第69話
俺達は調べた情報を持ってガイルの元へと足を運んでいた。 護衛は変わらずイグニスの二ルヴだ。 事情を話、 俺が殺されるかもしれないという事をやっと理解したようで、 二ルヴは俺の肩に乗って辺りを常に警戒してくれている。
俺達には気付くことが出来なかった気配でさえ察知出来る二ルヴがやる気を出してくれているのはとても心強い。
この件が終わればモノに頼んでバエル家専属のコックにプリンを作ってもらおう。
「しっかしまぁ、 その暗殺特務部隊とやらは現れるのかねぇ」
気の抜けたようなセリフを吐くイグニスだったが、 むしろいつ現れるか分からない状態で気を貼っておかなければ危険だ。
「『夜』は必ず現れるよ。 今日の朝方、 父上から一報が届いてね…どうも僕とゼン君の事を嗅ぎ回っている人物がいるみたいでね」
これは…本格的に俺達を襲うつもりみたいだな…。 出来ればその予想は外れて欲しかったが、 今更嘆いていても仕方の無い事だ。 『顎』との戦いで…そして四皇の1人と戦ってみて、 もっと強くならなければと痛感した矢先だというのに。
「────『絶対領域』」
その声は、 気を引き締めなければと思っている中ですら察知出来ず、 背後から急に聞こえてきたものだった。
「「っ!?」」
この場にいた4人全員が完全な不意打ちを取られた瞬間だった。 決して話し込んでいた訳ではなく、 しかも二ルヴに至っては常に警戒態勢だったはずだ。
『絶対領域』
それは結界術師の職業で使用される完全隔離空間を指定した範囲で生成することの出来るスキル。
つまり…。
「これは…完全に捕獲されてしまったね」
空間内には何もなく、 ただ無限の闇が拡がっているにも関わらず何故か暗くはない。
しかし流石アランとイグニスだった。 アランは既に聖剣エクスカリバーを顕現させ、 イグニスも大剣を引き抜き戦闘態勢を取っていた。
「ふむむ、 わしの警戒を掻い潜って接近するとは…中々やるの」
感心してる場合か。
二ルヴは俺の肩から華麗な着地をし、 自分の顎を撫でていた。 本人の発言どおり、 決して警戒を解いていた訳ではないようだ。 そしてこの中で警戒に関してはトップクラスの二ルヴを掻い潜って接近してきたという事は、 戦闘実力は定かではないにしろ…こと隠密に関して言えば圧倒的な実力を誇っているという事だ。
「クフフ…全く、 僕は子供の殺しはあまり好ましく思っていないというのに」
真っ白な仮面を被った男は、 俺達に背を向けたまま独り言を呟いていた。 丸聞こえのそのセリフは、 内容と言い方でとてつもない差を感じていた。 内容だけだといやいやという感じだが、 その言葉に込められている気持ちは全くもって逆なように思えてならない。
すると、 その白い仮面の男の後ろにゲートのようなものが出現し、 そこから3人程この隔離された空間に侵入してきた。 しかしその人物達は決して俺達の救援などでは無いとひと目で分かっていた。 真ん中にいるのは『美人』としか形容し難い金髪の女性…そして、 その両隣には男と同じ仮面をしている人物が2人。
1体4の態勢が一気に崩されてしまった。
「なんだ、 聞いていた通り普通の学生…それと、 彼女は何者だ?」
俺とアランのことは調べ終わっているということなのだろうが、 口ぶりからは俺の職業まで調べあげている可能性は低いと思う。
しかしボスと呼ばれていた彼女…タイミングから察するに『夜』のリーダー、 クリスタ・アリスは二ルヴの存在に驚いている様子だった。
そのクリスタに、 横から仮面の人物がゴソゴソと何かを耳打ちする。
「なるほどな、 彼女が報告にあった竜人か」
二ルヴの事まで調べていたのか…。
「君達も私達の事は調べていたのだろうが、 どうだ? 何かいい情報は入ったのか?」
自慢げに話す彼女に、 仮面の人物が何かを渡す。 それは────ライフル銃だった。
今やスキルを発動させる方がより強力で、 スキルによっては銃弾などもろともしない防御壁すら存在するこの時代にはあまり見ないものだ。 暗殺するための道具としては強力なのだろうが、 今や対面している俺達には到底通用するものでは無い。
他に武器をもっていて、 ライフル銃はブラフか?
何にせよ警戒するに越したことはない。
「ははは、 その様子だと全く分からなかったみたいだな」
悔しいが…正直これといった情報は集めきらなかったのは事実だった。
「悪いな、 君達の事は昨日知ったばかりの相手だが…依頼を受けてしまっていた以上は──殺させてもらう」
そのセリフを合図だと言わんばかりにライフル銃の銃口を俺達に向けてきた。
しかし、 先程も言ったが今の時代ではスキルよりも早く放つことが出来るライフル銃など存在しない。
…と、 そう考えていた矢先。
『……こ…る? きこ……え…?』
頭の中に響いてくるように聞こえてきたのは、 途切れ途切れだが恐らくモノの声のようだった。 いつの間にか『思念伝達』のスキルまで会得していたのか…。
だが、 相手が使用している『絶対領域』の干渉が大きく、 途切れ途切れの状態になってしまっていた。
『モノか…っ!? 相手の結界のせいで上手く聞き取れないが、 聞こえてるぞ!』
『…よか…た。 あい……リーダーの…器に、 警…して』
…ダメだ、 やはり結界の影響力が高すぎてよく聞こえない。
リーダーの…器?
────武器。
相手のリーダーの武器に警戒…か!
『…あれ…は……魔道──────』ブッ。
「むっ? どうした?」
「クフフ、 いえ。 どうやら何者かが僕の『絶対領域』の外から通信していたようなので、 弾きました」
急にモノからの思念伝達が切れてしまったのは、 白仮面の男に気付かれてしまったようだった。
しかし、 この短時間でモノはとてつもなく貴重な情報を集めたようだ。
「みんな、 クリスタのあの武器…ただのライフルじゃないみたいだ。 モノが貴重な情報を伝えてくれた」
俺の言葉に、 やっとクリスタは驚きの顔を見せた。 まさか自分の名前以外の情報を掴んだことがそれほどまでに意外だったのだろう。
「あれは────魔道具だ」
しかし、 その魔道具がどのような効果をもつものなのかまで聞くことが出来なかったが、 それだけでも十分だ。
「素晴らしいな。 是非とも私達の仲間に欲しい人材だ。 そこまで知っているのであれば、 この魔道具がどのような性能をしているのかまで知っているのだろうな」
知らん。
…しかし、 これは好都合か。
「あぁ、 生憎うちの友人は優秀でね。 一晩で調べあげたようだぜ」
これは賭けだ。
もし…この賭けに相手が乗ってくれれば。
「そうか、 それは良い友人だな。 そう、 このライフル型魔道具の性能は『記憶』だ。 記憶させたスキルをリスク無し、 魔力なしで使用することが出来る。 しかし、 その記憶させているスキルまでは知らないだろう?」
「だってよー! あの魔道具にはそんな性能があるらしいぜ!」
急な俺の反応にその場の全員がポカンとしていた。
「ゼ、 ゼン君…君は知らなかったのかい?」
「ん? おう。 多分モノは知ってるんだろうけど、 それを聞く前に通信を切られちまったからな」
「ゼンの野郎…お前は良い性格してるぜ」
「全くじゃ。 『観察者』というより、 むしろ『詐欺師』じゃな」
…え、 ひどくね?
「け、 結果的に分かったんだからいいだろ! それより…お姉様がカンカンだぜ」
ライフル型魔道具が振動でカタカタと音を出す程に全身を震わせているクリスタ。
「お、 落ち着いて下さい…リーダー」
隣の仮面の人物から宥められ、 深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、 そして…怒りの眼光を俺に向けていた。
「──────────殺す」




