第31話 『力王』トール
神の使者、朱雀の力を持つ優気はいつも通りトレーニングを、優気のことを知ってしまった怜真は彼らの目的に賛同し、護衛用の戦闘技術や戦場分析を、経緯は違えど同じように優気たちはとんでもない集団に所属しているということを知ってしまった璃久瑛は、メンバーの外国人三人と紙粘土で恐竜を作り上げていた。
時刻は五時十五分を回ったところで一同は正面玄関を出ると、偶然野球部が終わり健勇と鉢合わせたため一緒に下校することとなった。
「こないだ久しぶりにみんなと一緒に帰ったばかりなのにもうこんな機会があるとはな」
「2人いないけどな」
「凪行は直行で塾行って、炎示はどっかで遊び惚けてるんだろうな」
「それで、なんでお前ら3人は今日一緒だったんだ??優気は特に用もないだろ??」
他の二人と違って部活に所属していない優気は適当に誤魔化さなければならない。
「まぁ、その、なんつうか…せ、先生が凧揚げしたいって言ってたからその手伝いしてたんだよ!!」
目線を何度も動かし、落ち着きのない手の動き、はっきりとしない発言など、明らかに噓とわかる素振りをしながら必死に伝える。噓が下手な優気には語末を強調するパワープレイで乗り切ろうとするも、怜真と璃久瑛の視点からはおかしな発言と言動を簡単に見破られる。
「凧揚げ??こんな6月にか?」
その状況を楽しむように璃久瑛は優気にちょっかいを掛ける。当然怜真はその言動に危険性を感じ、「お前はバカか」と静かに説教をし、軽く後頭部を叩く。
「そう!!なんか、無性に揚げたくなったらしいよ。どうやら凧には人を揺るがす何かがあるんだってよ!!」
優気の震える声を聴いて「俺らの首絞めて何したいんだよこの戯け!」と再び説教が下される。
しかし、相手は天然感のある健勇。下手な嘘を貫きたい優気と純粋な健勇との矛と盾が触れ合った。
「そうなのか。まぁ前道先生が言うなら本当だろうな!!なんだか俺も凧揚げしたくなったぞ。今から学校戻って凧揚げしに行くか!!」
「いやもう遅いから止めよう。また今度、な?」
「じゃあ明日やるか!!」
「部活やらないとな。もう甲子園の予選始まるしね」
「そうだな!!練習が1番だな」
なんとか健勇を言いくるめることができ、優気は胸をなでおろす。安堵も束の間。墓穴を掘った優気を健勇の目を見計らって胸倉を掴みブンブンと振り続け、璃久瑛は脇の下をくすぐり攻撃で迎撃する。
「はふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!」
日脚が伸びた空の下で雑談を続けていると、空から肌色の物体が物凄い速さで落下してきた。何かはわからないが、嫌な見当がついていた。
「優気、怜真。これって…」あの集団の説明を詳しく受けた璃久瑛は完全に察する。
「あぁそうだ。間違いない。神の使者だ」
「目的は恐らく朱雀の力か」
「何でそうなるんだ??」
「逆に俺らの前に現れる理由それ以外あるか??」「『確かに』」
「なんだ神の使者って。一体この人は大丈夫なのか??」「『『あ』』」
三人の声が重なり視線が健勇に向けられると「え?」と疑問で応答した。絶対に聞かれてはならないワードだったが、今は目の前に現れた神の使者の対応が最優先であるため、ひとまず男と距離を置く。
衝撃によって巻き上がった煙の中からは険しい顔を浮かべた男の姿があった。白髪の縮れ毛が長く伸びているが前髪は薄く、無精髭ともみあげが繋がっているといった、一風変わった顔周りに違和感を覚える。何よりどこからともなく優気たちの目の前に落ちてきて地面に何の影響を及ぼしてないことに疑問を感じていた。
「話がわかる奴が居て助かるな。我はトール。朱雀を回収しに来た神の使者だ」
「こいつ頭おかしいんじゃないか??流石に俺でもわかるぞ」
「健勇は黙っとけ!!」
優気たちに近づくと小声で「で、どうするんだよこの状況」と狙われている張本人の優気に問う。
「そうだなぁ…どうするぅ怜真??」
「何で人任せなんだよ!!」
「だってこういうのは怜真専門だろ」
「…とりあえずスサノオさんに連絡をするのがベストなんじゃないか??」
「スサノオ?小僧今スサノオと言ったな?」
怜真に鋭い目線を向け確認をする。逆に怜真は敵対する者だということが判明してしまい、緊張が走り始める。他三人も同様で、璃久瑛は健勇ともう一歩下がり優気は身構える。
「そうだ。もし力尽くで朱雀を略奪するのなら使者の中でも最強のスサノオを呼ぶ」
「ならば…」
険しい表情でこちらを見つめる視線は変わらない。だが、間に含みを持たせ、返答に思案する姿は健勇を除く優気たち維持派一行に緊張を張り巡らせた。自然に湧いた唾が息を止めるのではないかと、無理に飲み込むと、心臓の鼓動が早く聞こえてくる。
「今すぐここに呼べぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!」
「『『えぇ…』』」
普通ならとても強靭な者の出現に畏怖するところだが、想定外のリアクションに三人はたじろぐ。しかし、大きな声を上げたトールは急に我へと変えった。
「確かに今すぐにでも手合わせしたいところだが今回の目的は朱雀の回収だからな…だが、この際我とスサノオ、どちらが強いかハッキリさせたい…う、うおぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉおおおぉぉおおおおおぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおぉおおおぉぉおおおぉぉおおおおおぉぉぉぉおおお!!!!!!!」
「情緒不安定すぎるだろこいつ」
今度は天を向きいきなり発狂し始めた。要はかなり頭を悩ませており、その姿を見るところかなりの戦闘狂だということがわかる。
ここで、璃久瑛は先程名乗った『トール』という名に既聴感を得た。ゲームやアニメにも展開されている神話の登場人物だと認識したのだ。
「優気、怜真!この人、多分ガチで強い!確か誰も持ち上げられないハンマーを振りかざすってこないだ映画で見たぞ」
「ほう。よく知っておるのぉ若人。我、最強ぞ」
自信過剰の発言に捉えられなくはないが、風貌といい万全足る口調などが『最強』を裏付けるには十分だった。
「だから早くスサノオを呼べぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇっっっ!!!!!!」
「こいつ頭おかしいんじゃないか?」
天然気質な健勇から放たれた的を得た指摘に他の三名は笑いを噴き出す。どうやら、トールと名乗る神の使者はスサノオ同等の戦闘狂ということが判明する。
「だが目的は目的。天は天。地は地だ。今この場この瞬間にいる主の意味は朱雀の回収だ。ここは欲抑制の時」
「いい語呂合わせだ…!」
「怜真!バカが移ってキモイ趣味が出てるぞ!!」
すかさず怜真は「キモイとはなんだ!」と否定すると、軽く咳払いをして何故朱雀を欲すのか質問をぶつける。
「アンタは朱雀の力を使って何がしたい?」
命令を下した者の狙いやそもそもどのような敵なのかが全くわからないため探りが必要だと判断したのだ。
「それはこちらの秘匿義務だ。答えるわけにはいかない」
「まぁそうなるだろうな。しかし、裏には何か大きな意図がありそうだな」
予め素直な返答は返って来ないと踏んでいたが、まともな返しに少しの時間稼ぎを敢行する余地は有りだと判断する。
「なんだよつまんねぇな」
「ここで言わなきゃ使者が廃るぞ~」
「よくわからないが、そうだぞ~」
「お前らちょっと危機感持て!!」
しょうもないヤジを飛ばす三人は怜真の一蹴でハッとさせられる。
「んで、神の使者ってなんだ??」
「ちょっと健勇は目と耳塞いで遠く行っとけ」
「なんで!?」
とにかく優気は健勇を巻き込ませないためにどうにかしてこの場から離れさせたい一心だった。
「我に問うてきた小僧からは切れ者の予感がするな。流石は同じ神の使者といったところだろうか。そうだな…小僧の宿す四神とは使者と違って複雑で特別な扱いがあるということよ」
神の使者と四神に差異があることは分かっていたが、敵のトールからの言葉にはより重みがかっており、この場は何とか免れなければならない状況だと判断できる。しかし、今のトールの発言は失言に片足が浸かったようだ。
「俺が使者?」
「そうだ。四神の朱雀の力を持つ者よ。我らの目的のために力を貸せ」
大人しくこっちにこい、とトールが手を招いたのは朱雀の力を宿す優気ではなく怜真だったのだ。恐らく朱雀の継承者がどんな人物だか知らされていないと考えられ、怜真は対峙する大男にバレないよう、小声で優気と璃久瑛に指示を出す。
「そんなの目的次第だな。俺にとって良い事かも知れないし悪い事かも知れない」
「それはこちら側に付くならば打ち明けてやろう」
「それじゃ納得いかないな。そもそも信頼ができないし、しようとも思えない」
感情を込めながらゆっくりと会話を進め、なるべく情報を落とす。これも狙い合ってこその行動であり、この前の怜真がとった時間稼ぎと情報採集を狙う行動としては百点満点のアクションだった。
そろそろ神力を解放すると判断できたため、璃久瑛が予め所持していた結界展開装置を作動させ臨戦態勢を整えた。その後璃久瑛は優気のスマートウォッチを借り、急いでスサノオに連絡を取り付ける。
「ほう。なかなか言うな小僧。弱き者は相手にしたくないのだが、こうなれば力尽くよ」
対話しながら早い足取りで怜真の方へ向かうと怜真の顔を握るように横から手を振りかざす。
しかし、それをしゃがんで躱すとそこから姿を現したのは朱雀の力を身に纏った優気の姿であった。神力で悟られないよう一瞬で四神化し、驚くトールの右肩辺りに対して多量の神力を集めた拳をぶつける。トールが先程居た場所まで吹き飛んだものの、あまりダメージを受けていないように見えた。
「小癪な!違う小僧だったのか!」
「悪いなトールのおっさん。俺が本物だよ」
「そうか、ならば我も拳を反そうではないか!!」
拳を握りしめ先程怜真に向かった足取りではなく、戦闘としての移動で接近する。割れんばかりの神力は身体に触れていないにもかかわらず、電流が走るかのようだった。
本気で焦りを感じると優気の後ろから見覚えのある刀が応戦した。これにはトールも驚いていたがそれ以上に喜びを感じていた。
「会いたかったぞ!スサノオぉぉぉぉおおお!!!!」
「こちらこそ。トールゥゥゥッッ!」
両者共に溢れんばかりの神力が衝突し、かなり遠い距離から助走を付けていたスサノオの力が勝り、トールを押し弾くもスサノオは手首をブンブンと振って痛みを発散させていた。
「また知らん人増えたぞ!!」
「スサノオさん!!来てくれたんですね」
「あぁ。りくあに連絡もらったからな。結界は張ったか?」
「はい、ジャンジャンさんって人に貰ったカプセル割ったんで大丈夫かと」
「でかしたな!新入りなのに、いきなりMVPかもな」
先程の怜真の策が上手く回った結果となったが、ここまで早い援護となることは想像していなかったため荷が下りた。しかし、今の少しの交戦だけだが、スサノオが若干狼狽えていることに優気は驚きを隠せずにはいられない。
「まぁこっからだな。よし、じゃあお前ら下がっとけ。ここは俺が引き受ける」
「さぁさぁどっちが強いかはハッキリさせようぞ。『戦場の申し子』、スサノオノミコト」
トールが意気込むと神器となるハンマーのような物が手に現れ、戦闘態勢を整える。スサノオも徐々に出力を上げていき、神力があふれ出す。
「『力王』トール。正直、力だけなら俺よりつえぇな。なんならガチで行かなきゃ普通にやられっからな。最初から本気で行くぞ」
スサノオも刀を鞘に収めると、代わりとなる神器を生成し戦闘準備を整えた。だが、トールが怪訝な顔を浮かべ疑問の声を発する。
「どういうことだラー。今スサノオとようやく闘いを交わすところだ」
頭で直接話し合っているのか、優気たちはトールの独り言に理解し難いが戦闘中止の命令が出されているようだった。
「…それは最悪のタイミングだな。受け入れる」
「まさか朱雀を諦めて引くのか??」
「諦める訳ではない。優先度が高い事柄を取ったまでだ。絶対に揃わないようなこちらの陣営がようやく揃ったんだよ」
トールが戦闘体制を解くと顕在化した神器も消えていき、「今度こそどちらが強者かハッキリさせる」と言い放ち後ろを向く。
「楽しみにしとくぜぇ~」
スサノオは気楽に応じるが、殺される可能性もあるのにこんなラフで良いものかと居合わせた他の者らは啞然とするのも無理はなかった。
「それともう一つ。最強の使者はこの我よ。『力』に限ればより、確実にな」
よく覚えておくのだな駆け出しの戦略家、怜真をニタみながら忠告し遠くへ退散していった。
「さ、お前らアジトに戻んぞ」
「今からですか??」
「あぁそうだ。あっちも使者が襲来した。恐らく大丈夫だけどな」
「大丈夫って、アジトにはジャンジャンさん以外使者はいないじゃないですか!」
心配そうな顔を浮かべる優気は事の重大さに気付き慌てるような仕草を表し始めた。健勇を除く二人も真剣な面持ちで学校に戻ろうと急かす。
「ぶあっはっはっはっは!!!!」
スサノオは優気たちと真逆とも取れる唐突な笑い声を発した。あまりにも大きな声は近くのマンションの何部屋から覗き込まれ、優気たちは静止に入りつつ恥ずかしさを感じてしまう。
「大丈夫ですか!スサノオさん!しっかりしてくださいよ!」
「まさか、これもさっきの神の使者、トールから移ったのか?」
「なるほど!トールウイルスか!!」
「言ってること間違いではないけど小学生のあるあるいじめみたいだな」
深々と呼吸をして表情を整えると「だから大丈夫だって」と説得するものの、人通りのある街を歩く中、周囲からの注目から優気たちが大丈夫ではなかった。
「喜べお前ら。仲間が増えんぞ」
「あぁ、そういうことか!!」
腑に落ちた様子で璃久瑛は視線を健勇に向けると、ポンポンと背中を軽く叩く。この状況を何一つ理解していないが、健勇が仲間になればただの人間だとしても、何かしらの面での戦力アップには変わりないと判断し、璃久瑛の表情が明るくなっていく。
対照的なのは優気と怜真で、命の危険を伴う組織にあまり関わらせたくなかったのだ。
「お前は誰だかわからないけど、とりあえずガタイがいいな!現場目撃しちまったし、やる気があるなら俺らの組織に入ってもいいぜ」
「えっ、違うんか?」
「よくわからないけど褒められたんで入ります!!よろしくお願いしやぁぁぁあぁぁぁああすぅ!!」
健勇はスサノオに負けないくらいの大きな声で挨拶をする。
「おう!よろしくな!!」
「いやいやダメでしょ!!?」
簡単に認められない優気と俯き手で顔を覆う怜真は「どうせジャンジャンさんに説教されるんだな」と同調しながら呟く。現状を飲み込み、怜真は顔を上げた。
「増えるということは、仲間が帰ってきた、ということですよね?」
怜真が続けて言葉を発するとそれは小耳に挟んだ離れた共同者のことを指していたと判明する。
「あぁ!そういうことだ。出張してた奴らが丁度戻ってくるんだ。だから大丈夫!!」
そう言い張るスサノオを筆頭に他の四名はアジトに戻りに行く。「つか、アジトってどこだ??」と疑問だらけの健勇に説明しながら変わらない夕陽を浴びていった。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




