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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第88話

「ほら、 そんな攻撃通用しないわよ!」

「いって! くそ…全然聞いてないじゃん」

ベルクリオさんとの訓練は、 スキルを一切使用せずに、 体術のみでベルクリオさんに一撃入れる…という訓練を行う事になったのだが、 これがまた困難だった。 そして、 小瓶の液体を飲んだことで発生した『身体の燃焼』だが、 これが中々目を見張るほどの脅威だった。 初めに話を聞いた時は眉唾だったものの、 その効果は直ぐに実感させられたのだった。 俺の身体強化系のスキルは主に『天眼』だが、 それを使用していないにも関わらず、 天眼に似た状態を再現することが出来ていた。 しかも、 反応速度だけでいえば天眼を上回っているとさえ感じていた。 考えるより先に身体が動いていた…とはよく言ったものだが、 『身体の燃焼』がもたらす効果はまさにそれだった。


だが…その状態ですらベルクリオさんに一撃入れることは未だ出来ていない。

初めはベルクリオさんだけ何かしらのスキルを使用しているのでは? と疑ったが、 俺の『観察者』では何もスキルを取得することが出来ない事を踏まえると、 俺からの攻撃を全て去なしているのは全て純粋な体術のみだということを表していた。

「さっさとかかってきなさい! ブチ殺すわよ!」

去なされた後に受けたカウンターで道場の壁まで吹っ飛ばされていた俺は、 ベルクリオさんの喝によりゆっくりと身体を起こした。 明らかにコンクリートが凹んでいるにも関わらず、 その見た目に反して身体の痛みはそこまで無い。 恐らく燃焼と何かしらの関係があるのだろう。

「言われなくても…すぐ一撃いれてやりますよ!」



「…なにもここまでしなくても」

「わ、 悪かったわよ」

反撃しようと試みた俺の攻撃は、 後半に連れて少しずつ燃焼にも慣れ、 その焦りからか一瞬だけベルクリオさんに隙が生まれた。 そのタイミングで俺はその隙を突いた…のだが、 そこでベルクリオさんはスキルを使用して俺をボッコボコにした。

「スキルの使用は禁止って言ってたじゃないですか…」

「だ! か! ら! 悪かったって言ってるでしょ!」

完全な逆ギレだった。

「それにしても、 燃焼の馴染みがやけに早いわね。 今日中には出来ないと思ってたんだけど」

出来ないと思ってさせる訓練なんてあるのか…?

しかし、 ベルクリオさんのいう馴染みという点は、 恐らく天眼を使っていた感覚に少し似ていたのが影響しているのだろう。 その経験がなければ、 ベルクリオさんの言っていた通り今日中には馴染めなかったはずだ。 未だに俺は『竜の血』の影響力を使用しなければ、 天眼を使うとすぐに脳に負担を掛けすぎてしまう。 もし、 この訓練で燃焼を完全に使いこなす事が出来れば、 天眼を使いこなす近道になるかもしれない。

気が付けば日もかなり落ちており、 もうすぐいつもの集合時間に差し掛かる頃だろう。

「闘技大会の為にも、 俺は燃焼を使いこなす必要があります。 何かコツはあるんですか?」

訓練の最中に感じていたが、 ベルクリオさんの体術は紛れもなく技術そのものだ。 それを燃焼まで使わせてもらっていた俺を容易く去なす技術自体は『観察者』では模倣することはできない。 こればっかりは訓練を続ける他ないだろう。

「まずは燃焼についてよく理解する事ね。 燃焼は、 簡単に言ってしまえば心拍数を上げる効果があるわ」

その結果、 血流を上げることによってもたらされる効果…それがあの運動能力の向上だとベルクリオさんは続けた。

戦闘真っ最中の極限状態だからこそ導き出せる最善手。

決死の状態にこそ感じる無意識領域の空気の流れ。

それらをもたらす効果がある『ドーパミン』というものを強制的に発生させる事が出来るのが『燃焼』のようだった。

その小瓶の調合はベルクリオさん独自で開発したものらしく、 市販はされていないのだとか。

それを可能としているのがベルクリオさんの職業ジョブが『薬師』だからだ。

俺の一矢報いた一撃に使用したスキルが薬師スキル『幻惑香』というスキルで、 ベルクリオさんがスキルを使用した際に獲得することが出来た。 そのお陰で職業を知ることが出来たのだが…。 まさかベルクリオさんが『格闘家』のような近接格闘の職業ではないということに俺は驚いていた。

あれだけの体術を使いこなしている技術のそれら全てが、 自分の実力でのみ実現していることに衝撃を受けた。

「ベルクリオさんは…その…格闘系の職業じゃないのにどうしてそこまで強いんですか?」

俺は一瞬、 伝えてもいないベルクリオさんの職業を何故知っているのか…と問われる事を考え言葉が詰まったが、 ここまで来てその技術を知りたい…そんな欲求の方が勝り問うた。

「アルフレッドから聞いてるわよ。 スキルを目の前で使われれば職業までわかっちゃうんでしょ。 だからそこは追求しないであげるわ。 そうね…質問に対しての返答だけど、 わたしはただ、 人間の身体の構造を理解している…それだけよ」

「人間の身体の構造…ですか」

俺は指を顎に当てて少し考える。

確かに言われてみれば、 構造までは理解していない。 自分の身体は自分がよく分かっているとはよく言ったものだが、 それは体調や怪我の具合の話だ。 今この場においての身体の構造は、 筋肉や視野、 反射神経、 そういった人の持つ能力の事を指しているのだろう。

「自分の筋肉の付き具合、 力の入れ方、 どこの筋肉を使うか…それらを理解出来たらあなただって出来るわ」

「簡単に言いますね…」

それが出来たら苦労しないと言うのに…。

「それなら、 明日はそこも含めて訓練しましょ」

そう言われ、 俺は既に日も落ちかけている頃になっていることに気が付いた。 どうやらかなりの時間特訓していたようで、 もうそんな時間になっている事すら気が付かなかった。

「そうですね、 今日はありがとうございました」

挨拶を手短に済ませ、 俺は少しばかりふらつきながらも、 ベルクリオさんの道場を後にし帰路を歩く。

闘技大会まであと2日…それまでに何としてもコツを掴まなければいけない。 でなければガルヴに手も足も出ずに完敗するのがオチだ。

「────少年」

と、 不意に背後から話しかけられた事に、 俺は反射的にナイフを抜いて構えてしまった。

「驚かせてしまって済まない。 我は道が聞きたいだけなのだ」

そこに立っていたのは、 190は軽く超える程の大柄であり、 ニルヴと同じく銀髪を雑に切ったような髪に紅い瞳。 体躯はかなり鍛え上げられており、 背中にはその身長を超える刀が収められている男だった。

「我は『ガルヴ』と言う。 安心してくれ、 我は弱い者虐めをするような輩とは違うのだ」

まさかこんな所で出会してしまうとは思ってもみなかった。 が。

弱い者虐め…ね。


「言ってくれるじゃねぇか…」

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