第80話
「なにぃーーーっ!? ゼンが何処にも見当たらないだってぇーーーっ!?」
朝のホームルームの中、 ガイルはとてつもなく大きな声で驚きを露にした。
ゼンが居ないという報告は同室のアランとイグニスから伝えられていた。 どうやら置き手紙があり、 そこにはこう書かれていた。
『もっと強くなる為にニルヴと修行します。』と。
そしてPSの後にはこう綴られていた。
『食堂からの請求はニルヴが食べたプリンです、 すいません。』とも。
「お前達は…ゼンが何処に行くか聞いていないのか?」
ガイルはガタガタ震えながらアランとイグニスの肩を掴む。 その震えはゼンの事が心配で…ではなく、 勿論その気持ちも含まれてはいるだろう…しかしそれよりも気にしているのが、 そのゼンの祖父母、 オルフェウス・デウスとグリシャ・デウスの事だった。
しかし、 そんなガイルの希望を打ち砕くかの如く、 アランとイグニスは首を横に振った。 最後の頼みの綱と言わんばかりにモノの方を見るが、 明らかに落ち込んでいる様子のモノを見て膝から崩れ落ちてしまった。
しかし、 アランはゼンが何処に向かうかは知っていた。
初めはどこの街に向かえばいいかを教えたのは、 他でもないアランだった。
「…と、 とりあえず学長に連絡と…それから…」
と、 胃が痛いのかお腹を擦りながら、 ガイルはブツブツとこれから行うことを考えながら教室を出ていった。
「…大丈夫だろうか、 ゼン君…」
アランが教えた国は、 比較的安全な国ではある。 しかし、 この国も比較的安全な国として名が上がることも多い国だ。 それでもココ最近で色々な事が起きていた。 その国でも何が起きるか分からない。
アランはゼンの安否を願いながら自らの席に着くのだった。
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グリスタリタ王国。
「…これ、 借りてきて良かったんだろうか」
俺はグリスタリア王国の入口での検問待ちの間に、 証明書の準備をしていた。大抵は自分の国から発行してもらうものだが、 自分が旅をすることを伝えたのはアランのみ。 そのため証明書を発行してもらうことは出来なかったが、 代わりにアランから受け取ったのは、 アランの『ディッフィ家』の家紋の入ったメダルだった。 アラン曰く、 これがあれば大抵の国への出入りが可能になるとの事で譲り受けたが、 友人とはいえ自分の家紋をそう易易と渡してしまって良いのだろうか…。
アランから教えてもらったこの国は、 証明書さえきちんと持っていれば入国出来ると聞いている。 そして、 毎月行われる闘技大会があり、 そこで優勝することが出来れば賞金も手に入る…とも。 俺としては優勝した際の賞金も欲しいが、 それよりも出場する人達から様々なスキルを取得することができる方が大きい。 万が一負けてしまったとしても、 観客席から見ることが出来る為、 優勝した強者達から多種多様なスキルが取得出来ることはまず間違いない。
そして、 そんなことを考えているうちに俺達の番になった。 ニルヴには角と尻尾を隠して貰うためにフードを被せており、 一応提出したニルヴの職業は『魔術師』だ。 それなら雰囲気的にフードを被っていてもそこまで怪しまれないだろう。 俺は入試の時と変わらず『剣士』だ。 そして、 アランから借り受けたディッフィ家の家紋のお陰で怪しまれる事もなく難なく入国することが出来た。
いつも一緒にいた友人が、 他国まで知れ渡っている名家だと言うことを改めて実感し、 少しむず痒さを覚えていた。
「…あ、 すいません。 1つ聞きたいんですけど、 この国で開催される闘技大会に興味があるんですけど…受付ってどこに行けば出来ますか?」
わざわざ聞き込みするのも面倒なので、 俺は守衛をしている騎士に尋ねた。
「闘技大会…? やめとけやめとけ、 ありゃ八百長だ」
「おい! 滅多なこと言うなよ…」
1人の守衛の『八百長』という言葉に、 もう1人の守衛は驚きを隠せずに止めに入るが、 「誰も聞いちゃいねぇよ」と話を続ける。
「一応真剣試合ではあるがな、 毎回『ローブ』っていう、 名前の通りデカいローブを着た男か女かも分からない人物が優勝していくんだ。 俺はその『ローブ』ってやつは、 この国が雇っている最強の格闘家だと踏んでるのさ」
ほほう、 最強の格闘家か。
それは是非とも『観察』させて頂きたいものだ。
「そもそも君みたいな子供が出て勝てる世界じゃねぇよ」
「……ちなみに、 年齢制限とかはないんですよね?」
聞き捨てならない事を言われた気がしたが、 今の俺は強くなる為にやってきたのだ。 そんな事で怒っていては話にならない。 怒るならもっと強くならなくては…。
怒りを鎮めつつも情報は確保出来た。
まず、 この闘技大会には年齢制限はなく、 職業さえ持っていれば参加出来る。
闘技大会開始ギリギリまで受付は行っており、 開始と同時に締め切られてしまう。 開催は5日後のようなので、 まだ割と余裕はある。
初めはバトルロワイヤルで、 各闘技場毎に数名で割り振られ、 そこから4名まで進出となる。
その残った人数で、 トーナメントが行われ、 最後の1人が優勝となる。
…という流れのようだ。
一先ずは宿を探すのが先決だろう。 この国の地理を把握していないので、 宿探しを後に回した結果見つからずに野宿…なんてことは避けたい。 その後は…どこか人が集まりやすくて闘技大会について情報を集められそうな場所だ。 先日のメフィスト、 『夜』、 指先の化け物の討伐のお陰で国から多額の報酬を貰うことが出来たので、 当面金銭に困るようなことは起きないだろう。
…ニルヴの食費で半分程持っていかれてしまいそうなのが難儀なところだ。
「さて、 これから宿を探すが、 念の為にも騒がないようにしてくれよ」
「おぉーー!」
ニルヴは拳を天に翳して元気よく返事をするが、 その元気良さが逆に心配になってくる…。 職業を偽っている以上、 闘技大会まではなるべく目立たないようにしなければ。




