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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
来訪者編
28/133

第28話 男子高校生の日常+危険

 梅雨入りから数日、この日は午前中に強雨が降りしきり、教室の窓ガラスは雨粒で覆われていた。六時間目が終わり、生徒たちは帰りのホームルームが始まるまでに支度を整える。


その中でいつものメンツは優気(ゆうき)健勇(けんゆう)の席を囲むように談笑をしていた。この現象は優気がいるからではなく優気と健勇が既に近くにいるからであり、いつものメンバーが近くに固まっていると自ずとそのようになるのだ。


改めて考えてみると学生生活の中でも今までで一、二番を争う最高の座席であることは間違えなかった。


 この後外部活がある健勇は、雨がまだ止まないかを確認しに窓付近まで移動して天候を確認する。大降りの午前中に比べるとかなり弱まっているが、グラウンドの状態は最悪といったところで、室内練習に変更する旨を野球部に送信した。


 話題は勉学のこととなり、それぞれの学習状況を話し始める。怜真(れいま)は中間テストの順位が学年で十七位、模試による志望校判定もAと今のところ問題なく進められている。優気も学年順位は上から数えた方が早いポジションに位置し、模試もBよりのA判定とまだまだ伸びしろがある状態だった。炎示(えんじ)については下から十七番目であり、怜真の順位と偶然一致したことで親近感を抱き始め喜びに更けていた。


「本当に、大馬鹿者というものは見ていて疲れるな」


彼らに馴染みある声が聞こえ身だしなみをキチンと整える清潔感のある男、凪行(なぎゆき)は前方から優気たちに歩み寄る。七三分けにした長い髪の毛を揺らし眼鏡をクイっと上げ、炎示の前に大きな態度で腕を組んで見せた。


「凪行じゃん。お前は中間テスト何位だった??」


「勿論1位だ」


「お前にとっちゃ愚問だったな」

テストでは毎回必ずトップの成績を修めることが彼の凄さである。難易度の高い問題が追加されても正解に行きつくことから、教師たちもお手上げ状態となっているのが現実だ。


「この中で俺も上位なんだが、お前が来ると一気に評価下がるな」


「あと眼鏡ポジションが被るな」


怜真は日によって眼鏡とコンタクトの時が切り替えている。元々の振り分けは五分五分の比率で切り替えているが、久々の凪行とで偶然眼鏡ポジションが被ってしまった。


当人たちはあまり気にしていないが周りが過剰に囃すため、コンタクトにすることが増えている。今回も最初に気づいたのは璃久瑛(りくあ)であり、発言後の表情もニヤついたものだった。怜真は何かその表情がうざったく感じ、無表情でデコピンをくれてやった。


「勉学は時に運が左右することもあるが、通常努力した分が結果に反映される。怜真は怜真の努力が数字に表れている。それ以外の結果は今存在しないのだから現状を受け止めることだな」ちなみに眼鏡ポジションはどうしょうもないと最後に付け加えられた。


そこまで本気にした嫌味を言ったつもりはなかったが、相変わらず堅い返答に怜真もたじろいでしまう。凪行は普段から生真面目でどんなことでも百パーセントのパフォーマンスをするため冗談があまり通じず、正直に受け取ってしまうのだ。勿論長所とも取れるが短所とも取れる難しい特徴がコミュニケーションの弊害になることも少なくもなかった。


「つーかよ、そんな勉強ばっかして楽しいのかよ。可哀想な奴だなぁ」


「あぁ楽しいさ。何かを完璧にこなしていくことに楽しみを見出せないことの方が可哀想に見えるがな」


「あぁ?オレはな、お前のこと心配してやってんだよ。ありがたく感謝するんだな」


「そうか。ならその気遣いは不要だ。僕には何の利益も成さない無駄なことだ」


この意味のない言い争いは続くが、炎示と凪行が揃うといつも通りのことであるため他の四人はスルーして話を元に戻す。


「りっくんはまだ迷ってるの??進学か就職」


「そうなんだよなぁ。めっちゃ悩んでる」俯きながら腕を組んだ後、暗くなる表情は当惑していることを示す。


璃久瑛の場合は自身の夢であった漫画の編集者になることと家族が営む伝統工芸の道に進むかのジレンマに挟まれている状態に置かれており、はっきりとした答えが出せずにいた。前者の場合は大学進学をしていた方が有利であり、後者は進学せずとも活動できるもののため大きく行動が変わってくるのだ。


「璃久瑛、ストレス半端ないだろうな」

「1度好きなことで発散することがおすすめだな。例えば素振りとかキャッチボールとか」


ストレス発散方法が野球関連のことしか挙がらない健勇に対して「お前は本当に野球のことしか考えてないんだな」と若干引き目を感じた言い方をすると元気よく「そうだ!!」と返答を受けたため、そのポジティブ思考に憧れを抱き始める。


そんな健勇は今秋のドラフトで指名されてプロ野球選手になることを目標にずっと努力を続けているため、進路に迷いなど生じなかった。


璃久瑛の経験上、好きなことをして切り替えるという行為はやらなければならないことを一時的に遠ざける遅延行為であり、再び悩みが身を襲うことは確実であるため、返って自身を苦しめるだけのアクションと認識していた。


「両親はどうしろって??」


「『お前がやらなきゃ誰が引き継ぐんだ』だってよ」


「ありゃりゃ。親さんは強制か」


「血の運命(さだめ)。ってことだな。なんだか無理矢理ってのは可哀想に感じるよ」


「怜真。そういうかっこいいセリフは俺に言わせてくれよ」


「とりあえず。時間が経って答えが出るまでは自分の身を削りつつも耐えるしかないな。『時からの猶予が成長につながる』ってブルブル大佐が言ってたじゃん」


「そうだよなぁ。優気の言う通りだわ」


これには璃久瑛は納得せざるを得ない。二人が好きなアニメに出てくるセリフを交えながら諭され、少し前向きになれたような気がした。やはり趣味は趣味にしかできない力をくれると心底理解できた瞬間である。


「けど、アニメも漫画もラノベもサブスクも全部禁じてるから最近の楽しみがマジでない。オナニーくらいだわ。結局オナニーが人類とって手軽で簡単に感じられる快楽なんだよ」


流れるように下品なワードが飛び出し、挙句の果てにはこの世を悟ったような論理的な意見を提唱し始めたため皆は笑い出す。あながち間違っていないことや厳しい状況に置かれ大きく表情に表れることはないが、どこか悲しげな表情が垣間見える璃久瑛が言うからこそ笑いを誘ってしまう。優気は話しを切り出したかったが、再び少し笑いがこみ上げ一旦言いかけるところで間が空く。


「りっくん、お前相当追い詰められてるんだね。で、最近は何で抜いてんの??」


「エロ漫画。馬龍(まりょう)ってサークルが出してる痴女JKシリーズはたまらない」


「大御所じゃん。馬龍ならあの、なんだっけな。報復快楽堕ちのやつが良かったわ」


「あ!それ怜真も見たのか。あれマジでいいよな」


「3次元は見ないの??」


「何だかな。衣装が全部ディスカウントストアで買えそうなやつばっかで萎えた。最後に抜いたのは1ヶ月前くらいに仙新(せんしん)みしねで抜いたわ」


「まーた大御所じゃん。仙新みしねなら禁欲のやつが良かったわ」


「えぇ~それ先週見たけどハマらなかったわ。健勇おすすめある??」


(おどろき)うりだな。やっぱり爆乳が最高!!」


「お前いっつもそれじゃねぇか。それと清澄(きよすみ)もものだろ??」優気がツッコむと一同が笑いに包まれ、引き続き下世話な話が終わることはなかった。


 少し離れた席で雑談をしていた同じクラスメイトの本辺美奈(もとべみな)はその聞きたくもない下の話を聞き流そうと苛立ちを感じていた。仲の良い友達二人には悪いがトイレへ行くふりをして教室を出る。


「なんであんなこと話してるのが楽しいのか。男って本当に気持ち悪い」


かなりの不快感からどんどんと声量が大きくなり、独り言というよりかは誰かに訴えるような文句になってしまう。隣が優気となり、それの近くに群がる男グループに対して日々苛立ちを感じていたが、先程の汚い話は嫌悪を極め、本辺のストレスを増幅させるポンプ装置となってしまった。


 廊下を歩き続けていると階段を登る同じクラスの真峯(まみね)を目にする。もう帰りのホームルームだというのに何故か上の階へ行くのかと疑問が浮かび、思わず声をかけた。


「あれ、真峯ちゃんどしたー??もうホームルーム始まるよ」


「あっ、その…先に行ってて」


外の天気が相まってか暗鬱とした表情にはっきりとは言えない相槌を打つ。クラスが一緒とて、そこまで関わりがあるわけでもない。そんな関係値のためか、早く帰りたい本辺は素直に教室へ戻ることを勧めることができなかった。


階段をゆっくりと登っていく真峯の姿を訝しく感じ、本来ならばそのまま教室へ戻るはずだったが、本辺は後をつけるように静かに階段を駆け上がった。

 

 担任の前道(ぜんどう)は教室に居たが配布物の忘れたためホームルームを開始する示唆を促した後教室を出ると大体の生徒が席に着き始める。他クラスの凪行は自分のクラスへ戻る際に手を挙げて別れの挨拶をするが、炎示はその姿に中指を立てて返答をした。


優気は炎示を宥めつつ大人しく自席に向かわせると「全員居ないなぁ」と語尾を上げる健勇の声が聞こえてきた。


誰が居ないのか周りを見渡すとすぐ隣の席が空席になっていることに気が付く。まだホームルームは始まっておらず、自身も持ち帰るはずの教科書をロッカーに忘れていたため、駆け足で廊下へ向かう。


自身のロッカーから教科書を取り出すと、本辺と仲の良い友達二人が教室で爆発でも起きたかのように飛び出てきた。


神崎(かみさき)くん!!真峯ちゃんが()()するらしいから止めに行こっ!!」


そう言って走り去って行くが、非現実的な理解し難い行動に言葉が出ず一瞬硬直してしまう。


すると教室から幼馴染の御堂咲音(みどうさきね)が爆発でも起きたかのように飛び出してきた。


「ゆーくん、真峯さんが屋上から()()するかもしれないって!止めに行くよ!!」


突拍子もない言葉が咲音の喚起によって現実的な事柄と認識でき、まずい状況に気づき始めた。慌てた応答をし、後に続こうと走りだす。

ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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