第73話
「それが…貴女が『魔王』となった理由…ですか」
何かしらの技術で復活を遂げたということ自体寝耳に水な話だが、 今のクリスタの猛攻を何とか防いでいるアランこそ、 今のクリスタの実力がかなり高い事は実感していた。
「確かに私は1度魔王に堕ちた。 でもね、 死した今はその職業すら持ち合わせてはいないよ」
その時、 彼女はアランとは別方向へと1発の魔弾を放った。
それは茶髪の仮面の相手をしていたニルヴの腹部に直撃し、 その衝撃で後方へ追いやられていた。
「オオサ…ボス! わたしなら大丈夫ですっ!こちらには気にせず自分の戦闘に専念してください!」
その声音は、 年端もいかない少女のような声音だった。 何故かその茶髪の仮面をした少女は、 クリスタに助けられながらもクリスタに注意をしていた。
オオサマ…と言いかけた所を考えると、 クリスタの話に出てきたドワルフの少女なのだろう。 勿論ドワルフの少女も戦闘に参加しており、 Sクラスの面々を一網打尽にしたニルヴと互角に戦闘を繰り広げていた。 自作であろう機械地味た身の丈はあろう巨大な剣を振り回し、 ニルヴを翻弄していた。
「あんなに大きな武器を振り回して…あの見た目では考えられない程の力ですね」
ドワルフの少女のローブがばさりと翻った瞬間、 その小さな身体の四肢や胴には様々な技巧がなされたサポートアイテムが施されていた。
「勇者の小僧よ! 此奴、 中々厄介じゃぞ」
ニルヴは竜人なので職業を持っていない。 しかしそれは職業を持たぬとも、 その身体能力の高さそのものが最早スキルのようなものだ。 変身士の龍へ変身出来る者が極めた先があの力だけあって、 人間のそれとは桁外れの身体機能を保持している。
そのニルヴが攻めきれていない。
ふとイグニスの方を見やると、 イグニスの方は上手く立ち回っているようで、 力の差は互角…といった様子だ。
「ほらほら、 余所見する暇なんてあるのかい!」
アランの隙を見逃さず、 クリスタは次々と魔弾を発射する。 初めの2発は氷結の魔弾で、 隙をつかれたその魔弾を防ぎきれず、 足元に命中する。
今まで放たれていた攻撃系ではなく、 完全に足止めとして形成された魔弾は、 アランの両足を氷漬けにし、 完全に固定されてしまっていた。 そして続けざまに放たれたのは電撃の魔弾で、 そちらはアランの剣を持つ右手に命中する。
「効果範囲が狭い代わりに確実に麻痺状態にさせる魔弾だ…かなり効くだろ?」
しかし、 アランは勇者の固有スキル『強者の意思』によって、 ありとあらゆる状態異常を無効に出来る為、 クリスタの目論見は叶わなかった。
「問題ないです…っ! 僕には状態異常系統は効きませんから」
聖剣エクスカリバーを握り直す際、 刃の光がクリスタに反射する。 その光に無意識に手で光を遮ってしまったクリスタは、 直ぐに自分の行っている行為が隙を作ってしまったかを察し、 その手を退かすが、 その瞬間目の前にはアランが『縮地』で移動していた。
「しまっ────」
「────はぁっ!!」
アランは移動した際の重力すら威力に変換し、 全力でエクスカリバーを振り下ろす。
空間に響く剣戟。
完全に虚を突いた斬撃を、 クリスタはライフル型魔道具で受け止めきっていた。
流石に片膝を着いてはいるものの、 その攻撃がクリスタまで届くことはなかった。
アランは次なる反撃に警戒し、 少し後ろに後退した。
「いい太刀筋だった。 聖騎士団長までとはいかないまでも、 大抵の兵士なら今ので負けていただろう。 だが済まないね、 私はもう人間を辞めた身だから」
その瞬間、 アランの耳にガチャという歯車が回転するような音が聞こえた。 そして、 何かを察したアランは直ぐにクリスタとの距離を取った。
「それは…確かに人間とは言いにくいのかも知れないですね」
「うちの機械技巧師のオリジナル…『擬似生物鋭槍』っていう代物でね」
後退したアランの目に映っていたクリスタの姿は、 背中辺りから機械の尾のようなものが4本突き出しており、 その先端は鋭利に尖っていた。 その1本1本が別々に動いており、 まるで意思を持っているようだ。
「リリィが作ってくれていた『危機感知』の魔道具も機能してくれていたお陰だな」
そう言って、 クリスタは首から下げている紫色の結晶がはまっているペンダントを握り締めていた。
「そうか、 貴女を復活させたあの少女はリリィと言う名前なんですね」
名前の上がった当の本人は、 クリスタから褒められたことによって振るう大剣の速度が更に上昇していた。
「うぉあ!? 何だこのガキんちょ!?」
「おりゃぁぁぁあ! えぇい!!」
ニルヴと戦闘していたリリィだったが、 クリスタからの褒め言葉に活気づいてしまった影響からか、 イグニスはリリィの大剣の大振るいに巻き込まれかけていた。
「ははは、 彼女はあれでもかなり腕が立つからね、 少年も中々頑張っている見たいだけど
──────彼女はあんなものじゃないよ?」
クリスタが不敵な笑みを浮かべた瞬間、 イグニスは耳を劈く苦痛の叫び声を上げた。
「────があぁぁぁぁぁあッ!!」
アランの目に飛び込んで来たのは、 右脚を抱えるように倒れ込んでしまっているイグニスと、 そのイグニスを2人から庇うように鱗を逆立てて威嚇するニルヴの姿だった。
「イグニス君ッ!!」
アランからの角度では、 イグニスはこちらに背を向けて倒れているので、 傷の具合は分からないが…あの叫びようなら最悪の場合は切断されてしまった可能性もかんがえられる…。 早急に治療しなければ生死を問う問題に発展しかねない。
…しかし、 クリスタの擬似生物鋭槍がそれを阻むようにしてこちらに切っ先を向けていた。
「行かせはしないよ、 勇者様♪」
こんな時、 ゼン君なら…と、 一瞬考えてしまったが、 こんな時にさえゼンに手助けを求めようとしていた自分に腹の底が燃えるような怒りに歯噛みした。
「…違う、 僕が何とかするんだ」
心を決めたアランの眼光は、 一点の曇りもない輝かしい眼光だった。
「みんなを救う為、 ゼン君に任せて欲しいと言った僕の言葉の為、 僕は貴女を────倒します」




