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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
蔵前高校編
35/133

第35話 璃久瑛が1人、璃久瑛が2人…

 「あの…すみませんありがとうございました」


「礼はいらないよ。こっちこそ飲み物かけられる前に動けずにごめん」


「いえ、私こそ全然大丈夫です。っというかブータンのこと詳しいですね」


「いや、こないだニュース見てたら関連記事出てきただけだ。んなことよりそんな恰好で帰れないだろ」


凱矢の言った一言に反応し、女子生徒が服に目をやると下着が透けていた。恥ずかしがるように手で隠し、凱矢の顔を見ると少しニヤけていることがわかったため女子生徒は反射的に頬にビンタをかます。思わずそんな行動を取ってしまった女子生徒は謝罪するも、「そうできるなら先の奴らにかませよ」と正論を漏らす。


 上着を渡し、いつか返してくれればいいと伝えると女子生徒から感謝を伝えられた。女子生徒はその場を去り、凱矢も教室へ戻る。振り返ればホームルームが終了した他クラスの野次馬の影も少々あり、一連のやり取りを報告されたら面倒事になるのは間違いないだろうと肩を落とす。


野次馬の中に知っているアニメのキーホルダーをぶら下げている男子生徒がいた。そのアニメキャラクターは自分の正義を曲げることなく、どんな逆境にも臆せず立ち向かっていくキャラクターなのだが、最後は主人公を庇い死んでしまう。普段アニメをあまり見えない凱矢にとって、その芯のあるキャラクターにかなりの好印象を抱いていた。そのアニメは大作であるもののマイナーなアニメらしく、あまり見かけないため若干興奮してしまう。


「これ、斎条正義(さいじょうまさよし)じゃん」


久しぶりに見たキャラクターに反応していると、キーホルダーをぶら下げている当人に反射的に話しかけてしまう。


「あ、あの、このアニメ知ってるんですか…?」


「あぁ、中学の頃にめちゃくちゃアニオタの友達が居てな。そいつに半ば強引に見せられたんだが、結局このキャラに魅せられて最後まで見た」


「そ、そうなんですね…」


男子生徒は緊張しているのか、おどおどとしており凱矢と視線が合うことはなかった。目が隠れる程に伸びた髪が彼の心情を表しているように見える。


「『目の前に悲劇が起きたのなら直ちに動き出す』そうできるといいな」


俺も君も、とそのキャラクターのセリフをかけると男子生徒の表情は一気に固まり、目覚めさせられたような顔に変わる。要は男子生徒の前に先程のようなことが起こったのなら立ち向かえ、というメッセージを凱矢なりに伝えたのだ。少しはっきりとした顔つきになるのが窺えたことを確認すると、教室でホームルームが始まりそうになったため自席に戻った。


____そう言えば優気(ゆうき)璃久瑛(りくあ)健勇(けんゆう)も、あいつらの高校生活はどうなってんだろうな。


ホームルーム中。窓の外で下校していく生徒を見て、嘗て仲の良かった友と呼べる存在を思い出す。


___________________________________


 ホームルームが終わり、即帰宅とはならず、この日はクラスの古文の課題提出係に就いていたため回収されたノートの点検を行なわなければならなかった。もう一人係に就いている者がいたが、近々部活動の大会が控えており、どうしても練習に励みたいとのことだったため仕方なく一人で作業をこなす。


提出していない者には改めて確認を取りに行き、それでも提出しないようであるならば受け入れ、未だに作業中で終わりが見えてきた者の分をしっかりと待っていた。


 今日分のノートを回収し終わり職員室へ行くその時だった。


「お前が神崎優気(かみさきゆうき)だな?」


教室の入り口から見知らぬ男二人が立っており、その内の一人が声をかけてきた。派手にコーティングされた左腕が目に余り、傍に佇む男も赤く大きなマントを背に甲冑を被っている。男二人は明らかに学校の者ではなく、勝手に学校に忍び込んだ不審者と判断できる。


何より、急に知り合いの名前を呼ばれたので一瞬何のことを言っているのか理解に苦しんだ。


「えっと…人違いだけど、何故優気のことを知っているんだ??」


これまでに絶対と言い切れるほど関わりはないような風貌のため、何故知り合いのことを認知しているのだろうか。


「他人ズラしやがって惚けてんじゃねぇよ。マジでぶっ殺すぞ!!あぁん!?」


「ギル、今回の目的は朱雀の回収だぞ。決して殺すな」


「そうだなぁ、アレス。スサノオが居ねぇ今ここでボコってこっち連れてこうぜ!!」


よくわからないが、脅迫まがいなことをする男は手元が輝きだし、不審者の身長程の槍が現れた。


ギルと呼ばれる者はアレスという者に宥められるものの、凱矢(ときや)は彼の瞳からただならぬ殺意を感じる。殺すという言葉は軽々しいが、槍のような物を持った時の構えから脱力感はあるものの芯は軸としてブレないところが、表に溢れ出ることはなく、自然な殺意として受け取ることができたのだ。それはもう既に何人もの人々を殺してきたように感じられるものであることも間違いない。


「いやいやちょっとマジでどういうことだ!?つか、アンタ絶対何人も人殺してるだろ…?」


「当たり前だろ。使者の歴史は古いんだからよぉ…お前の能力はとは真反対だな」


「使者?能力?さっきから何を言っているんだ?本気で」


こいつは本当にあっち系のヤバい奴だ。璃久瑛以上の厨二病が居たとは思いもよらない出来事である。目の前の男たちに畏怖を感じ、距離を置きたくなるも、不審な行動と受け取られ殺される可能性もあるためその場に立つ状態を続けるしかなかった。


「はぁーんわかったぞ。そうやってお惚け装ってスサノオやらゼウスやらで総攻撃仕掛けてくんだろ。そんなこっすい真似しなくても俺にぶっ殺されるのはハナから決まってんだよ!!さぁ!!来い!!」


大声を教室に響かせるも何も起こるはずなく何秒も沈黙が続く。理解が追い付かない凱矢は「だから何も起こらないよ」と冷静な対応に応じる。


「ギル、どうやら人違いの可能性が高いな。これは」


「騙されてんじゃねぇぞアレス!!目の前に神崎優気がいることは確かなんだからよ!!」


「だから神崎優気は俺じゃねぇ。ましてやこの学校の生徒でもねぇ」


きっぱりと答える凱矢にギルはまだまだ疑いの目をかけるが、アレスは相手の表情、仕草、体の変化、神力の動きなどから重く観察する。


「神崎優気じゃないとなると、君は一体誰なんだ??」


柴澤(しばさわ)凱矢。ここ、蔵前(くらまえ)高校の高校3年だ。神崎優気は中学の頃の、その…知り合いだよ」


「アレス…これって…」遂に気づいたかこのアホ。

「あぁ、完全に別人だな…」

「だからさっきから言ってんだろっ!!」


今日の六時間目終了二時間以内にどれだけ変な奴らに絡まれたことか。夕陽が差し込む教室に一人の高校生と二人の人間と思われる者。この一日が凱矢の運命を大きく変える日であることにここにいる誰もが想像していなかった。

ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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