第72話
クリスタ・アリス。
当時15歳。
「ま…まさか…っ!?」
「我が国、 アシスタリアから勇者が!! これでこの国の戦力は大幅に向上するぞ!」
正直、 この時私は舞い上がっていた。 自分がこの国の要とも言える存在に祭り上げられた事に歓喜し、 国民に必要とされる存在になった事に感動した。
────私がこの国を引っ張っていく存在になった…と。
でも、 私も勇者に選ばれただけあって、 特に『勇者』を傘に着ている訳でもなく、 『勇者』だからと威張ったりもしていなかった。 自分で言うのもなんだが、 誰にでも分け隔てなく接し、 目上の人には敬意を評して接していた。
勿論慢心することも無く毎日勉強、 訓練、 任務…休みなく身体を動かしていた。
16の頃には国の周辺の魔獣討伐にも駆り出される程の実力は身に付けていた。 その実戦経験のお陰で実力も目を見張るほどの成長を遂げた。
学校を卒業した後は、 直ぐに『国王直属近衛聖騎士隊総隊長』に任命され、 国の守りを任された。 当時の他国は『勇者』の国というだけで、 戦争は愚か…何処も手出しをする国はなかった。
私の当時の目標…皆を守れる存在は成し遂げられていた。
それだけなら私もこうはならなかったのだろうな。
そう、 言ってみれば世界最強の国になったアシスタリアは、 次々に他国へと宣戦布告を行い始めたのだ。
まず手始めに戦争を行ったのは隣の小国、『リュウキ』だった。
リュウキ王国は希少なアダマンティン鉱石が多く採掘される国家で、 独自の発展させた技巧術で造り上げる鎧や剣はどの大国にも劣らず目を見張るものだった。
特定の技巧術師を捕虜とし、 その他の人間を無惨にも殺害し、 小国リュウキは崩落した。
卒業したとはいえ、 まだ心は少女だった私には、 その現状は重すぎた。
人を殺した感触は永遠に消えることは無く、 魔獣討伐のそれとは『殺す』という概念が同じなだけで全く違うものだった。
私がその時に、 今の時代に合わない『ライフル型魔道具』を作成を依頼し、 それを使用する事に決めたのも、 手に残る人を殺めた感触を少しでも払拭する為だ。
金属の加工技術を手に入れたアシスタリアは、 次の小国へと進軍を開始させた。 言わずもがな私は先頭で、 向かってくる全ての敵兵を『勇者』のスキルで薙ぎ払っていく内に、 その国は白旗を上げた。
その国の王は適切な判断をしたと思う。 大切な聖騎士達を無残にも殺されることを回避するには妥当な判断だろう。
結局、 調子に乗ったアシスタリアの国王は、 今まで捕虜としていた他国の聖騎士を強制的にアシスタリア国民に改変させ、 更にまた次の国へと戦争を仕掛けた。
…しかし、 その戦争が私が『勇者』の堕職となった戦争だった。
またいつもの如く私を戦争に進軍していた時…。
『禁忌』覚悟で剣を握った聖騎士から、 私は背中を貫通させられてしまった。
「……」
何で…なんて言わなくても分かる。
そりゃあそうだとも思った。
どうして私が?
なんでこんな目に合わなければならなかったのか。
ただ、 私が『勇者』として、 この国に希望の光を当て続ける人物になりたいと思っていただけなのに。
そう思うと、 向けるべきではない相手に殺意が湧き、 私は背中を刺した聖騎士に『聖剣』を振り下ろしていた。 私が私である間に見た最後の光景は、 血に濡れた聖剣が徐々に赤黒く染まっていく光景だった。
────気が付いた頃には、 アシスタリアは壊滅しており、 自分の目の前には国王だったモノが横たわっており、 その姿を見た私は、 何かを成し遂げた疲労感からか、 それともそれを成し遂げるまでに受けた傷からか、 その場で崩れ落ちるようにして倒れてしまった。
それからかなりの時間がたったであろう時、 私は不意に目を開けた。
どれだけの時が経過したかは測れないが、 それでも自分の身が朽ちていてもおかしくない位は経過していたはずだった。
しかし私の身体は五体満足…どころか受けていた傷すらも完治していた。
「…お、 おはようございます…オオサマ」
その時私は、 決して寝ていた訳ではなく、 今目の前にいる何者かによって復活させられたと言うことはすぐに察した。
「……こ、 これを…」
そう言って何者かが手渡してきた物は、 『ライフル型魔道具』だった。
その瞬間、 私はこの者の正体をようやく理解することが出来た。
リュウキ王国で捕虜として働かされていた少女で、 機械技巧師の職業を与えられた人物…そして、 私の『ライフル型魔道具』の作成を依頼した人物だった。
「…君は、 これを渡すために私を蘇らせたのか?」
そう質問すると、 少女はもじもじしながらこくりと頷いた。
「…でも、 100年はかかっちゃいました…」
その時、 私の中からガチャ、 と、 まるで機械のような音が聞こえてきた。
「君は100年経っても見た目は全く変わっていないのだな」
「え、 えへへ…わ、 わたしドワルフ族なので、 寿命は長いんです」
ドワルフは、 小柄な容姿ながらに長命で、 卓越した技能を持つ種族とされてはいるものの、 あまり人前には現れない種族だが、 まさかリュウキ王国に存在しているとは驚きだった。
「…ありがとう、 これは有難く頂くよ。 君はこれからどうするのかい?」
故郷であるリュウキ王国もアシスタリアに占領され、 かくいうアシスタリアは私が滅ぼしてしまっている。
私の質問に、 彼女は目を瞑って唸りながら考えていた。
「お、 お恥ずかしながら考えてませんでした…えへへ」
「そうか……なら、 私と共に来ないか? これから私は復讐に駆られている人々の変わりとなって、 その相手に復讐をする請負をしようと考えていてね。 正直、 今の私に残されているのは『人を殺める』技術だけだ。 今更善人になろうなどとは考えていないのでね」
と、 そこまで言っておきながら、 私はこんな幼い相手に何を話しているのだろうと後悔してしまっていた。
…多分、 1人で居るのが寂しかったのだと思う。
しかし、 そんな私の気持ちとは裏腹に、 少女は満面な笑顔で食い付いてきた。
「ほんとですか!? い、 一緒に行っていいんですか!?」
こうして私は、 勇者となりながら堕職となり、 暗殺業へとその足を踏み出した。




