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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第89話

弱い者虐め。

そうガルヴから告げられた俺は、 腹の底から湧き出る苛立ちを感じていた。 しかし、 その怒りと共に…酷く図星を突かれたような気もした。

心の半分では、 今も尚ナイフを構えて戦闘態勢の俺を目の前にして、 刀の柄すら握らないこの男の鼻を折ってやりたいと思い、 残りの半分では、 今戦りあっても勝てないことは明白。 ならばどう切り抜ける事が最適化…と考えているからだ。

「確かに俺は弱い…けど、 自分で認める事と他人に言われる事は違う」

俺は『縮地』でガルヴの後ろに瞬時に移動し、 ナイフを振るうが、 そのナイフは刀の鞘に受け止められてしまった。 俺は反撃を警戒してすぐさま距離を取ったが、 ガルヴはゆっくりとこちらを振り返るだけだった。

「そうか、 我は少年を傷付けてしまっていたらしいな。 済まなかった」

そう言って頭を少し下げるガルヴに対し、 さすがにそこまでされた上でナイフを振るうのは、 逆に恥ずかしいと感じてしまっていた。

俺は大きく溜息をき、 ナイフを仕舞う。

「こちらこそ急に攻撃してしまい、 申し訳ないです。 なので、 次は闘技大会で…で、 どうですか?」

対峙してみて分かった。

今の俺ではガルヴに勝つことは出来ないだろう。 ニルヴと同様魔力は一切感じないが、 それでも身体を常に纏っている様な闘気…。 以前ばあちゃんに教えてもらったのだが、 魔力が体内の力だとするならば、 闘気は体外…つまり肉体の力なのだと。

闘気だけを見るならばばあちゃんに引けを取らない…いや、 もしかするとそれ以上かもしれない。

だからこそ…俺はたった今ガルヴに宣戦布告をした。

自分を変えるために。

自分を追い込むために。

「そうか、 少年も出るのだな。ならば『弱い者』と言ったこと、 重ねて謝罪しよう。 では、 再戦はその時に」

そう言って、ガルヴはくるりと踵を返して再び歩き始めたが、 何かを思い出したかのようにこちらを振り向いた。

「少年、 君は我と()()()()()気配の人物を見たことがあるか?」

瞬間、 俺は少しビクリとした。

同じような…となると、 この場合は『竜人ニルヴ』の事を指しているのだろう。

口ぶりから察するに、 この国にニルヴが居ることを知っている…もしくはその情報を何らかの手口から入手したのだろう。

しかし、 今の段階ではガルヴがニルヴを探す目的が明確でない以上、 ニルヴを少しでも危険に晒すのは回避したい所だ。

「同じ…ですか?」

「うむ、 我と同じ竜人なのだがな」

「すいません…流石に竜人は見かけたことないですね」

ここは知らぬ存ぜぬが1番だろう。

…だが、 ガルヴは無言のまま俺の目をじっと見つめており、 知らないと答えた俺の言葉への反応は一切なかった。

「ふむ……そうか、 少年が()()()()()()()今はそれでい」

口調からは、 俺がニルヴの事を知っている上で嘘をついている事は見透かしているのだろうが、 それを知った上で見逃す…と。

「そう…ですか」

俺は一言だけ告げて、 帰路に戻った。

そういうのなら…という口調から察するに、 今すぐにでもニルヴを見つけたい訳ではないのだろう。

兄として妹を連れ戻す為、 と考えるのが妥当が。 何かしらが原因で、 ニルヴを殺す為とでも言い出すかとも考えたが、 それは杞憂に終わって良かったと思う。

しかし、 俺とニルヴは既に契約を果たしている。

俺にもニルヴの力が必要だ。 契約を行ったことによってニルヴも人間を襲う必要も無くなった。 それはニルヴにとってもいい事だと俺は思っている。 そんなニルヴにはもっとこの世界を知って欲しいと考えているからこそ、 俺はニルヴを俺以外に渡すことは論外だ。

それがたとえ突如現れた兄だったとしてもだ。

…まぁ、 ニルヴがそれを望むのであれば話は別だが。

「遅いぞ! 早く来ないとわしが全部食べてしまうぞ!」

宿に近付いた俺に気付き、 ニルヴがこちらに元気よく駆け出してきた。 俺はそんなニルヴの頭をぽんぽんと撫でる。

「あうぅ〜、 き、 急にどうしたんじゃ?」

急に撫でられた事で目を細めながらもそれを受け入れるニルヴを見ていると、 先程まで考えた事など馬鹿らしく感じてしまった。

「何でもない、 ほら! さっさと食べよう」

俺はそう告げ、 ニルヴと一緒に宿へと戻る。 闘技大会の得られる情報は、 今出ていない参加者は当日にしかエントリーしないという予測の元、 ニルヴの面倒はアルフレッドさんが見てくれていたが、 宿でぐったり横になっている姿を見ると相当苦労したのだろうと伺えてしまう。

「おや、 戻った見たいだね…へぇ、 何かあったみたいだね。 ご飯でも食べながら聞かせてくれるかい?」

既に看破の眼で見透かされたが、 俺はアルフレッドさんに肩を貸し食事を摂るために移動した。 みんなの注文を終えた後、 俺は話を切り出した。

「ベルクリオさんとの修行の帰りなんですけど、 ガルヴと遭遇しました。 始めはニルヴとの関係を疑っての接触ではなかったみたいなんですけど、 別れ際に気付いたみたいでした」

そして俺は、 ニルヴを探していた事、 その時に感じたものは決して敵対意思ではなかった事、 そして…かなりの実力差があった事を話した。

一通り話し終えた後、 アルフレッドさんは何かを深く考えている様子だった。

そんな中で注文した商品が運ばれてしまい、 一旦話は中断となってしまった。




──────────────別の宿にて。

「…もう少し大きな宿はなかったのか?」

と、 1人の男がベッドに腰かけたまま同室の人物に話しかけた。 天井がかなり低く感じられる程の巨体で、 部屋の中だと言うのに肌身離さず背中に掛けてある大太刀は既に天井を擦っていた。

「しょうがないじゃない。 普通の人間はあんたみたいにデカくないのよ。 全く…人混みでも目立つったらありゃしないわ」

全身を黒いローブで纏い、 こちらも部屋の中だと言うのにフードを被っている女性だった。 その女性は部屋の椅子に足を組んで腰掛けており、 そのフードからチラリと見える綺麗な青い眼で男を睨み付ける。

「餓死寸前だったあんたを助けたのは間違いだったわ…」

落胆と言わんばかりに肩を落とす女性に、 ただ一言「すまない」と声を漏らす。

「べ、 別に謝る必要なんてないわよ……冗談が通じないわね…それより、 妹さんは見つかりそうなの? この国から気配を感じるとか言ってたけど」

「うむ、 それなら心配ない。 どうやら我が妹も主となるべき人物を見つけたようだった」

「そう、 それは…良かった、 で、 いいのかしら?」

と言いながらも、 男の表情を見ればとてもじゃないが納得がいっているという表情ではなかった。

「その契約主だが、 まだ子供だった」

「あら、 わたしもまだまた大人とは言えない年齢よ?」

そう言ってフードをとった彼女は、 自分のまだ幼さが残る顔を男に見せた。 翠色の短い髪を風で靡かせながら語る彼女の雰囲気は、 とても自分で子供を名乗る女性に出せるではない。

しかし、 そんな姿を見せたとて、 全く反応を示さない男に不満そうな顔を見せつつフードを再び被った。

「……その様子だと、 その子供についても何か掴んでるんでしょ?」

「うむ、 その少年は我らと同じ闘技大会に出ると豪語していた」

その言葉を聞いた途端、 女性は不敵な笑みを浮かべていた。

「へぇ、 それならしっかり相手してあげないとね────ガルヴ」

「うむ、 そうだな────ムニン」

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