第16話 アリカ VS 害魔
4月は仕事に追われていて執筆時間が取れませんでしたm(_ _)m
ここに来るまでの間で獣たちは何度も倒してきた。
精霊術の身体強化を覚えていなければ、たとえ獣一匹といえど油断ならない相手だ。
それでも、獣たちの動きや恐ろしいのは牙や爪に限られるし、獣特有の機動力や速さに関しては身体強化を覚えた今となっては脅威までとはいかない。
相手がどんなことをやってくるのかが分かれば恐れは減る。
けれど、害魔は違う。
アリカの短い人生において、まったく未知の敵である。
何をするか分からないから──恐ろしい。
濃密なまでの殺気はどこまでもアリカの生存本能を刺激する。
ならば、やることは一つ。
「先制攻撃あるのみ!」
相手が何をするのかわからないのであれば、何かする前に倒してしまえ。
単純明快にして今のアリカがやれる一手だ。
アリカは地面スレスレまで身を低くして害魔に迫る。
どのような相手であれ足元というのは狙いづらいもの。特に子供のアリカは体型的にも死角を取りやすく、クオンでさえも修行中に「ちょこまかとやり辛ぇな!」と言わしめたほどだ。
そのままアリカは害魔の胴体を斜め下から斬った。
しかし、剣は害魔の胴体に届く寸前に、害魔の炎の爪が伸びて防いだ。
「くそっ!」
悪態を吐くもアリカは瞬時に距離を取った。
どうやら害魔の爪に当たる部分は金属並みに硬く伸びるようだ。
そんな一息に満たない間で分析の考え事をしていたら、今度は害魔の方から襲いかかってきた。お返しだと言わんばかりにアリカに向かって伸びる爪が襲う。
「あっぶな!?」
剣を斜めにして害魔の爪を受け流すことに成功。
当たれば間違いなく風穴が空くであろう凶悪な一撃を凌いだのも束の間、さらにもう片方の手の爪までもアリカに向かって伸びる。
──そりゃ片方だけしか伸ばせないわけないかっ……!
瞬時にアリカは害魔から距離を取って避けた。
害魔の爪はその長さを保ったまま鞭のように操り、アリカに向かって叩きつける。
たとえ一撃でも喰らったらただではすまなさそうな害魔の攻撃。
幸いにも害魔の爪が伸びるのも限界があるのか、一定の距離を取れば射程圏外に逃れられる。
──このままじゃジリ貧だ!
けれど、逃げ続けることができても勝つことはできない。
それどころか、いつしか体力の限界が来てアリカの方が先にやられてしまうだろう。
あの害魔の危険極まりない爪を掻い潜って斬るしかない。
普段のならばできるわけがない所業。
だが何故だろうか。
今のアリカに浮かんでいるのは全く逆の思いだった。
──なんかできそう……?
不思議な自信と確信が浮かんだ。
クオンとの修行の日々のおかげか精霊術を学んだアリカは害魔の動きが見えていた。
でなければ、早々と爪に貫かれていたに違いない。
そして、今のアリカの身体強化はこれまでにないぐらい調子が良い。
やるべきことは決まった。
「女は度胸ってね!!」
決死の特攻。
害魔の結界とも言うべき爪の猛攻を目の前に一歩を踏み出す。
不思議な感覚だ。
音を切り裂く爪鞭がこれまでにないぐらい──視える。
左から来るのを感じて身を縮めて躱し前に進む。
もう片方の手の爪が伸びて貫かれそうになるのを身を捩ることで躱す。
先程までは躱すのもやっとだったのに、時が経てば経つほどに身体のキレが増していく。
害魔の猛攻を抜けて一筋の隙が見えた。
「ウアアアァァァァァ──────!!!!!!」
全力で地を蹴って剣を前に突き出す。
剣はそのまま吸い込まれるように害魔の胴に突き刺さった。
アリカの衝突した勢いは凄まじく、害魔を突き刺したまま後ろの木に激突するまで止まらなかった。
「これで……どうだっ!!」
手応えはあった。
剣から感じる突き刺す感触、命のやり取りを超えた実感。
心臓の音がバクバクとうるさいぐらい高まっている。
改めて害魔を倒せたのかを確認しようとしてイリスの声が聞こえた。
「おねえちゃん逃げてっ!?」
「イリ──」
妹の名前を全部呼び終える前に悪寒がして反射的に剣から手放して後ろに下がった。
だが、あまりにも遅かった。
害魔の顔と思われる部分を見ると黒かった宝石が赤く光り熱を帯びている。
アリカは近すぎてわからなかったが、離れているイリスはくっきりと見えていたのだろう。
危険な何かが起こると。
そして、それは起こった。
「は?」
猛烈な赤き光が炎となって押し寄せ、アリカを飲み込んだ。
「ウアアアアアアアアアアァァァァァ──────!!!!」
咄嗟に目と口を腕で覆うも虚しく、害魔が放った爆発じみた炎の衝撃により体重の軽いアリカはあっさりと放り投げられるように宙を飛ぶ。地面に落ちるもゴロゴロと転がり続け何回転もしてからようやく止まった。
──……油断したっ!!
辛うじて後ろに飛んだのが幸いしたのか意識は繋ぎ止めることができた。
だが負傷の度合いは決して軽くはなく身体はすぐに動きそうにない。
害魔は突き刺した剣を抜いて造作もなく抜く。
騙されたとアリカは思い知った。
身軽で素早いアリカを確実に捉えるために、害魔はあえて剣を突き刺させたのだろう。
そして倒したと油断した隙に自身の体から炎を吹き出すことで仕留めようとした。
動物のように単純明快な暴力ではない、罠と戦術を用いた知恵のある存在。
これが──害魔。
「おねえちゃんっ!?」
「イ、リ……にげ……さい」
こちらに駆け寄ってくるイリスが見えて声なき声で言う。
「おねえちゃん、だいじょうぶ!? しっかりして!」
泣きながらイリスはアリカの身を案じる。
本当に優しい子だと思う。
腰を抜かして逃げ出すどころか、怖いのを押し殺して人を心配する子なのだ。
死なせたくないと思う。
「だい、じょーぶよ。お姉ちゃんは……強いんだからっ……!」
「おねえちゃん……おねえちゃんっ!」
ほんのちょっとした勇気が力をくれる。
さっきまで立てそうにもなかったのに、イリスの声を聞くだけで力が湧く。
妹を守るのが姉の役目で妹は姉を支えてくれる。
だから、大丈夫だ。
「くぉら! へっぽこ害魔っ!! 私は全然負けてないぞ!!」
最大限の虚勢を張って害魔を挑発する。
満身創痍に加えて剣は害魔を突き刺したせいで手元にはない。
ここから勝てる見込みなんてほとんどない。
助けが来る淡い希望もない。
まったく、ないない尽くしにもほどがある。
だからアリカのできることなんて一つしかなかった。
練精法による身体強化。
かつてないほどの熱を精霊を腹に溜め込む。
修行の時はじんわりとした熱だったのに今は火傷しそうなほど熱い。
身体中から湯気が出てるかもしれない。
どこまでもどこまでもアリカは精霊を溜め込んだ。
そして、
「これでも喰らえぇぇぇ──────!!!!」
アリカは真っ直ぐに害魔に突っ込み。
殴った。
剣がなければ殴ればいいじゃない。




