第24話 席替え
「おっしゃ!!後ろの方だ!!」
思わず大きな声で喜びを表した璃久瑛は荷物を持って炎示の席の前に立った。
「まさかお前…」
「そうだ。俺はこの席の番号を引いたんだ。さぁ退けぇ!!俗物!!」
「ひぃい!!」わざとらしいリアクションで炎示は席から転げ落ちた。
「っつーかまだ移動じゃないから」
準レギュラーキャラがモブを制圧するような茶番は置いておくとして、現在生徒たちの席替えが行われていた。高校三年生になると受験や就職活動が始まり、三学期などは自由登校が増加するなどの理由で行われない場合の方が多い。
では何故このようなことが起こったのか。それは璃久瑛を含む前列の者らが環境を変えたいという名目で訴えたからである。前列の生徒が席替えをしたいと提案する時は、決まって授業中に内職をしたいという理由であることは間違いない。担任教師の前道は後方に座っている生徒が内職をしている報告を受けていたため、「どうせ生徒が内職をするなら皆できた方がいい」と開き直って提案を飲んだのだ。
しかし、席替えの方法はクジ引きで、それぞれのクジには番号が振られており、前道が予め決めた席番号に移動するといったものだった。運に頼った恨みっこなしの決め方のため、皆がそのスリルを楽しんでいた。
「全員引き終わったね。じゃあ移動してくださーい」
前道の合図によりクラスメイト計四十名による大移動が始まった。
「優気席そこ!?近くて良かったわぁ~。ってか席ほとんど変わってなくね??」
「そう。りっくんの言う通りで、前に1つ進んだだけだったわ」
「まさに、『歩を振り返ると歩の道のみ。走を振り返ると走の道のみ』だな」
「めちゃくちゃ痛いこと言ってるけど…まさか怜真も近くか!?」
「俺は窓側の後ろから2番目だ」
「クソ遠いじゃねぇか。はよ行け勘違い野郎が」
「近づくな気持ち悪い」
「というか、お前口クセェんだよ。モラクセラ菌が増殖する時に出す排泄物の臭いしてんぞ」
「そうだよ。モラハラ菌が排泄物にモラハラしてんぞ」
「最後のはよくわからないけど、2人とも酷い言いようだな…」
優気と璃久瑛による暴言マシンガンによってとぼとぼと怜真は自分の席に移動しに行く。続々と席に生徒が着き、前道から「周りの人と挨拶してくださーい」と一声がかかる。周りを見渡すと優気の前の席には健勇が座った。
「え、健勇そこなの?」
「あぁ、ここだ!!まさか優気の前になるとはな!!」
「おぉ~友よ!!よろしくなぁ~」
あまりの嬉しさに後ろから抱擁し、鍛えられた体をトントンと何度も叩いた。授業中は基本的にクラスメイトと話すことはない。しかし、三年になってから何度も授業内テストが行われると、答え合わせの際に起こる会話が許される時間が発生するため、趣味やノリの合う友達が前にいる状況が最高なのだ。
また、体付きが良すぎるため、内職をしていても『ガタイカバー』によってバレる危険性が低くなることも相まって、健勇が前の席にいることは利点しか生まないことがわかる。
健勇とあまり変わらないノリで後ろの無課金太にも絡む。本人は普段このようなじゃれ合いをする友がいないからか、大きく驚いていた。
少し嬉しそうな表情が垣間見え、残り僅かな学校生活だがこれからも仲良くしたいと優気は強く思えた。
左を見るとそこには明るい茶髪を揺らす本辺美奈が顔を下に落としていた。その横顔はボブヘアーによって顔がほとんど隠れていたため、優気の視点からは世間の流行に飲まれ少し自分磨きをし始めたこけしのように見える。
「本辺さん、俺神崎優気。よろしくね!!」
良い席を手にしてテンションが上がっていたこともあり、声色が明るくなり手を差し出した。しかし、それを視認し、聞いたにもかかわらず相手のリアクションは「あぁ、そう。よろしく」と言った、簡素で興味のかけらもないものだった。
その後大きな溜息をついていたため、前回の席の方がよっぽど価値があったことを察したが、そんなに冷たい対応をされることは優気の経験の中で極めて珍しかったため、唇を嚙みしめ涙目を浮かべる。
「そんなこと、言わないで…」
あまりのメンタルの弱さに本辺は驚愕すると、「わかったからよろしく、よろしくね」渋々の含みが入った声高な言葉で再び応対した。再び優気の表情が明るくなると前に座る健勇と雑談をし始める。
単純で面倒な一番関わりたくないタイプが隣になった。本辺の気分はかなりナイーブに陥る。これこそ、席替え失敗の例である。
「じゃあこれからこの席ということで、よろしくお願いします。では号令」
席替えが無事終わり、いつものメンバーで少し談笑をした後に健勇と璃久瑛は部活へ、炎示は補修へ、優気と怜真は空き教室へ修行をしに向かった。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




