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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第86話

ニルヴ曰く。

「あの頃のわしは人間の話になど興味がなかったのでな、 死に際に何か言うとっても気にしてなかったのじゃ! ほら、 わし、 竜じゃし」

と。


「…だからって普通自分の兄の事なんか忘れるか?」

と、 そこまで言った後に俺は後悔した。

俺が人にそれを言える立場だろうか。

母親の事も知らずに、 あまつさえ自分が何者なのかすら知らなかった自分が人に言えた事では無かった。

「アルフレッドさん、 そのガルヴという男は…強かったですか?」

「あぁ、 彼はかなり手強いよ。 ニルヴちゃんもそうだろうけど、 竜人だから職業もなければスキルもない。 彼に職業を付けるなら…そうだね、 『暴力家』…なんて職業になるんじゃないかな」

勿論そんな職業はない。 だが、 腕っ節だけでアルフレッドさんを負かした事を考えると、 アルフレッドさんがそう言いたくなる気持ちも分かる。 なんせこの世界ではスキルや職業で決まっていると言っても過言ではないだろう。 そんな中で純粋な『力』のみでやってのける竜人というのは、 もはや存在そのものが兵器と化してしまう。

ニルヴだってそうだ。 今は俺と契約している影響もあり人を遅い喰うことは無くなったが、 かつてはグロリア王国の兵士達を食事としか見れていなかった。

しかし、 そこで俺は疑問を覚えた。

何故ガルヴは『闘技大会』に参加する手段を用いているのか…だ。 人を食事と見る竜人ならばこの国に来た時点で殺戮の限りを尽くして食事をするのではないのか? アルフレッドさんを襲った時も、 攻撃こそすれ致命傷は与えていなかった。 更に言えば捕食もしていない。

「アルフレッドさん、 そのガルヴという男の近くに他の人はいませんでしたか? 俺とニルヴみたいに、 パートナーてしての役割を持っている人物がいたと思うんです」

俺の話を聞いたアルフレッドさんは少し考えるような仕草をした後、 首を横に振った。

「エントリーしていた時も、 僕が話掛けた時も近くには誰もいなかったね。 エントリー会場に人はいたけれど、 特に彼と親しげな人物は見当たらなかったよ」

「そうですか…」

ならば、 ガルヴは自らの意思で人を食事として見ることをやめたのか、 もしくはニルヴの時とは違う形で実験させられたのか。 俺とは違う条件だというなら今考えたって可能性の話でしかない。 これは本人に直接聞くのがいいのだろうが…。

「ガルヴは人の話を聞くようなタイプなんでしょうか。 アルフレッドさんを襲ったのなら、 最悪話なんて聞かずに鉄拳制裁…なんてことも」

「どうだろうね、 そればかりは闘技大会の時にでも話をしてみればいいんじゃないかな? でも、 僕の時は情報屋のスキルを使っての会話だったから、 それに気付いて警戒していたんじゃないかな」

どちらにせよ闘技大会の時には敵として戦わなければいけないのだから、 戦闘で引け目を感じていては勝てるものも勝てまい。 今はガルヴがどういう相手なのかではなく、 どういう戦闘スタイルなのかを考えるべきだ。

「ガルヴが中々感の鋭い相手だということだけは分かりました…。 でも、 僕はただアルフレッドさんが手も足も出せずに負けたとは思っていません」

「ふふ、 嬉しい事を言ってくれるじゃないか」

俺の言葉に満更でもなさそうにニヤニヤしながら頷くと、 一瞬にして情報の報告…つまり仕事の顔に切り替わった。

「勿論調べあげてある。 スキルを使わない相手だという事を考えれば、 まずこの戦い方で間違いないだろうね」

「成程、 それで…ガルヴの戦闘スタイルは一体どんなスタイルですか?」

そして、 アルフレッドさんは自分の身体を囮に掴んだ情報を教えてくれた。

まず、 ガルヴの身長は190は軽く超える程の大柄であり、 ニルヴと同じく銀髪を雑に切ったような髪に紅い瞳。 体躯はかなり鍛え上げられており、 背中にはその身長を超える刀が収められていたらしい。

「刀…ですか」

「あぁ、 剣とは少し違って刃は片方にしかないんだ。 あまりこちら側では見られないタイプの剣だね。 でも、 普通の刀はあそこまで長くはないはずだよ。長い物でも100センチかそこらのはずだ」

「その倍…ですか」

長けりゃいいってもんじゃないだろ…。

剣との戦闘での主な有利性は距離にある。 身長を超える…ということは200センチはあるということだろう。 そんなもの、 距離という有利性を完全に潰されていると言っても過言ではない。

「でも、 そんな長さの刀…普通は振れないでしょう?」

「だろうね。 ()()()()()()()()()()()じゃあない。 でもそれは、 彼が竜人であるからこその武器…といった所なんじゃないかな」

刀というもののインパクトに気を取られすぎてしまっていたが、 それを振る者を考えれば納得せざるを得ないだろう。 この小柄なニルヴでさえ、 身体機能は人間の比ではない。

「その刀が魔剣のような特殊な武器かどうかは…ごめんね、 そこまでは分からなかった」

そうか、 アルフレッドさんは武器も使わず素手だけで圧倒されていた。

「200センチの刀というリーチに加えて、 近接格闘もかなりの腕前…。 これは中々厄介な相手ですね」

厄介という言葉だけでは片付けられないレベルの相手だが、 一体どうやって相手すればいいのかがさっぱりだ。 近接、 中距離を守る相手には遠距離からの攻撃が鉄則ではあるが、 あいにく俺は弓を使ったことがない。 魔法系のスキルで遠距離から攻撃を…いや、 ニルヴを超える身体機能を持っていると思って望むべきだ。 ニルヴ相手に魔法系スキルが当たるか?

否だな。

Sクラスの大半をたった1人で相手取る事が出来るニルヴに通用しなかったんだ。 魔法系スキルでの遠距離など容易く躱されてしまうのがオチだろうな。

「ゼ…くん、 ゼン君!」

と、 俺はガルヴの戦闘対策に集中しすぎており、 アルフレッドさんが呼んでいる事に全く気付く事が出来ていなかった。

「す、 すいません…つい集中してて」

「あはは! 君はすごいね」

アルフレッドさんの言葉を俺は理解することが出来なかった。

すごい?

このままではガルヴに手も足も出せずに終わってしまうのに?

「全く凄くもないですよ…近距離も格闘センスでダメ、 中距離も刀でダメ、 遠距離からの魔法系スキルの攻撃も、 竜人の身体機能の前では手も足も出ませんよ。 このままでは勝てないと腹は括ってますけど」

「そうじゃないよ。 そこまで圧倒的な存在を前にしても『勝つ』という選択肢を忘れない事に…さ。 普通なら諦めるような強敵だよ」

まさかアルフレッドさんがそんなことを思っていてくれていたなんて想像もしていなかった。

おれはそんなアルフレッドさんの言葉に、 何か救われたような気すらしていた。

「アルフレッドさんがそう思っていてくれているなら……尚更勝たなきゃいけませんね」

「そう言ってくれると思って、 ゼン君にとってピッタリな師匠になる人の情報を伝えようかな♪」

そうして俺はアルフレッドさんに教えてもらった人物を、 明日に尋ねることに決めた。

アルフレッドさんが言う師匠が、 一体なんの師匠になるのかはまだ分からない…が、 アルフレッドさんが俺のためになると教えてくれているのならば尋ねない訳には行かないだろうな。

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