第85話
アルフレッドさんから今得ている闘技大会の情報を教えてもらい、 闘技大会の参加者が増える度にその都度新しい情報を貰っている。 正直、 ここまでの情報を1人で集めている事に驚きを隠せない状態がここ3日続いていた。
情報収集の速さ、 そして危険視しなければいけない相手、 各参加者の戦闘スタイル、 クセなど…情報だけでなくその相手との戦闘を想定したアドバイスも含めて協力してくれている。 初めは俺も情報収集に加わり、 より早く情報を集めようと考えていたが、 その案は一日にして意味が無いことを思い知らされてしまった。
情報屋、 アルフレッドの実力を見てしまった今ではそんな気は一切起きなくなっていた。
しかし、 それは俺にとっても利点であり、 アルフレッドさんが情報を集めている間は訓練をしており、 色々なスキルを会得している俺だからこそ繋げられるスキルの流れを模索していた。
闘技大会の開催まであと2日という所まで迫っている今、 この時間はかなり有意義なものだ。 相手はニルヴに頼み、 それはニルヴにも対人との戦闘訓練も兼ねている。
「…ふぅ、 今日はこんな所で終わりにするか」
「疲れたのじゃ!」
疲れた…と言いながらも公園を駆け回る姿からは、 流石竜人といえるスタミナを誇っていた。
「そろそろアルフレッドさんも戻ってくる頃だし、 集合したら飯にするか」
時刻は既に18時を過ぎており、 日も落ちかけている。 いつも18時頃にこの公園に集まることにしており、 ご飯を食べながら今日の収穫を話し合う。 アルフレッドさんからは新しい情報を提供してもらい、 俺はスキル構築の進展を。
そしてニルヴはプリンを頬張る。
──しかし、 18時などとっくに過ぎ、 もうすぐ19時にさしかかろうと言うのにアルフレッドさんが公園に姿を見せることはなかった。
「…何かあったのかな?」
「ううむ…何か連絡は来ておらぬのか?」
何かあれば直ぐに通信魔道具で連絡を寄越すよう打ち合わせはしているが、 その通信魔道具からの連絡は未だない。
…そろそろ捜索に行くべきなのでは…と思っていた時、 公園の入口から1人の男性が入ってきた。
それは紛うことなきアルフレッドさんだったが、 彼が着ている服は所々破れており、 土埃まみれになっていた。
「や、 やぁ…随分待たせてしまったね…」
「アルフレッドさん!? 一体何があったんですか!」
既に体力の限界値に達していたのだろう…。 アルフレッドさんは公園に着き、 俺達の顔を見た途端フェンスに身体をもたれかけて倒れ込んでしまっていた。 ここまで疲労しているのは、 この3日間でも見たことがなかった。 朝早くから出掛け、 18時頃に戻ってくる間はどうやらかなりの移動をしているみたいだが、 それでもここまではなっていなかった。
「…今日エントリーしに来た中にかなりの手練が居てね、 少しばかり調査をと思って話しかけたらこのザマだよ。 彼…かなり強いよ」
俺はその男の調査報告を聞く前に、 一先ずアルフレッドさんに治癒スキルを使用し宿へと帰還した。 あらかた治癒も済んだ頃、 アルフレッドさんは本題に入った。
「さて、 そろそろ今日集めた情報を伝えるよ。 僕をコテンパンにした相手…彼の名前は『ガルヴ・アーナ』。 僕は彼を見た瞬間…」
そこでチラリとニルヴの方を見やる。 それに対してニルヴは小首を傾げていた。 俺もニルヴと同じような反応をしてしまったが、 そのガルヴと言う男とニルヴの方を見た事に何か因果関係があるに違いないとは察していた。
「僕は…ニルヴちゃんと何か近しいものを感じたんだ」
「む? わしとか?」
しかし、 ニルヴは名前を聞いた時も全く反応を示すことはなかったし、 更に言えばここまで言われても疑問は拭われていない様子だった。
むぅ〜、 と唸りながら『ガルヴ』という名前について何かを思い出そうとしている様子だが、徐々に眉間のシワが増えていくばかりだった。
「アルフレッドさんの『眼』を疑う訳ではないんですけど、 それは本当なんですか? だって……」
だって、 ニルヴは人と竜との混合実験によって生まれた竜人だ。 明確な親がいる訳でもなく、 強いてあげるならばその実験に携わった人間全員が親のようなものだ。 まさかその実験に関わっていた人間…という訳ではないだろう。 生命体の実験を行うならば、 その職業は『研究』に基づく職業だろう。 そしてそんな人間が闘技大会などに出るとは考えにくい…。
混合実験なら、 姉弟という線もないだろう。
「はははっ、 悩んでいる所済まないが…その線が正しいよ、 ゼン君」
「えっ? その線…って、 まさか『姉弟』ですか? でも、 以前お話した通り、 あの実験所は既にニルヴが破壊してますよ。 それに研究員だって…」
その混合実験で生まれたばかりのニルヴは、 生まれてすぐに研究員を全員喰い殺している。 なのでニルヴの後に混合実験が行われるはずも無く…いや、 研究所はどうだ? 流石のニルヴも鉄までは喰わなかっただろうから、 もしかするとその実験データが残っており、 『顎』のリーダー、 イギルがニルヴを連れていった後に誰かがそのデータを元に再び実験をした…というのなら話は別だ。
「もしかして、 また誰かが実験を行った…という事ですか?」
それならば、 その研究所は俺が全て消去しなければいけない。 またニルヴの時ような実験が行われていると思うと、 心底腹立たしい。
「いや、 それはハズレだね。 その実験所は僕も出向いたことがあってね…そこには今は何もなかったよ」
ん?
ならそれこそ姉弟という線はなくなってしまったのではないだろうか。 既に実験は行われていないとなれば、 ニルヴに姉弟が出来ることはないだろう。
しかし、 俺はアルフレッドさんからその考え方が根本から間違っている事に気付かされた。
「そう、 もう実験は行われていない。 だから、 ニルヴちゃんに弟が出来ることなんてまずない。 勿論妹もね。 だから、 『ガルヴ』は弟じゃあないんだよ」
「弟じゃ……ない」
つまり────────兄。
その時、 何かを思い出したかのようにニルヴは自分の手のひらを叩いた。
「そうじゃった! 死に間際の人間が言っておった! わしには兄がいると! 」
「そんな重要な事忘れてんじゃねーー!!!」
宿屋には俺の怒号が鳴り響いていた。




