第15話 姉は戦うことを決める
お仕事が忙しくて書くのが遅れましたm(_ _)m
「どこにいるのイリス!?」
森から社までの道にはイリスはいなかった。
避難場所は社と決められており、村の子供でも必ず教えられていることだ。
聡いイリスならば、その程度の判断ができないはずもない。
ということは、社にまで行けない事情があったということになる。
「最近は村の広場で遊んでいるって言ってたっけ」
修行の後、夜寝る前の姉妹のおしゃべり時間で、そんなことを言っていた。
まずはそこに行くしかない。
身体強化で最速最短で向かいながら──気づいた。
「獣たちがもうこんなに入り込んでるの……!?」
肉食の獣たちがうようよといる。
獣特有の臭気が離れていてもわかるほど匂う。
幸いにも食料庫が荒らされているだけで、見た感じでは人が襲われた形跡は見当たらない。
村の広場にイリスはいないということになる。
ならばどこにいる?
──考えろ。考えろ!
想定し得る最悪としては、イリスがすでに獣に襲われこの場にはいないことだ。
だが、その考えは真っ先に捨てる。
「あの子が死ぬわけがないっ……!」
楽観的な考えではない。希望を捨てないだけだ。
生きていると仮定してイリスを探す。
探すといっても農作物を育てている村だけあって広いし、少し進めば森も広がっている。
だとしたら、
「イリスなら家に戻るはず」
賢い妹ならば広場に通って社へ行くのは危険と判断して戻ると予想した。
迷っている時間はないし、時間が経てば経つほど危険は上がる。
即断即決即行動あるのみだ。
獣たちに見つからないように身体弱化を使って気配を断つ。
どうやら獣たちは人を襲うよりも食べ物がある方を優先しているようだ。
これならば見つからずに抜けるのは簡単とばかりに、呼吸を浅く保ちながら建物の陰を歩き村の広場を潜り抜けることができた。
「よし、ここからは一直線だ」
身体弱化から一転して身体強化を行う。
全力で走り出して心臓が脈打つ。
走ったせいだけなんかじゃない。
村に戻ってからずっと嫌な予感がして胸騒ぎが収まらない。
何事もないでいてほしい。
そして、その願いは──すぐに破られることになる。
待望のイリスを見つけた。
同時に、絶対にイリスのそばにいてはいけない存在がいた。
「なんで害魔がここに!?」
クオンが言っていた害魔と呼ばれる魔物だ。
害魔はクオンが戦っている一体だけではなかったのだ。
あんなのが何体もいるだなんて思いもしなかった。思いたくなかった。
だけど、そんなこと思っている場合じゃない。
イリスの身に危険が迫っている。
害魔の凶々しい手が妹に向かって命を狩ろうと振り下ろされようとしていた。
「私の妹に何してんだああああぁぁぁぁ────────!!!!」
気づいていたら叫んで全力疾走していた。
そして、ガギィンと硬質的な音が響く。
間一髪のところで害魔と妹の間に割り込むことに成功した。
私の剣が害魔の手を受け止め、そのまま害魔の胴体に蹴りを入れる。
「うりやあああぁぁぁぁっっ────────!!」
全力の身体強化を行なった蹴りは害魔を吹き飛ばすことに成功する。
ゴロゴロと害魔は転がっていき十分に距離が離れたところに横たわっている。
「イリス大丈夫? 怪我はしていない!?」
「おねえちゃん!」
イリスを横目で見ながら私は具合を聞く。
するとイリスは私の服をぎゅっと掴んで言う。
「うん。だいじょうぶ。怪我はしてないよ」
「よかった──じゃあ、私からすぐに離れなさい」
「え?」
本当ならイリスを抱きしめて安心させたかった。
だけど、状況がそれを許してくれない。
イリスを離さないと、離れないと──守れないからだ。
「お、おねえちゃん……?」
「ごめんイリス。説明してる時間はないの。離れなさい!」
「う、うん!」
イリスにこんな声を荒げたのは初めてだ。
それだけにイリスは私の様子を見てすぐに離れてくれた。
本当に聡い子で助かる。
「さーて、やっぱりあの程度で終わるわけないわよね」
害魔がすくっと立ち上がった。
森の害魔とは容貌は違うものの感じられる重圧は同じ。
こちらの害魔は黒ではなく炎のように揺らめいでおり、人の形に近いものの足に当たる部分はなく、案山子のように一本立ちをしてふわふわとしている。
中でも特徴的なのは瞳だ。
いや、瞳というのは自分の中の主観でしかないが、顔に当たりそうな部分に縦になった眼が一つだけあり、黒い宝石のようなものがこちらを見ている気がする。
害魔のことを私は何も知らない。
森の時はクオンが言うままに逃げて村に危険を知らせることが最優先だったが、今は状況がまるで違う。
イリスを一人で社まで行かせるにしても、村の広場まで出ないといけないし、そこには獣たちがウヨウヨして到底一人で行かせられない。
かといって、二人で一緒に逃げるにしてもこの害魔から逃げおおせるとは到底思えない。
つまりやることは一つに絞られる。
「戦って活路を見出すしかないっ!」
剣を力強く握りしめて勇気を振り絞る。
森の時は恐怖に震えてクオンに言われるがまま逃げるしかできなかった。
だけど、ここに頼れるクオンはいない。
頼りにならないといけないのは姉である自分のみ。
どこまでも絶望的な戦いが今始まった。




