢に一同は息を呑む。
向けられた視線は一直線に高校生に向けられた。
「どうやら優気、あなたと勘違いしたらしいわよ」
その言葉を聞いた瞬間スサノオは吹き出し、大笑いが飛び出した。
「いーや、神力の判断もできないとは改革派も大変なっこって!あはひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
「確かにそう通りだな!ガァあハハハハハハハハハはっ!!」
「アンタたち笑いすぎよ」
そう注意するヘラも最初はクスリと笑う程度だったが、ゼウスの笑いが移ってしまいどんどんと笑いが込み上げてきてしまう。
「優気と間違えるのはドジだと思いますけど、相手に神力があるから勘違いしたんじゃないですか?例えば他の四神とか」
「あっ、確かに」
怜真の指摘に四神を宿す優気は気づかされた。力を持つ本人よりもいつも先のことを判断するのは怜真だ。これが文武両道たる所以であり、人間が努力できる範囲の素晴らしい思考である。
「その通り。他者の神力を判断できないレベルとは言ってもそもそも神力があるから勘違いが起こるってわけ。だからそれを調査してきてほしいのよ」
「何人くらいで行った方がいいんでしょうか?」璃久瑛が怜真に続くように質問する。
「そうね…学校に行くわけだから少数がいいことは確かね。今すぐにでも行きたいところだけど行くとしたら明日ね」
「問題は誰が行くかだな」
フィルセルの呟きを最後に周りに静寂が駆け巡る。優気たちも何か声を発しようとするも今は何も言うべきではないという雰囲気にのまれてしまい何も発言できなくなってしまう。
重い空気の中、「と、取り敢えずこの計画を行ったクシナダと士純は決まりだな」ウォックが声を震わせながら理由をつけて二人を推した。
「い、いや別に行きたくないわけじゃないけど~機械つくたから…僕とクシナダさんは免除だね」
士純の遠慮に顔を曇らせたクシナダが「そうね…そうね…」と背後で同じ言葉を呟く幽霊のように連呼する。
「わ、儂とヘラはまだ海外出張の疲れが取れて無くてな…べ、別に行くのが嫌だとかではないんだがな。全く老い耄れは辛いわい!な?」
「そ、そうね。いやぁだ、私ったら見た目は若いのに体力は落ちていく一方だわ…本当に辛いわ~」
優気たちはこの時点でようやく察することができた。
_______________この者たちは現場に行きたくないのだ。
確かに戦闘が発生した場合には死のリスクが伴うが、優気たちを除いたここにいる者は戦闘経験も豊富で基本殺される可能性はかなり低いはずである。従ってただ戦闘が面倒なだけなのだ。
「わ、私もいつもの発明作業とアダムへの定期連絡があるからな~」
「俺らも銃の整備とか研究の手伝いとか、ご飯作ったり粘土で模型作る練習しなきゃなんないから!な、フィルセル、リュウ??」
「その通りだウォック。中でも図画工作は欠かせないな」
「今度はスゴイ炒飯作らないといけないネ!」
璃久瑛は声をかけたかったが、ここまでの遠慮、もとい言い訳をするとこちらまで億劫になってきてしまう。
「あの…俺行きましょうか?」
優気の一言に全員がこちらをゾッと視線を送った。あまりの勢いに驚き、たじろいでしまうも自身の意思をはっきり伝える。
「驕りとかではないんですけど、もし戦闘が起こったらどのくらいまで戦えるのか確認しておきたいというか。あと、実は神の使者が現れた高校に僕の友達がいるんですよ。その友達がどうなってるのか気になるから行こうかなって」
「本当か!じゃあ師匠である俺も行こうかな!」
「スサ、あんたはやらなきゃなんない用事たくさんあるでしょ?」
沈黙のスサノオ。怒りを露にするクシナダ。小さな女児に揺さぶられる大男の姿は異様である。
「身内のことでしょうが!!何で忘れてんのよ~!」
そうでした、と打ちひしがれるスサノオを他所に他のメンバーから感謝の眼差しを向けられる。
「僕も行っていいですか?」
「璃久瑛はダメでしょ。神の使者じゃないから危ないし」
「安心しろ。最近完成した装備があるからそれを使えば死ぬこたない」
「マジか!ウォックさんが全部作ったんですか?」
「いや、全部ジャンジャンが作った」
「他人の作品かいっ!恰も自分が作ったような言い回しだったから見事に勘違いしちゃったじゃないですか」
璃久瑛の勘違いに後頭部を擦るウォックの表情はにやけ面を浮かべていた。制作者のジャンジャンは顎の下に手を置き、何かを検討していた。
「確かに新しく出来た装備は実用的かもしれないが、万が一があるからな。もし、何か不備があったら無理せず引き返すんだぞ」
分かりました、と璃久瑛は敬礼を添えて承知する。
「取り敢えず僕とりっくんは決まりってことで。後健勇も呼んで良いですか?明日休みって言ってて、あいつの身体能力は人間越えですし」
「まぁ旧友がいるならいいんじゃない?もし彼の用事が終わったら誘ってみて」
予想外の軽さだったが、健勇を呼ぶことに了承をもらい怜真も誘ってみるも明日は部活があり、行くことはできないとのことだった。もう一人の戦力は必要不可欠だったため、残りの者でじゃんけんを行い生贄を駆り出す。
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「いい?優気と璃久瑛と健勇の3人で隠密に調査をすること。ゼウスは基本距離を保って3人を見守り、緊急時に駆けつけること。いいわね??」
「『はいっ!!』」
「儂は昔あれほどまでに強かったのに、遂にじゃんけんまで衰えてしまったのか…」
途轍もなく落ち込んでいるゼウスに「いつまで引き摺ってんだよ~」「老害」「過去の栄光に浸る激イタジジィ!」「豆腐メンタルクソジジィ」「ド変態ゼウスのチンポは3センチ!」など余りにも劣悪な誹謗中傷の野次が飛ばされる。
「おいそこまで言わなくてもいいだろ!!」
「いっますぐ、チンポを切り落とせ」
「ヘラまでそんなこと言わないでくれぇ…」
結果はゼウスが選ばれ、優気、璃久瑛、健勇、ゼウスの四名で翌日の放課後、蔵前高校へ赴くこととなった。どのようなことが四名に降りかかるのか、予想外の結末にこの時はまだ知る由もなかった。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




