第78話
ものは試しに、 俺はアイギスの耐久力を調べるのと、 メフィストの卵の攻撃速度は俺の固有スキル『天眼』でも追える速度かを調べる事にした。
天眼を使用し、 思考加速を極限まで引き伸ばした状態で、 アイギスを構えて1歩ずつゆっくりと近付いて行く。
そして、 とうとうメフィストの攻撃射程内に踏み出した瞬間、 その球体の側面が一瞬プクリと膨れ、 弾けるようにして細長い触手のようなものが姿を現した。 その触手はしなるように横薙ぎにアイギスへと攻撃を叩き込み、 俺はその衝撃で数メートル後方へと弾き飛ばされてしまった。
「…かなりの衝撃だが……生きてる」
攻撃を受けたアイギスを確認すると、 その盾には傷1つなく、 輝きは衰えていなかった。 1度天眼を解除し、 俺は何気なくアイギスを『観察眼』で確認する。
聖物: 聖盾 アイギス
固有スキル
『雷属性完全無効』
『全属性耐性』
『腐食攻撃完全無効』
『破壊不可』
…なんだこの完全に防御特化の大盾は。
恐らく、 前回俺が破壊した時は不完全で、 その際には『破壊不可』という固有スキルはついていなかったのだろう。 しかし、 アランの鍛錬のお陰で『破壊不可』が付与されており、 メフィストの攻撃すら傷1つつかない耐久力を手に入れたという訳か。
アイギスがメフィストの攻撃を防ぎ切る事が出来る事を把握出来た上に、 俺の天眼ならギリギリ追える事まで分かった。
「くくく、 竜人の本領を見せる時がきたの! 」
煌びやかに輝く銀髪を靡かせながら、 キラリと光る朱眼。 その瞬間、 俺は違和感を覚えた。
「な、 なんだこれ…視界が…?」
「これこそ我が竜人の竜技…視界共有じゃ」
俺は、 自分の視界が少しばかりズレていると思っていたが、 それは隣に立つニルヴの眼を通して見ていた情景なのだと知る。 しかし、 視界がブレているにも関わらず不思議と見にくさを感じられない。 普通なら自分が見ている方向とは別の情景も目に飛び込んでくるのであれば、 その視界の悪さに混乱しそうだが…。
「この竜技は契約を結んだ相手とのみ使えるものでの。 その情景も見ているのではなく、 感じていると言ってしまっても良い」
成程…しかもこの視界共有のお陰でニルヴにも『天眼』の思考加速状態での情景を伝える事も可能となる訳だ。
この視界共有…2対1どころのアドバンテージではない。
「──ゼン君! モノ君からの伝言で、 『この国の聖騎士達は全て引き止めてある』との事だ! 今のうちに! 」
機は熟したとは正にこのことを言うのだろう。
その時、 今までずっと黙っていた狼の魔獣がメフィストへと奇襲をかけに飛び出してしまった。 その巨大な体躯からは考えられない程の速さで鋭利な爪で引き裂くべく攻撃すると、 メフィストは今までの細い触手ではなく、 平たい…まるで盾のように広げた。
結果、 狼の魔獣の爪は防御を突破することは出来ずに防ぎ切られてしまった。 メフィストは浮遊している状態にも関わらず、 その場から一切動くことなく攻撃を防いで見せた。
「主…あの触手の盾じゃが」
「…あぁ、 形がアイギスそっくりだ」
メフィストは、 この『卵』という状態のまま学習しているとしか思えない。 メフィストは防いだ触手の盾で狼の魔獣の手を包み込み、 そのまま捻るようにして引きちぎっていた。 想像を絶する痛みに狼の魔獣は雄叫びを上げており、 メフィストはそれを体内へと吸収するように身体に埋め込んだ。
刹那、 まるで全身の毛を逆さに引っ張られたと錯覚してしまう程の恐怖が襲いかかった。 言わずもがなメフィストだった。4本の触手を身体から生やし、 それを地面に突き立てた。 地面からの攻撃かと警戒したが、 その予想は外れ、 メフィストはその触手を器用に使いながら今まで下に位置していた場所をゆっくりとこちらに見せるように動き出した。
──────そこには切れ目のようなものがあり、 それが『眼』であることは瞬時に理解した。
その眼はゆっくりと見開き、 その眼はじっくり観察するかのようにこちらを眺めてきていた。 黒い瞳に紅い瞳孔は、 悪魔を見たことがない俺でも…それは悪魔である象徴と感じられるほど不気味だった。
「…成程な、 確かにこんな圧を感じれば絶望を感じるのも理解できる…が、 生憎俺には相棒がいるんでね」
先手を仕掛けたのはニルヴだった。 今やニルヴにも『天眼』の力が影響しているので、 横薙ぎに攻撃してくる触手に対し、 見事な身のこなしで全てを回避しつつ一気に距離を詰めた。
「それ!」
小手調べと言わんばかりにグーパンをお見舞いするも、 瞬時に触手を盾のように変形させて防いだ。 しかし今度は効いているようで、 少しばかりよろついているようにも見える。
ここぞと俺は縮地を使用して背後に周り、 ナイフで斬り付けるも、 見た目とは裏腹にこの表面はかなり硬かった。 スキルを使用せずの斬撃だと、 差程のダメージを与えることは出来ないようだ。 防御を怠らず、 牽制の為にスキルを使わず斬撃を繰り出し、 ここぞという隙にスキルを使用して斬撃でダメージを与えねばなるまい。
スキルなしの斬撃が効かないと分かった今、 これ以上欲をかけば俺の命は一瞬で刈り取られてしまいかねないので、 俺は早々に距離をとる。
「流石卵って言うだけあって…中々硬いな」
その硬さのものを身体能力の高さだけで素手殴りするニルヴには脱帽だ。 ニルヴは完全にメフィストの間合いから離れず一定の距離を保ち、 更にメフィストの猛攻を回避しつつタイミングを見計らって拳で殴りつけていた。
…つまり。
「完全に俺からマークが離れてるな…1発デカいの狙うなら、 今!」
「ゼン君! これも使ってくれ!」
そう言ってアランがこちらに投げ渡してきたのは、 まさかの『聖剣エクスカリバー』だった。 アイギスが使えると判明した今、 このエクスカリバーも扱える事は分かっているものの、 勇者といえば聖剣、 聖剣といえば勇者と連想される程のものを渡してしまって良いのだろうか…とも思ったが、 現状その武器はかなり有難い。 俺の持つナイフでは深いダメージは与えられないだろうから、 何度も斬り付ける必要があると思っていた。
「…恩に着る」
俺は地に刺さるようにして聳え立つエクスカリバーを引き抜き、 身体能力が下がらないギリギリのラインまで魔力を注ぎ込む。
────その時、 エクスカリバーはアランの時とは違う光を放った。
アランが使っていた時は、 神々しく光り輝いていたエクスカリバーが、 今は赤黒い光を放ち、 やがて徐々にその刀身さえ形が変化していった。
「…なんだ、 これ」
黒い刀身に赤い重瞳の紋様が刻まれたその剣に俺は『鑑定眼』を使用した。
勇剣 ガラティーン
固有スキル
『理ノ破壊』
どうやら神様は俺を勝たせたいらしい。
『理ノ破壊』のスキル効果は、 『固有スキル』の無効化だった。




