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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
蔵前高校編
34/133

第34話 柴澤凱矢

  六時間目の授業を終える鐘が鳴り響く。帰りの準備を整えていると近くにテニスボールが顔付近までバウンドしてきた。若干狼狽えてながらもボールをキャッチし、前に目をやる。どうやらテニス部の生徒がラケット上でボールを弾ませていたらしく、手を挙げて返球を求めている。軽く投げ返し感謝の会釈に応じるも、内心部活の時間まで我慢できないのか、とほんの少しだけ苛立ってしまう。


もう少しでホームルームが始まるというのにクラスは静まる気配は一向にない。そんな中、強面で友達という友達が高校に居ない柴澤凱矢(しばさわときや)は先程から静かに着席していた。


 時間が手に余るためSNSを通してニュースなどを見聞していると最近物騒なことが多いためか、事件性があるものばかりが目に止まる。世界で相次ぐテロ行為、日に日に悪化する海外の戦争及び紛争事や、自殺、殺人、貧困、いじめなど多岐にわたるマイナスなニュースが昨今は増えている。


人口減少を食い止めるため様々な国の人々が定住しやすくなると、徐々に移民の受け入れを拡大。結果、悪化した治安は毎日のように報道されている。


約十年前。財務省が解体され、社会保障費の見直しがされ、一時の経済成長を見いだせた。しかし、その現象はぬか喜びとなる。正常な状態が衰退かのように、経済成長は再び下降線を辿ることなる。


更には上下格差が激しくなると、どの街にもホームレスが出没し、十分な教育を受けることができないヤングケアラーの増加など、過去から提言されていた問題は一行に解決に向かわず、ほんの一部の人間しか得をしない状態であった。


戦国時代に君臨した意地の悪い領主のように、自身らの家臣には手厚い保障がされているが一般の国民には何も還元しない。今の日本はそんなケースに近かった。


他にも一般中小企業の正社員たちによる集団自決のニュースが流れてきた。どうやら原因は上司のハラスメント問題で、いい歳をした大人が自己保身のために他人の尊厳を踏みにじるのかと人間の質の浅ましさに失望がやってくる。


 社会には余裕がない。そんな現実を知り、マイナスな気持ちで他の話題を閲覧していると、どうやら廊下から罵声のようなものが聞こえてくる。教室内にいる者らはそれぞれの談笑に夢中なのか、あまり感心が無いのか、外には目もくれていなかった。退屈だったと言えば他人事だが、気になったため凱矢(ときや)は席を立って廊下へ向かう。


 何の意識もせずに左右に体を傾けて現場を確認すると、男子三人と女子一人の構図で女子に詰め寄る男子生徒の姿がそこにあった。


「おめぇのせいで制服びちょびちょだわ!!どうしてくれんの!?」


「私の不注意で…本当にごめんなさい!」


どうやら女子が手に持っていた何かしらの飲料が詰め寄る男子生徒の制服に掛かってしまった様子だった。白いワイシャツが茶色く変色し、かなり目立っている。コーヒーかコーク系統の炭酸飲料だろう。


凱矢が同じ立場の場合、意図しない事故であるため許せる範囲の問題であり、そこまで怒る必要はないと判断できるがこの男子生徒は髪型や制服の着こなし、背負うリュックサックなど外見をかなり重視している人物だとわかる。

「本当にごめんなさい…」


「さっきから謝っても許せるわけねぇっつってんだろうが!」


廊下に激しく恫喝する声が響き渡り、女子生徒の手は震えていた。止めに入ろうとしたところであることに気づかされる。


「ってか君A組のハーフの子じゃん。どこの国出身なん?」


「珍しいところですから知らな」


「いいから早く言えよ。今時色んな人がいるんだから」


「ぶ、ブータンってところです…」


「え、何、ブタ??ぶははははははっ!!!!こいつブタと人間のハーフだってよ!!」


「なるほど!餌頬張る時に地べたに顔擦りつけてるから肌が黒いのか!納得したわー」


彼らの発した言葉に拳を強く握りしめ、煮えたぎるマグマが込み上げくる。怒り、憐れみ、庇護、憔悴、軽蔑、色々な感情が混ざり合っているからか彼らの元へ向かう歩調はゆっくりだ。


「ち、違います」飲料をかけられた男子生徒はバッグからスポーツドリンクを出し衝撃の行動に出た。


「はいお返し。人間からのありがたい飲み物だよ。ブタさん、ありがたく飲めな?」


何と、自身の持っていた飲料を相手にかけたのだ。相手は何度も意図してやったことではないと伝えており、事故であることは明らかというのに。高校生にもなって相手を厭わない強情な気位と高校生なのに理性を欠き、感情だけで物事を判断する拗れた思考回路に凱矢は理解が追い付かない。終いには「もう一本俺のもあるけど」と横にいた生徒も同調し、その愚行に加担しようとしていた。


「もうやめてください。本当にごめんなさい」

「謝って済むなら警察いらねぇだろうがよ!!」


彼らの大変煩わしい行為に啞然としていたため歩調が止まっていた。流石に凱矢の堪忍袋の緒と血管が切れ、その行為を止めるため不意に出た大きな声で止めに入った。


「おい、しょーもない差別ネタでゲラゲラ笑う知恵無しゴミ屑共」


劣悪な蔑称で呼びかけると男子生徒三人は同じタイミングでこちらを振り返る。


「自分のだーいすきな見た目事故って汚されただけで女いじめやがって。沸点3度かよ。短期さにも知恵の無さにも鳥肌が立つし…ダッセェのは外見だけにしとけっつうの」


「あぁ?テメェ何つったおい」

「部外者が関わってんくんじゃねぇよ」

「お前、俺らんことディスってんのか?」


完全に標的が凱矢に変わり、三人はゆっくりと詰め寄ってくる。凱矢は怯まずに進むと三人に囲まれるような形となるため、嫌がらせを受けた女子生徒は凱矢の方を心配そうに見つめていた。


「ひでぇことした奴らに言っちゃいけねぇことなんか何もねぇよな?あぁ?」


自分は他者を貶すが、自分が貶められたら腹を立てる。こんな浅ましく稚拙な考え方に理解ができず思わずニヤけてしまう。


「ヘラヘラ笑いやがって…調子こいてんじゃねぇぞ!!」


沸点に達した怒りが拳を作り凱矢に投げられるも、がっちりと手首を掴む。男子生徒は自信満々に振るったパンチがいとも簡単にキャッチされたことで驚きを示していたが、徐々に強まる凱矢の握力により顔を引きつらせていく。


「これは俺に暴力を振るったってことだよな?じゃあこっちもやらせてもらうわ!!」


言葉を発しながら右足で相手の腹を思い切り蹴とばし、握りしめていた手首を反して背負い投げる。一人相手にしただけだが、殴る時に腰が入っておらず、腕だけの攻撃となっていることからあまり喧嘩に慣れていない格好だけのイキリ野郎ということが判明した。そんな分析をしているとそれに抗うように残りの二名もこちらに向かってくる。


腹付近へ向けてパンチを振るってきたため一歩引き二発目を同じように躱す。四発目に威力の落ちたパンチを相手と並列になるように躱し、相手の小手を掴んで小手返しを食らわせその場に寝そべらせる。


最後の一人も馬鹿の一つ覚えのように殴りかかってきたが、顔面にお返しをくれてやると体をよろけながらも耐えたため、鳩尾に肘打ちを食らわせ座り込ませる。


「さっきから女が事故じゃねぇって謝ってんだから許せや!!この学校、いや、人間の恥晒しがよ!」


あまりの程度の低さに大声で怒りをさらけ出す。その声に三人はビくりと体を跳ねさせ、よろめく体を重りに距離を置こうと必死だった。


「それと、ブータン王国は国民総幸福量が世界一で、日本筆頭の援助国なんだわ!そんなんも知らんでバカにしやがって…テメェら知恵無しアンポンタンは何考えてんだ!!?」


「ひぃ、ごご、ごごごめんなさい」「許してください」「す、すみばぺんでじた」

「謝って許されるなら警察いらねぇよな!?なんならお前らから手出したんだから3人ブタ箱行きだわ戯け共が!!」


凱矢は男子生徒たちが声を失いながら怯えている姿が目に付き、段々と目障りに感じたため苛立った表情を浮かべてしまう。


「自分の非を認めたんならこの場からさっさと消えろ!!」


なかなか動き出さない馬鹿者三人にもう一度「早く消え去れ!」と大声を放つと怪我を負っていたのにかなり早い足取りでその場を去り、完全に退散したことを確認する。怒りが圧し掛かっていた肩の荷が降りていくが、久々に気分を最大にまで害した罵詈雑言は消化しきれず、腹の虫は完全に収まっていなかった。


ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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