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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
蔵前高校編
37/133

第37話 謀られたことも知らない哀れな人間くん

 学校終わりにワッドナルドに寄り、二階の店内スペースに移動するとアレスとギルが座っている座席があった。そこには会いたいと述べていたロキという人物も同席している様子で、近づくことを躊躇してしまう。


というのも、甲冑を身に纏い背筋を伸ばす者と腕を大きな布で覆い不機嫌そうな者がセットにいる姿は周りの目を引くのに十分すぎる格好であり、傍から見ると近づきたくないものである。そんなことを考えていると二人に気づかれ、彼らの席に向かわなければならなくなってしまう。


「遅れました。待たせてすみません」


「もうオーダーは済んである。さぁさ座れ」


アレスに着席を促されるとその席はロキを対面に置く席であった。大きなドリンク啜っているからか、幼く整った見た目はより際立って見え、裕福な家の子供のように見受けられる。


「君がえぇっと凱矢(ときや)くんか!僕はロキ、よろしくね!」


「こちらこそよろしく」


第一印象は爽やか。しかし服装は真っ黒。何とも言えないギャップだが、子どもっぽさがやはり強く出ていたこともあり、自然と凱矢は気が緩んだ。


 早速話したい内容に入ろうとしたところに注文済みのギガサイズのポテトと通常サイズの三倍のハンバーガーが三十個ほど届く。特大サイズのドリンクも到着し、小さな机に大量のファストフードが並ぶ。これらを会計するとファストフード店ではなかなかお目にかかれない金額となり、アレスとギルの性格を考慮しつつロキのことを念頭に置くと本当に支払ったのかどうか勘ぐってしまった。


「食べながらでいいから内容に入ろう。まず名前を教えて」


柴澤(しばさわ)凱矢です」


「あ、えっと、柴澤くんね。今何してるの?」


「高校生で勉強してます」


真面目なんだね~と感心ありげな返答をするが、ロキはハンバーガーを食すことに大半夢中になっており、興味のないことが露呈する。


「学年順位とか何位くらいなの?」


「大体トップ10前後じゃないですかね。特に上位に居ればいいかなって思ってます」


「すごっ!優秀だな。どこか行きたい大学とかあるの?」


「今のところは地元の船堀(ふなぼり)大学か、国公立とかですかね」


「やっぱり優秀だ!!けど、この高校自体はそんなに偏差値高くないけどもっと高いところいけたんじゃないの?」


 ものすごく勉強のことについて聞かれ、若干のうざったさを感じる。もっとこちらも聞きたいことがあるのにこれじゃ向こうの質問攻めで終わると危機感を少し抱く。何だかこの話し合いは聞かれたくないことを聞かれそうだと察し始めた。


「いやぁ本当は船堀高校行く予定だったんですけど…なんというか、距離を置きたい人と進学先が被らないようにしたらこうなりました」


「それが神崎優気(かみさきゆうき)くんか!あの子ヒョロヒョロっとした子と何かあったの?」


不意を突かれたように優気(ゆうき)の苗字が呼ばれると体少し反応する。若干のデリカシーの無さは優気に通ずる物がある。


「やっぱりね。中学時代に何かあったの??」


やはりきたか。踏み込まれたくない事情を閉ざすドアノブが開けろ開けろと言わんばかりにガチャガチャと捻られる。自身の内情を打ち明けるのには億劫であり、今まで優気の耳に入らないように隠していたが、それが視界に入る者たちによって無に返るのはやるせない。


しかし、目の前にある大量のファストフードを見ると、求められる会話の終えるのに申し訳なさを感じてしまう。沈黙の末、凱矢は口を開いた。


「…簡単に話すと、中学3年入ったくらいの時にウチの家系が裏社会の家系ということが発覚して、巻き込みたくないから離れたって感じですかね」


理由を話した後に後悔が身を襲う。何でこんなに商品頼んでんだよ。絶対に消費しきれないだろ。そう考え横を一瞥すると一瞥ではなくなった。この席に商品が届いてから五分くらいしか経過していないが、もう半分が無くなっていた。あり得ない消費の早さに啞然とするほかなかった。


「そうだったんだ。それは心苦しいだろうね」

同情するロキの言葉に集中を戻し話を続ける。


「は、はい。父もそれなりにやる気で、色々面倒です」


「そっか、今も大変そうだね。生活に支障が出てなきゃいいけれど…大丈夫?」


「そこは達観というか落ち着いて対処しているので大丈夫です」


「そっか!それは良かった!何か辛いことがあればそういうのに対処できる組織とかに声をかけてみるといいよ!頼りないかもしれないけど僕らでもいいし」


「組員もまぁまぁ多いんでプレッシャーも凄くて…最近は基本部屋の中に引きこもってますね」


何でこんなことを打ち明けているのか凱矢は不思議で仕方なかった。家庭事情なんて話したところで話が重くなるだけで、聞いてる側はたまったもんじゃないことはわかっていた。


しかし、口からほろほろと返答が止まらない。実の父親からのネグレクト、会いたくても会えない離婚した母、話したくても話せない友達。自身に降りかかる複雑な事象を誰かに聞いてほしかったのではないか。目の前の大きなハンバーガーが恋しくなり、懸命に頬張り始めた。


「あっと、そのハンバーガーもポテトも好きなだけ食べていいからね。僕が払うから」


「ありがとうございます」


そう応答すると凱矢の目に薄く涙が浮かんできた。たまにファストフードは食べるし、味もほとんど普段と変わらない。ただいつもの商品よりも温かく感じる。この温かさが凱矢の心も温かくしてくれているようだった。ロキは気づいていないのか、同じテンションで話を続ける。


「けどさ、中学まで物凄く仲の良かった親友と離れるなんて後悔とかないの?」


後悔、その言葉に凱矢は言葉詰まる。日常から楽しみが消え、高校も満足のいくところへ行けず、家庭生活の面でも苦しむことが増えたこともあり、最初の二年ほどは精神的にも厳しいものがあった。しかし、今では新たな日常に慣れたことで、不自由さも理不尽もつまらない日常にも適応することが出来ていた。


「今ではそんなに感じないですね」


ほーん、と適当な相槌が返されるも顎に手をやり「なるほどね~」と何かを理解したのか何かに納得していた。


「ごめん、もう一回名前を聞いていいかな?」


また、名前を忘れたのか、再度ロキは凱矢の名前を問う。


「はい。柴澤凱矢です」


「やっぱりそうだ。アレス、柴中(しばなか)くんじゃないじゃん」


「え、澤村(さわむら)くんじゃなかったっけ??」


「ちげぇよ、こいつの苗字は(さわ)だよ」


「いえ、柴澤です」


ふざけているのか、全く名前を覚えようとしない彼らに苛立つことをはなかった。寧ろこんなやり取りをしたのは何年ぶりだろうか。「あのさ柴澤くん」ポテトを何本も摘まむロキが話を再開する。


「君、嘘ついてるでしょ?」


鋭いロキの視線も相まって唐突に突き放された言葉に凱矢は息が止まった。噓をついているつもりはなく、ただ事実を述べただけなのに何故このようなことを言われたのか意味がわからなかった。


「ぼ、僕は何か言いましたか?何か気を悪くするようなことがあったらごめんなさい」


「いや全然気なんか悪くしてないよ。ただ君は嘘をついてる。気づいていないのなら、それは過去に君が君自身に嘘をついたってことかな」


詳細な説明を受けても凱矢はピンと来ず、静かに狼狽えていた。何か心の中を覗き込まれ、自分でも気づかない部分を観察されているような新たな不快感を覚える。


「僕はそういう半端者、好きじゃないんだよね」更に凱矢を突き放し話を続けた。目の前に積上げたポテトを崩して話だけに集中し始める。


「本心を隠しながら自分勝手に生きる。迷惑をかけないように周囲と合わせるけどその分どこかで自分勝手に事を進める。埋め合わせは一方的で、自身でも非だと感じていないから、どこかで自分に不利な現実が見えてくる。有利な現実を見たいから他人を蹴落としてそこに立ちに行く。これってさ、正しいと言えるかな??」


「い、い、言えな」


「そうだよね!周りに合わせてるって言っても自分に利になることしか合わせないし、結局は自分の物差しでしか測らない身勝手なやつなんだよね~。特にさ、正しさを振りかざす奴。自分の正しさを強要する癖に相手の正しさは一向に理解しない奴とかは害悪でしかない。それって最初から相手に正しさを吹き込むっていう上の立場に勝手になっててさ、本当にお前は神か何かってぐらい目線が違う。高慢でうざったい(ケダモノ)だよ。まぁ相手を理解しようとしない奴もまた害悪なんだけどね。どっちも同じレベルってことよ。確かに_」


立て続けに話が止まらず凱矢は臆する。というのも今までの行い、関係、感情など、自分に当てはまる事象を想起すると、正しいと思っていたことは過ちであったのか、良い選択は悪しき間違いだったのか、ただひたすらに考え込んでしまっていた。バカにしていたことは別のベクトルでは正しかったのかもしれない。信じていたものは、相手からあしらわれていたのかもしれない。その場で取った行動はその場でしか報われておらず、その後には悲惨なものに昇格していたのかもしれない。


_________________________解がわからない。


ロキから放たれる言葉の螺旋が凱矢の心と体を遠ざけていく。


「だからさ、柴澤君はできるよね??」


「えっ…あっ、はい」


「良かったぁ~!!それならまだ希望があるよ。本当にありがとう!!」


話を聞いておらず、その場凌ぎの適当な解を出すとロキの表情は満面の笑みを浮かべていた。それは純粋無垢な小学生が喜ばしいことに対して顔をくしゃくしゃにしながら喜ぶ姿に酷似していたことから、凱矢も少し気持ちは晴れないが、喜ばしい感情となる。


「はぁ、ありがとうございます」


 喜びで心が少し高鳴ったと思うと、感謝を述べた凱矢の意識がなくなり体も全く動かなくなる。ロキは前髪を掻き上げて大きく体全体で伸びをした。


「これで足掛かりは掴めたなぁロキ」


ギルが喜び混じりの言葉を発しポテトを口へ放り込む。


「そうだな。なんなら実験材料も増えたしネタも浮かんでくるね」


「全体的に良い収穫だと捉えていいんだな?」


「いや、ここからだ。アレスとギルガメッシュ、そろそろ戦闘の準備でもしておけ」


「やっとかぁよぉ」「任された!」


ロキの手元に神器(じんぎ)のペンが現れ、凱矢にそれが向けられた。アレスとギルは急ぐことなく、あまりの食事を頬張り残飯処理を全うする。


「にしてもやっぱり日本人は便利だな。勝手に察して駒になってくれる」


ロキはニヤニヤと笑みを浮かび茫然としている凱矢に語り掛ける。


「じゃあ、少しいじくりますか」

「ったく時間かかる()()だなぁ」

「場数は踏むが、強力だからな。最後のサラダフレッシュネスワッパーいるか?」

「勿論。オメェはもっと野菜を食うべきだぞ。野菜があるからバンズが引き立つんだよ」

「ポテトでいいだろ」

「油で揚げられて塩まみれじゃねぇかぁ。あぁ?」

「だって味が面白くないだろ」

「おい、もっぺん言ってみろ」


ギルとアレスの激論を他所に、ペンを空中で振るい能力を行使するロキはその行動に自身でも笑みが止まらなかった。喜びの中でも卑劣なことに対する喜び、悪しき行動だと理解しており、悠々と行うその効力に先が楽しみで仕方なかったのだ。

ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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