第32話 救援
日本、某所。大自然と田畑が広がり野生動物の姿も見られるといったところに一軒ポツンと佇む家は、ライブステージにアーティストが立つ場所と同等に目立っていた。
広大な土地を生かして農業を行っており、庭には二羽鶏を飼育して自給自足の日々を送っている。そこに住んでいるのであろう外国人三人が必死に育てた大根を収穫していた。
彼らの背後には人参や玉葱、バジルやズッキーニなど沢山の種類の野菜を収穫しており、残された大根を収穫して作業は終了を迎えるところだった。タンクトップ姿から見える鍛えられた筋肉と引き締められた肉体から六月の蒸し暑い気候も相まって汗が噴き出る。その汗は無事に野菜を育てることができた万福の思いと歓楽の気分が混ざったものであろう。
白人の男がなかなか踏ん張っても採れない姿を横目に、他の二人は自身の収穫に打ち込む。採れたと思うと勢い余って後ろから倒れこんでしまい、サイズは以外にもかなり小さいものだったため、労力に差のある行動が如実に表れたことで三人は笑い合う。
回収作業が終わり、家に戻ると青黒い肌をした珍しい男が更に真っ青な顔を浮かべて三人を呼ぶ。何かを察知した三人は野菜を積んだ籠を縁側に置き男の下へ走って向かうと、たった今起こったことの報告と、途轍もない敵が近づいているとのことでそれぞれが戦闘準備に入った。
外の大自然とは真反対に、機械だらけの部屋に入り各々がコンピューターを起動させると部屋の空中に画面が展開され対応プログラムを展開する。
「疑似結界展開完了。ウォックはこちらに近づいて来る敵の判別を。リュウは優気たちの方映して現状報告をよろしく頼む」
了解、と指示を受けた二人は受諾し、それぞれの目的をこなしていく。ジャンジャンは強張った様子でフィルセルに現状を聞き取るとさらに身構えた。
「優気の後に入った怜真がトールの時間稼ぎ中ってとこだな」
「なるほど。本当に仲間にしておいて良かったもんだ」
「そして、敵判別終わったぞ。半身半人、ギルガメッシュの可能性が高いな」
「ギルかぁ…本気で時間稼ぎしてもいずれ殺されそうだな」
強力な敵相手に落胆と絶望を感じるジャンジャンは顔を抑えて困惑した感情を読み取れる。ギルガメッシュとは前にアジトに現れたヘラクレスと同じ、半身半人の『神の使者』である。
名前通りに右半身が使者の力を持ち、左半身は人間の身と、ヘラクレスと対になる身体であり、神の使者の中でもかなり稀なケースであることは間違いなかった。
安直に考えると身体の半分が人間ならば、他の『神の使者』の方が強いと判断できるが、これは大きな間違いだ。半身分の神の使者の力が強過ぎるがあまりに半身が人間なのだ。その実情を把握していたジャンジャンは戦闘に秀でていないため、心中怯えるばかりであった。
「ジャンジャンなら行けるって。あの世に」
「まだ逝きたくない」
「家周りに疑似結界張ってあるから好きに暴れることだな。悪いけどシステムの限界であの世までは張れてないけど」
「死ぬ前提で助言しなくていいから」
「もう、死ネ!」
「リュウぅぅぅぅうぅぅうぅぅぅぅうううぅぅぅッ!!!」
仲間からジョークで和まされるが、ギルガメッシュが疑似結界に入り肉眼で確認できるようになると再び緊張が増す。震える声で「わ、私のミラクルパンチでやっちゃうぞ…?」と意気込むも完全に腰が引けており、小さな四足歩行動物のようにも見えてしまう。
いよいよギルガメッシュがアジト本拠地付近に近づいたところで生きて帰ると心中を定め、部屋を出ていこうとした瞬間だった。空中から見たことのある男が直下で降って来るや否や敵を殴り飛ばしたのだ。それは一瞬のことであり、凄まじいスピードで落下したため大きな土煙を上げていた。
機械で拡大してみると出張から帰ってきた味方陣営、ゼウスがこちらに手を振っている姿を確認した。
ビッグネームとは裏腹にだらしない体たらくは前と変わっていなかったが、ジャンジャンは殺されていたのかもしれない状況だったためか、そんな姿さえも魅力と思えてくる。
「お前ら危なかったな」
「あぁ本当に感謝。まぁ私のミラクルパンチを見せることができなかったことが唯一の残念だがな」
さっきまでめちゃくちゃ震えてたのに…。三人は声を合わせてそう言うとギルガメッシュが姿を現した。
「ゼウス!てめぇまだ生きてたのか!ハデスの時に死んでると思ったが、効果で|神力《じんりょく》がねぇから生きてるかどうかわからなかったぞぉお!!」
想像以上に大きな声を上げるため結界内に置かれたスピーカーがアジト内でハウリングする。
「だが、そのおかげで貴様に一撃食らわすことができたわい」
「るせぇなぁ!汚ねぇボロ雑巾みたく使なくなったジジィがよ!!」
対戦闘用にギルガメッシュは能力を解放をすると右手が光に包まれ変化し始める。手元にはマチェットが現れるも不機嫌な顔で神器を睨みつけた。
「クソッ、マチェットかよ。まぁ神力無しの無能高齢期ジジィをぶっ殺すのには事足りるなぁ!!」
「さっきから口が悪いぞ。ま、まぁ落ち着きなさい。な?」
「いきなり腰引けてル!!ジャンジャンどゆこト??」
首を傾げるジャンジャンだったが、リュウにゼウスの詳細説明を話したことがなかったため、口を開いた。
「色々あってゼウスは神力が無い。そして、老い耄れて戦闘技術も無い」
「さっきのは不意打ちだったからってだけデ、ジャンジャンが増えただけネ!!」
その言い方やめろ。無感情でジャンジャンは即座に否定すると、他の二人から現場の危険性を慌てながら伝えられる。反応能力、動き、細部に至るまで数値化しても極めて危険なマッチアップなのは間違いなく、ジャンジャンが援軍に駆け付けなければならないことには変わりないと判断できた。
「いや、私の行く必要はない」
「このままだとゼウス死ぬぞ!!」
「奴が来たら奴も来るはずだ」
マチェットを振りかざそうとしたギルガメッシュの右腕が思い切り後ろに引っ張られる。何が起こったか全くわからず、怪奇現象のような絵面が映ると、空から妖艶な女性がゼウスの近くへ降りてきた。
「た、助かったぁ~流石我の嫁よ」
「我の嫁ならもっとあたしに感謝することね」
「ははぁー!ありがとうございますヘラ様ぁ!!」
ヘラという者は大きな溜息をついて「欲しいのはそういうんじゃないのよね…」とさらに声を漏らした。
しかし、ギルガメッシュはヘラの攻撃が解かれると、少し離れて距離を置く。攻撃を受けた腕を擦り、骨を鳴らして患部の平常を確認する。
「ちっ、ヘラも来やがって…ジジババ夫婦仲良く降臨ってか」
「オイ、半人のクソガキ。お前今あたしにババァって言ったな?テメェゴラァ」
「あぁ言ったぞ。使者としての役割を何も果たせない鈍い男。そして女として役目を終えて後は死ぬだけの害である邪魔ババa」
罵詈雑言によって沸点に到達したヘラは拳をその場で振り下ろし、能力と思われる力でギルガメッシュの体を沈まらせた。その攻撃によりギルガメッシュは悲鳴を上げるも肺が上空から圧縮され声が出なくなる。
「お、重いなぁああああテメェえええ!!!」
身動きが取れないギルガメッシュに軽蔑の目を向けながら神器のナイフ二つを手に現した。紺色のその瞳からは本気度が伺え、今ここで葬り去る殺意がこの場にいる誰しもに感じられる。
「ちく、しょう、動け、ねぇぇえなぁぁぁぁぁぁあああああぁ!?」
ギルガメッシュの直前まで近づき、ナイフを心臓に向け突き刺そうと試みる。何とか屈んだ状態にまで体制を立て直し、睨みを利かせるギルガメッシュに「滑稽ね」と煽ると、厳しい状態で不審な笑みを浮かべた。
疑問を抱いたヘラの背後からゼウスの腕を回されると大きく後退する。ヘラは急な出来事で理解ができなかったが、視線をギルガメッシュに向けると中腰に近い姿勢で手にしていたマチェットで攻撃を仕掛けていた。つまり、身動きが取れない状態はフェイクであり、ヘラが近づいてきたところで不意打ちをかまそうとしていたことがわかる。
「まだ余力を残してるこいつレベルが、この程度でやられるのは可笑しいからな」
しっかりとヘラをカバーしたゼウスに、バックハグの体制で守られると愛する男に再びときめきかける。
「けど、それはあたしの攻撃が弱いってことよね??」
「いや、そういうわけではないんだ。ただこいつはこういうことしそうだなって思っただけだよ」苦笑いを浮かべて怒りかけたヘラを盛り下げようとフォローする。
「クソが。全能神ゼウスも少しは健在ってことか」
ゼウスの戦闘考察を認めると脳内に声がかかる。それは彼の長である者からの声であり、内容は撤収とのことだった。勿論これにはギルガメッシュも納得いかない様子で、思わず怒りに等しい大きな驚声を上げてしまう。
「テメェ何考えてんだよラー!?こちとら今敵戦力ぶっ殺す最高チャンスなんだぞ。どうかしてんじゃねぇのか??」
暫く口論は続き、目の前にいるゼウスとヘラを鋭い目つきで睨みつける。それは言葉に出さなくてもわかるほどの殺気が込められており、相手の長、ラーの声がかからなければ今すぐにでも手元にあるマチェットでこちらの首を刈り、心の臓を貫く気配を簡単と感じ取れる。
認めたくないが認めざるを得ない説得をされたのか、鋭い目線を切りその場で大きく癇癪を起こした。地面に拳を連打し、怒りをふんだんにぶつけていた。怒りがある程度まで収まると、この場にいる全員を順番に指を指す。
「お前らはいつかこの俺様が殺す」
そんな脅迫を残し、何処からともなく現れたゲートに入り姿を晦ます。ジャンジャンは場の収束したことを確認すると、ゼウスとヘラの両者をアジトへ迎え入れた。
ギルガメッシュが居なくなり、五分もしないうちに疑似結界を入る二名の男女がジャンジャンたちのいる部屋から確認できた。
「うっわぁ…汚い結界ね。誰が作ったのやら。私はこれ、直してくるから士純は先行ってていいわよ」
「あぁ~クシナダさんありがたいです~。いやぁみんなにやっと会えるの嬉しい!はぁ~楽しみぃ~」
同刻、スサノオと引き連れられてきた優気たちが家のリビングに到着し、ジャンジャンは外にいる者らに家へ招集をかける。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




