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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
来訪者編
30/133

第30話 夢

 真峯まみねの大きな騒動によって教員間で問題となり、緊急職員会議が開かれることとなった。真峯は現在担任の前道と一対一の面談が開かれ、自殺を図ろうとした原因や当人のカウンセリングを行っていた。


地雨が続き、担当教員と監督もいない中の部活動内容を確認するために健勇けんゆうが職員室に向かっている間、他の生徒たちは下校し始める。


というのも大きな事件により野球部以外の部活は休みとなったため、凪行(なぎゆき)含むいつものメンバーで健勇の帰りを待っていたのだ。


 自分たちしかいない広い教室の中で全員が窓側に固まって天候を確認する。一つの会話が終わったタイミングで、窓の手摺に組んだ腕を乗っけていた璃久瑛(りくあ)は大きくため息をつくと、「俺は本当にどうすりゃいいんかなぁ」と脱力しながら嘆く。その嘆きに呼応するかのように雨脚が強まり始めた。


「簡単には決められないのはわかるが、ここは親御さんの意思を汲み取って誇り高い工芸の道に行く方が良いと思うな」


「オレはやりたいことやって、人生楽しむ方がいいと思うぜ!!そっちの方が自分が1番納得できるだろ??」


「いいか黒羽(くろばね)。人生というものは自分自身だけのものじゃない。関わりのある人間と関わらなければならない人間のことも考慮しなければならないのだよ」


「んなこたわかるわ。ただまず自分が楽しめなきゃダメだろ」


「何がダメなんだ??楽しむことよりも為になることを優先すべきだろ」


「あぁ?お前本当に勉強のし過ぎで頭おかしくなってんじゃねぇのか??」


凪行と炎示えんじの言い争いが再び勃発し、ジレンマを深める選択肢に「どちらも正しいことだと思うよ」と優気ゆうきが宥めると、璃久瑛は腕組んだ隙間に顔をうずめ再び嘆く。


「みんなお待たせ!!やっぱり部活無くなったぞ!!!!」


聞き馴染みのある声が教室の入り口で響く。教室には優気たち以外に誰もいないことから普段から大きな声の健勇の声がさらに大きく聞こえると、それが試合終了のホイッスルのような役割を果たし、凪行と炎示の言い争いは強制的に終了した。


健勇が帰りの支度をしつつ、先程話していた璃久瑛の進路について健勇の意見を聞くと「自分が最大の力を発揮できる方を推す」とあくまで選択は璃久瑛に委ねた答えであった。


「案外けんゆーもしっかり考えてるんだな」


「そうだな。あいつは芯がしっかりしてるから自身の発言とか行動に責任があるというか…」言葉がだんだんと掠れていくと、さらにもう一度嘆き、「にしても俺はもう駄目な人間だぁぁぁぁぁぁ!!」と自己嫌悪に陥る。


その姿は再び強まった雨の状況とマッチしていて璃久瑛の心情と天候がリンクしているようにも見えてしまう。


「まぁ落ち着けって」「そうだよりっくん。1回に冷静に。な??」


あまりの癇癪に怜真れいまと優気が優しく声をかけ落ち着かせると落ち着き始め、外の雨脚も同時にかなり落ち着いていく。あまりの連結さに思わず優気は、「お前は天候を操れる使者なのか?」と疑いの念すら抱いてしまう。


「璃久瑛。少し真剣に話をすると、僕は自分の才能と夢が重なるなんてめちゃくちゃ恵まれてることだと思う。どちらの道に進んでもお前ならいい方向進めると思うけど、自身の欲という衝動やそこに付随する感情に走りすぎると直接的にも相対的にも辛くなる。それさえ気を付ければ僕は何も選んでもいいと思うよ」


どちらにも限定することなく肯定し、璃久瑛を励ます怜真に璃久瑛の心は綻び始めた。続けて優気も「怜真の言う通り」だと肯定して肩を優しく叩く。


「ただ、俺が思うのはやっぱり最終決定権は両親にあると思う。というのも、ここまで成長を促して夢を見ることができるようにした両親がいるおかげっつーか恩だから。だからその示しとして、人生の転換期は親が納得してからじゃないとダメ気がするな」


璃久瑛のジレンマを悪化させないように普段よりほんの少し穏やかなトーンで話すと、優気の言葉を素直に受け止めた。今五人からもらった意見を基に顎に手をやり再び考え始める。


「つうかさ、どっちもやるってのはダメなの??大学で勉強したいこと学んで、家帰って工芸の練習。これなら自分自身も両親も良いんじゃない?」


「あ、その手があんじゃん」


思い当たらなかった答えに導かれ、璃久瑛の複雑な思考回路が正常につながる感覚が身を起こした。これだこれだと言わんばかりの『腑に落ちた』という革新的な感覚を体験し、それが答えだと深く認識した。


 すると、一日中降り続いていた雨も止み、璃久瑛の顔をオレンジ色の陽光が照らす。目線を前に戻すと夕日で彩られた景色がそこに広がった。


「あ、晴れた」間抜けな炎示の声が教室に響くと皆も静かにその空を見上げた。この夕日が悩みの答えに応じたのか、璃久瑛は自分の中のモヤが天候と同時に綺麗に晴れる。


 やっぱり優気はすげぇな。


小学校から高校までの長い付き合いの中で稀にそう感じることが何度かあったが、いざ自身が当事者になってみるとその偉大さが倍以上に感じられたのだ。静まった教室に口火切って声を発する。


「今みんなが俺のために言ってくれたこと。整理してこなしてくわ!みんな相談乗ってくれてマジでありがとう!!」深々と頭を下げると、親友たちから安堵の声が聞こえてくる。


「よし!じゃあ久しぶりにみんなで帰ろうっ!!」


健勇が興奮交じりの声をかけると予め支度してあった荷物をまとめて教室を出た。


普段各々の用事や活動のためいつものメンツで帰ることは特別な時を除いて殆どない。夕陽が映るこの時間に親友と下校することに皆、興奮気味だった。


「というか、もとはと言えばお前待ちだったんだからな」

「そうだぞ健勇。これは10000本ノックだな」

「おぉ、それはいいな!よろしく頼む!!」

「いや罰として言ったんだけど…」

「俺に罰など無い!!さぁバッチコおぉぉぉイ!!!

「いやこの場じゃ無理だから」

「やっぱり健勇は変わってるなぁ」

「璃久瑛。お前にだけには言われたくない」

「急に真顔で言うなっ!」


雑談を続けながら階段を下り、靴を履き替え、外を出ると黄昏の空から顔を出す夕日が優気たちの姿を照らしていた。希望となる若者たちの未来を彩るかのように。

ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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