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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第87話

宿屋のカーテンから差し込み始めた木漏れ日に起こされた俺は、 アルフレッドさんに渡された師匠なる者の居場所が書かれた地図を片手に街を歩いていた。

アルフレッドさんの言う師匠という人物の情報は全くと言っていいほど教えられておらず、 俺が知り得ているのはその師匠の名が『ベルクリオ・ザクス』という名前というだけだ。

「ここ…か」

フリーハンドと記憶のみで描かれたとは思えない程精巧な地図のお陰で、 俺は一切迷うこと無く目的の場所へとたどり着いた。

ベルクリオ・ザクス…。

名前だけ聞くと、 中々戦闘を好みそうな名前という想像をしてしまう。 ガルヴとの戦闘のための師匠という事もあり、 筋肉隆々の高身長男性をイメージしている。

地図に描かれていた目的地は他の家とは比べ物にならない程豪華な造りをしており、 俺は初めてその建物が視界に入った時はこの国の城かと勘違いしてしまった。

「この建物は…なんだ? 無駄に高級感溢れてるな」

「無駄に…とは失礼なやつね! 一体どんな人間に育てられればそんな言葉が出てくるのかしら!」

急に大声で話しかけられた俺は、 ビクリと肩を震わせて驚いてしまった。

背後に立っていたのは俺の腰ほどしか身長のない少女だった。 葵い髪をショートカットに切りそろえており、 いかにも活発女子といった見た目だ。 腕を組んだ状態を俺の事を睨みつけており、 恐らくこの建物の関係者なのだろう。 俺の零していた言葉が聞こえてしまっていたようで、 その発言に激怒しているようだった。

「ごめんね、 俺はここにいる『ベルクリオ・ザク』って人に用があるんだけど…呼んできてくれるとありがたいんだけど、 どうかな?」

俺がそう伝えると、 少女は俺の脚を思いっきり蹴り上げて建物の入口へと向かっていった。

「さっさとついてきなさい!」

言動はかなり乱雑ながらもちゃんと案内はしてくれるようだった。 正直俺の発言を聞いていたなら尚更中に入れて貰えないとばかり思っていたが、 決してそうではないらしい。

まぁ、 蹴りは入れられたけど。

それは俺が悪いから甘んじて受け入れよう。 全然痛くもなかったし。

建物の中は外見とは全く別物で、 まるで道場のような造りをしていた。 ここにいるベルクリオさんは何かしらの武術の達人…ということだ。

「ってことは、 アルフレッドさんは俺に敢えて近接格闘の鍛錬をしろって事か…あの人も中々鬼だな」

全てが無理なら敢えて相手の土俵の上での戦闘…か。

「さぁ、 訓練を始めるわよ!」

「………え?」

道場の真ん中でくるりとこちらに向き直した少女は、 俺にそう言葉を投げた。

「え、 えぇと…ベルクリオさんを呼んでくれるんじゃ無かったの?」

「グダグダ言ってないで早くかかってきなさい! ブチ殺すわよ!」

おぉ、 なんて口の悪さだ。

しかし、 流石に年端もいかない少女を殴ったり蹴ったり出来たものではない。 だからと言って話を聞いてくれる素振りもない。

少し大人気ない気持ちもあるが、 ここは大人と子供では相手にならない事を分からせることさえ出来ればクリアといった所だろう。

「わかったよ。 でも、 俺が勝ったらベルクリオさんを呼んできてくれよ」

俺は体制を低く取り、 加速する準備をする。 それを見ている少女はというと…全く動こうともしない。 少しばかり待ってはみたが特に開始の合図をする訳でも無い様子なので、 俺は一気に少女の真後ろまで『神速』と『縮地』を利用して移動することに決めた。

「じゃあ…行くよ!」

そして俺は予め決めていた流れの通りにスキルを使用し、 俺の発した開始の合図から1秒も使わない速さで少女の真後ろまで移動した。

「はい、 これでおしま────」

「──ふんっ!」

その瞬間、 俺はかなり広い道場の端まで吹っ飛ばされていた。 壁に激突した衝撃で背中に激痛が走るも、 先に攻撃された箇所が全く痛んでいない。 殴られたのか、 蹴られたのか、 はたまた何かしらのスキルなのか…。 しかし、 それよりも背中にかかった衝撃のせいで呼吸が出来ない。 息を吸うことも吐くことも叶わない状態のまま、 俺はそのまま気絶してしまった。



目を覚ました俺は、 見慣れないベッドの上だった。

「なんだったんだ…あの女の子は。 まさか…魔族──」

「誰が魔族よ、 失礼ね!」

聞き覚えのある声と共に頭に耐え難い激痛が走った。 涙目になりながらも声のした方を見ると、 そこには魔族としか思えない少女が拳を握った状態で立っていた。

激痛の正体は、 少女の拳から放たれたもので間違いないだろう。 しかし、 俺も子供の頃から拳聖のばあちゃんの拳を受けてきたが、 これ程までの衝撃ははじめてだった。 勿論全力でゲンコツしていた訳では無いだろうが、 躾という点に置いては手を抜く2人では無かった。

「アルフレッドから言われて来たんでしょ」

未だ目の前はチカチカ光っているものの、 少女の口から『アルフレッド』という言葉を聞いて、 ハッと我にかえった。

「な、 なんでアルフレッドさんの名前を…。 い、 いや…アルフレッドさんを呼び捨てにしている事、 それにあの反射神経に一撃の強さ、 もしかして……」

「全く、 アルフレッドから何も聞いてないの?」

半分は推測、 そしてもう半分は冗談のつもりだったが、 今の言葉でそれら全てが確信に変わった。

「あたしは『ベルクリオ・ザクス』よ」

…マジか。

俺は名前からして、てっきり男かと思っていたが…まさかこんな小さな女の子だなんて、 誰が想像出来ようか。

これならアルフレッドさんが『ベルクリオ・ザクス』について何も教えてくれなかった理由も何となく察した…が。

「あの人…実は結構性格悪いな!!」

アルフレッドさんの事だ、 俺がこうなる事も予想済みだったのだろう。 予想した上で、 こうなるように線路を引いたとなると、 それはもう確信犯だ。

「昨日アルフレッドが、 突然全身ボロボロの状態で尋ねて来たのよ。 初めは治療をしてもらいに来たかと思ったんだけどね」

そう切り出し、 ベルクリオさんは昨日の出来事を語り始めた。

ベルクリオさんの話によれば、 昨日の夕方頃にアルフレッドさんはボロボロの状態でこの道場の戸を叩いてやってきた。 その時は治療の為と思ったものの、 アルフレッドさんはあっけらかんとした口調で1つお願いを申し出た。

それが今回の俺への体術訓練だった。

アルフレッドさんの怪我を治癒したのは俺だ。 だからこそ、 あの時のアルフレッドさんの怪我の状態はベルクリオさんが言うあっけらかんとした態度がとれる程余裕のある状態ではなかったはずだ。

それなのに…アルフレッドさんは、 ベルクリオさんからの訓練を付けさせるために気丈に振る舞った…ということなのだろう。

「さぁ、 無駄話はこれくらいにして…これ飲んだら特訓を再開するわよ」

ベルクリオさんは、 俺に小瓶に液体が詰まった物を手渡してきた。 しかし、 その小瓶の中身の液体は何色とも言えないような…言ってしまえばかなり不気味な色をしたものが詰まっていた。

「こ…これを飲むんですか?」

正直言って、 飲んでしまえばぽっくりイきそうなまであるぞ。

俺はチラリとベルクリオさんを見ると、 案の定人間が放つ眼光とは思えない程の視線を俺に送っていた。

「……………飲みます」

威圧に萎縮した俺は、 黙って指示に従い小瓶の中身を一気に飲み干した。

小瓶を飲み干した瞬間、 身体の芯から熱くなるような感覚が起き始めていた。


「今、 あんたの身体は常に燃焼している状態になっているわ。 その状態ならいつもより身体の動きが素早く動かせるはずよ。 さぁ、 グズグズしてないでさっさと来なさい!」

そして俺は、 再び道場へと移動した。

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