第90話
そして闘技大会の開催当日。
俺はみっちり残りの2日間は泊まり込みでベルクリオさんと特訓をしていた。
…もちろんニルヴの相手はアルフレッドさんに任せっきりになってしまったが。
さて、 いよいよだと向かおうとした時だった。
「あ」
と、 アルフレッドさんが何かを思い出したかのように呟いた。
「どうかしました?」
「い、 いやぁ〜。 そう言えば『ローブ』についての情報を教えるの忘れてたと思ってね」
それを言われ、 俺も「あ」とたまらず漏らしてしまった。 ニルヴの兄、 ガルヴの件でその事を忘れてしまっていた。
「まぁ、 僕も闘技大会に出るから行きながら情報を教えるよ」
「え!? アルフレッドさんも出るんですか!?」
確かにアルフレッドさんは決して弱い訳では無いが、 いかんせん戦闘をするようには見えなかったこともあり、 俺は大袈裟とも言われそうな程に驚いてしまった。
「主よ、 こやつ結構強いぞ? 」
そうか、 ニルヴはアルフレッドさんにここ3日程遊び相手に付き合ってもらっていた。 その遊びがどういうものか聞いてはいなかったが、 口ぶりから察するに手合わせも行ったのだろう。
そして、 そのニルヴが強いと名言しているのなら、 闘技大会に参加するだけあって実力は確かなものということだ。
「まぁ、 正直実践のみとなると、 僕はゼン君には勝てないだろうけどね。 それでも結構いい所までは行くと思うよ」
何よりアルフレッドさんの強みは情報戦だからな。
それを生かす戦闘というのもこの目でしっかりと見てみたい。
「ニルヴも参加してるので、 俺たちは全員参加ですね。 もしかしたら後半に当たるかもしれないですけど、 手加減は…」
「もちろんなしだね」
不敵な笑みを浮かべるアルフレッドさんは、 頼もしくもあり、 少し不安を煽られてしまった。
「ははは、 話もこれくらいにして…そろそろ行こうか」
恐らく俺の心の動きを読み取ったからなのか、 誤魔化すように笑いながら歩み始めた。 俺とニルヴもそれについて行くように歩みを進める。
「け、 結構な人数が参加するんですね…」
俺達が闘技大会の会場に着いた頃には、 参加者のみが立ち入ることの出来るエリアにはかなりの人数が集まっていた。
大きなドーム状の会場から少し離れた位置に1つ建物があり、 そこの入口には説明を行う受付の人が数人立っており、 その人達からなにやら紙を受け取る流れらしい。 そしてその紙に何かを記入した後、 次々と建物の中に人が入ってゆく。
恐らくその建物が待機所のような役割をしているのだろう。
俺達も受付の列に従い、 その間に受付から別の紙を渡された。 その紙に記載されていたのは闘技大会の大まかな流れやルールが記載されていた。
あらかた目を通したが、 アルフレッドさんから事前に教えられていたこと以上の事は書かれてはいなかった。
そうこうしているうちに順番になり、 新しい紙に目を通した。
そこには所謂同意書のような事が書かれていた。
学校での決闘を許可するものと似たようなものだ。
それらに記入を終え、 やっと建物の中に入ることが出来たのだが、 そこは家具すら何も無い真四角の内装だった。
少しグループ分けがされているものの、 大抵は一人で戦闘のシュミレーションをしている者達ばかりだ。
「…あ」
俺は辺りを見回していると、 1人の男と目が合ってしまった。
言わずもがなガルヴだ。
そりゃ人より頭2つ分位高い奴が立っていれば自然と目で追ってしまうわ。
しかし、 今回は1人ではなく、 肩に女性を座らせているという…中々目立つ状態でそこに立っていた。
ガルヴが俺に気付いた事により、 それに付随するかのように女性も俺を見てきていた。
その表情はどこかニヤついているようにも見えていたが、 俺の隣にいるアルフレッドさんにも気付いた瞬間、 とてつもない殺気を放っていた。
「え、 なんかガルヴと一緒にいる女性…アルフレッドさんにとんでもない殺気を放ってないですか?」
そう伝えると、 アルフレッドさんは少しバツが悪そうに頭を掻きながらその殺気の意味を答えた。
「あ〜…あっはは、 彼女が『ローブ』だよ。 この国の王ですら素顔を知らない相手だよ。 素顔を知らないからこそ、 あぁやって普通に存在している。 まぁ、 灯台もと暗しって事だね」
成程な…。 素顔が知られていない以上、 むしろ隠す必要すらない、 ということか。
顔を隠してない理由は分かったが、 それにしてもアルフレッドさんに対する殺気は尋常ではない。
「何かしたんですか?」
「昔、 ちょっとね…」
アルフレッドさんは誤魔化すように少し笑い、 女性との事を話してくれそうな気配はなかった。
本人が隠したいと思っている事を聞くのは野暮ってものだ。
『さァーーーーーー!! おまたせしましたァーー!!!』
そうこうしているうちに、 隣のドームからは司会者らしき声が声量拡張魔道具によって聞こえてきていた。
「そろそろはじまるよ」
アルフレッドさんの顔は、 まるで別人のように一瞬にして表情を切り替えていた。 それだけでアルフレッドさんも、 この闘技大会にどれだけの熱量で挑んでいるのかが伝わって来る。
「よし、 もう一度闘技大会の流れを確認しておくよ」
まず初めに行われるのは、 人数によっていくつかのグループに仕分けされた後、 バトルロワイヤル形式での戦闘が行われる。
そのグループからはわずか4名までが進出することが出来る。
その後は残った人数でランダムにトーナメント分けされ、 トーナメントで残った一人が何を隠そう優勝者…となる。
そして、 見事に俺達3人は別々のグループに振り分けられたのだった。




