第77話
さて、 カッコつけて負ける気がしないと言ったからには何か作戦を立てなければなるまい。 一先ず球体の魔獣…基悪魔の卵、 メフィスト=フェレスの固有スキルをしっかりと把握しておこう。
固有スキルの内容も、 鑑定眼で把握できるようだ。
『逃走不可』
これはメフィスト=フェレスに認知されてしまった対象の認識に、 『逃走出来ない』という暗示を刷り込ませるスキルのようだ。
『絶望』
これも『逃走不可』と似たような内容で、 認知した対象に『絶望』の感情を植え付けるスキル。
『魂狩』
これは、 対象の殺害に成功した時に対象のもつ全てのスキルを強奪するというスキル。
『魔法攻撃完全耐性』
名前の通り、 魔力を使った物理以外の攻撃に対しての完全耐性。
『状態異常完全耐性』
俺とアランがもつ『強者の意思』の完全上位互換。 ありとあらゆる状態異常を完全に無効化するというもの。
『身体異常完全耐性』
身体機能を低下させる、 いわゆるデバフ系スキルを無効化するというもの。
『治癒妨害攻撃』
これは自信が与えた攻撃による傷は治癒スキルでの治癒を妨げるというもの。
『致命傷攻撃』
自信が与えた攻撃による傷は、 例えかすり傷だろうが対象に致命傷を与えるというもの。
今のところメフィストの方から攻撃を仕掛けてくる素振りはない。 恐らくこいつを蠱毒の箱に捉えていたシュルベルトは、 解放した際の位置が完全にメフィストの攻撃射程範囲内だったと考えられる。
つまり、 グロリア王国の聖騎士達が来るまでではあるがそれまでは作戦を考える位の時間は確保出来そうだ。
さて、 相手の固有スキルを纏めた上での策戦を考えるべきだが…どうしたものか。 あまり俺は魔法攻撃系のスキルをあまり取得しておらず、 近接格闘系のスキルの方が格段に多い事はかなりプラスだ。 それに加えて、 俺には『天眼』がある。 ニルヴとの契約で手に入れた『竜の血』で身体能力を強化、 更に『天眼』で各段まで思考加速させた状態なら、 この規格外の卵に一矢報いる事が出来るかもしれない。
あとは、 メフィストの攻撃射程範囲を把握しなければならない。
俺は足元に転がる石を広い、 それをメフィスト目掛けてゆっくり投擲すると、 それはメフィストに当たる前に粉々に砕け散っていた。 目測だけで算出すると、 大体メフィスト本体を中心に約半径1m程が攻撃射程範囲内だと分かった。
「主、 試しに魔法攻撃してみてはどうじゃ?」
「そうだな、 『アイシクル』」
俺は初めて覚えた魔法攻撃技、 アイシクルをメフィストに放つと、 自分が魔法攻撃に対して耐性を持っていることを知っているからか、 メフィストはそれを破壊せずに生身で受け止めた。
「やっぱり魔法攻撃は通用しないな…こりゃ決死で近接して倒すしか道は無さそうだ」
「主は気付かなんだか? 」
近接しか道はないと思い落胆してしまっていた俺をよそに、 ニルヴは勝ち筋でも見出したかのような顔で俺を見ていた。
「先程の小石は瞬速で迎撃したにも関わらず、 何故魔法攻撃は受けたのか…ここまで言って分からぬ主でもなかろうて、 わっはっは!」
ニルヴの話を聞いた瞬間に、 俺も発言の意味を理解することが出来ていた。
「…つまり、 魔力さえ込めなければ投擲物は通用する」
要は攻撃射程範囲外がら投擲や弓等を使えば、 メフィストからの迎撃は置いておいて、 当たればダメージは与えることが出来る。
…まぁ、 その迎撃が厄介なのだが。
「アラン、 ひとつ頼みがあるんだが」
「うん、 僕の力が必要ならいくらでも貸すよ」
イグニスと『夜』の仲間の治癒を終えたアランは、 俺の側まで歩み寄る。
「この方法はまだ使えるかどうか分からないが、 アランの『聖盾アイギス』を借りることは出来ないか?」
俺がナイフを使った移動を利用した攻撃のオリジナルスキルの防御に使用した盾、 『聖盾アイギス』はかなりの防御力を誇る。 あの時はアランの顕現も完全ではなく、 イメージがついていなかったのが原因で砕けてしまったが、 今のアランが顕現させるアイギスならば、 俺はヒビひとつ入れることは叶わないだろう。
「聖物は勇者にしか扱えないと言われていたけど、 モノ君はアイギスと同じ『覇王道』の一部である『神槍ゲイ・ボルグ』を顕現させていたからね、 ひょっとすると、 可能かもしれないよ」
一応、 モノは『研究者』のスキルで自ら顕現させている。 対して俺はアランが顕現させた聖物を扱う訳で、 そこが大きな分かれ目となる。
「…『顕現せよ、 アイギス』」
アランがスキルを発動させると、 アランの全身を覆うほどの巨大なアイギスが顕現された…が。
「ア、 アラン…この前の親善試合で顕現させた時よりも、 だいぶ違わないか?」
前回顕現させていたアイギスは、 少なくともアランの腰あたりまでの大盾だったが、 その大きさは倍以上大きくなっており、 更に装飾も細かく綺麗になっていた。 ハッキリ言って、 前回とは比べ物にならない程の神々しさだった。
「僕の魔力が向上したからかな? でも、 これならあの魔獣の攻撃も防げるかも知れないね」
そして、 アランがアイギスの持ち手を俺へと譲る。 俺は少しばかり警戒しながらもその持ち手を握ると────
────特に何も起きなかった。
「うん、 大丈夫そうだね」
「しっかし、 こりゃだいぶ重いな…ニルヴ、 これ持ってでも動けるか?」
基本的な身体能力ならニルヴの方が圧倒的に高い。 俺が持って動くよりもより効率的だろうと考えた結果の提案だったが、 ニルヴはじっとアイギスを見た後、 首を横に振った。
「その聖物、 わしが持つことは出来ぬぞ。 主が持てるのは、 主の特別な職業の関係じゃろうな」
「…確か、 聖剣エクスカリバーも、 父上が『選ばれし者しか振るうことは許されない』と言っていた」
選ばれし者…か。
選ばれし勇者と限定されていない辺りを考えると、 アランの予想通り『律者』ならば扱えるということだろう。
「なら、 俺が持つしかない…か。 アランはモノに連絡して、 出来るだけ聖騎士達の到着を遅らせて欲しい。 逃げた人達からの通報も行き渡っているだろうし、 そろそろ到着してもおかしくなくなってくるだろうから」
ずしりとしたアイギスの重みを手に感じながら、 アランには指示を出しておく。 このメフィストの卵が孵化してしまう要因が分からない以上、 これ以上の人を殺させる訳にはいかない。 これは完全に憶測だが、 このメフィストの卵の孵化に必要な物は時間ではなく、 悪魔と言うからには何かしらの贄を必要とするのだろうと考えている。
そしてそれは…『絶望』
「さて、 相棒よ…ここはひとつ、 この国救ってみますか」
「わっはっは! その意気じゃの!」




