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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第68話

「…ウルスラ、 俺達に接触して来た相手が実は『夜』じゃないっていう確率は…どのくらいだと思う?」

仲間の死を重んじる部隊が仲間を殺す筈がないという見解から、 俺達は接触して来た相手はなりすましの方向で考える事にした。

確かに、 ここまで謎だらけの部隊ならばバレないだろう…という考えだったのだろう。

「正直の所、 ほぼ間違いないと思っていいと思うわ。 だとしたら、 対策なんて特に必要ないんじゃないの?」

いや、 もし偽物だとするならば、 それだけ完璧主義な部隊の名を名乗るだけの自信があるという事だと考えている。

そしてそれだけの自信に伴っていると思わせる程の威圧を感じたのもまた事実だった。

「警戒するに越したことはないだろう。 あまりここに長居するとここも危険かもしれないからな…俺達はそろそろ戻るよ」

護衛の為に連れてきた二ルヴは、 プリンの暴食により満足気な顔をして床で丸くなって居眠りしているし…。 一体何のために連れてきたのか分からなくなってしまう。

「ほれ…起きろ」

俺は丸くなっている二ルヴの頬をぺちぺちと叩き、 目覚めさせていた時だった。

突如として二ルヴは覚醒したかの如く眼を見開いて飛び起き、 小窓越しに外を睨み付けていた。

「主よ…ここも既にバレているやも知れんぞ」

「なんだって…」

しかし俺には何も感じない…。 視線や殺気、 そういったものも感じないが…。 しかし二ルヴの表情は今までに見ない程真剣なものだったので、 本当に何か感じているのだろう。

俺は二ルヴが何に反応したのか知るすべは無く、 一先ひとまずこの場から早急に立ち去ることに決めた。

「どうやら緊急事態みたいね、 モノ姉様にはわたしから伝えておくから、 早く逃げなさい」

俺達の様子から全てを察したように、 ウルスラは即時撤退に賛成していた。 恐らくウルスラにも二ルヴが何に反応したのかは分かっていないのだろう。 俺達のために調べてくれているモノにも何か一言言って立ち去りたい所だが、 この状況であれば逆に接触しない方がいいだろう。

「すまん、 そうさせてもらう。 モノには礼を言っておいてくれ。 二ルヴ、 帰ろう」

「…そうするとしよう」

未だに二ルヴは窓越しに外を睨み付けているが、 その視線はあちらへの警戒だけではなく威嚇も兼ねているようだった。 これほどまでに優秀だと思った事はない。

「このぷりん工場には指1本触れさせぬ!」

撤回だ。

「人の家をプリン工場呼ばわりするやつがあるか…とりあえず一旦俺達の寮に戻るぞ」


こうして俺達は撤退を余儀なくされ、 寮に無事着いた時には既にアランも帰宅を済ませていた。

「お! やっと帰って来たか! 柄にもなく心配しちまってたぜ」

アランの警護を勤めていたイグニスは、 警戒し抜いていた大剣を鞘に収めながら安堵の息を漏らしていた。

「全くだよ、 連絡の1つでもしてくれれば安心するんだけどね」

イグニスと共に俺の心配をしてくれていたアランも安堵の息を漏らす。 しかし、 そんな中からも何か重要な情報を掴んだかのような安心感のある顔を見せていた。

「その様子だと…何か分かったのか?」

寮に帰宅後、 警戒を解いて疲れきったのか二ルヴは直ぐに睡魔に襲われていた。 今やその身体を支えることすら出来ずに俺の背中へと身を預けていた。 一先ず俺は二ルヴをベッドに寝かせ、 やっとの思いで腰を下ろすことが出来たのだった。

「俺も…というか、 ほとんどウルスラだが収穫はあった。 まずはアランの方の情報を教えて貰ってもいいか?」

「あぁ、 いいよ────」


そして、 アランが集めてきた情報は、 『夜』の構成員の人数だった。

構成員の人数は13名で構成されており、 アランが事前に言っていた通り全員が国籍無しの構成員のようだった。 変装等を得意とする構成員が居るらしく、 性別まではハッキリとしていない。

「そして、 1つ気掛かりな事があってね」

「あー、 多分その気掛かりの部分って言うのは俺が調べてきた内容で解消されると思うぞ」

恐らく、 リーダーを除く12名の性別がハッキリしていなかったとしても、 『クリスタ・アリス』の存在には行き着いているのだろう。

「先日俺達を襲ってきた『夜』は…偽物だった。 恐らく『夜』の名前を使えば仕事が舞い込んでくると思ってやった事だと思うが…」

あの時、 俺達はその偽物の視線に気付いたが、 今回はその視線すら愚か、 気配すら気付くことが出来なかった。 だとすれば…既に最悪な自体に陥っている可能性が高い。

「…これは推測だが、 恐らくその偽物は既に本物の『夜』に消されている可能性が高いと思うんだ」

「そうか…それなら、 僕達は既に安全なのかな」

それだとどれだけ良かった事か…。

「……いや、 どうもそうはいかないらしい」

二ルヴにしか感知できなかった気配は、 恐らく本物の『夜』が出した偵察部隊なのではないかという推測だ。 しかし、 何故自分らの名を勝手に使った相手の依頼を受けているのか…。

「とりあえず集めた情報は、 前回の『夜』が偽物であった事。 本物の『夜』の構成員人数は12人である事。 そして…そのリーダーの名前が『クリスタ・アリス』という名前だと言う事…。 この3つ位か」

「…ま、 待ってくれないか。 今…リーダーの名前が…『クリスタ・アリス』だって?」

そうだった。 まだアランにはクリスタ・アリスの名前を伝えていなかった。

しかし、 どうもアランの様子がおかしいように思える。 どこか顔色も悪く、 冷や汗のようなものもかいている。

「おいおいアラン…大丈夫か?」

「…あぁ…大丈夫だよ」

俺達の話を黙って聞いていたイグニスすら、 たまらずアランの背中を摩る。

「その反応…知っているのか? クリスタ・アリスが何者なのか」

深呼吸をし、 荒れた心を鎮めたアランはクリスタ・アリスが何者なのかを語り始めた。


「彼女…クリスタ・アリスは僕よりももっと前に存在した──────『()()』の職業ジョブを獲得した人物です。 以前はグロリア王国ではない、 別の国に勇者を獲得した人物が現れていたという事は耳にしていたのですが…その時に戦争が勃発し、 今やその国は廃国となってしまっています」

勇者はこの世界に1人しか存在出来ない『律者』の1つだ。 今やアランが勇者を獲得している以上、 前任者であるクリスタ・アリスは死んでいる存在のはずだ…。

「そう、 ゼン君の思っている通りです。 彼女はその戦争の時…勇者を妬む自分の国の兵士に攻撃されたのだと思います…その理由は、 彼女が『禁忌』を犯したからです」

味方が禁忌化する前に殺したか、 自分を攻撃した事に対しての怒りで殺したか…今やそれを知る術はないが、 どちらにせよクリスタ・アリスは堕職となってしまったという訳か。

「…待てよ、 それなら何故自我を保っていられるんだ? 俺ァ馬鹿だからよくわかんねぇけど、 その禁忌って奴を犯したらなんかなるんだろ?」

イグニスの言う通りだ。

アギト』の団員だった少女クレアはイギルのスキル『支配』のお陰で自我を抑えていたが、 彼女は別だ。


「そう、 彼女は1度堕ちているんだよ。 ()()として。 そして彼女は隣の王国から討伐されているんだ」


…だとしたら、 彼女は何故生きているのか。

今も魔王という堕職を持っているのか。

謎は深まるばかりだった。


しかし、 この時…まさか次の日に『夜』が俺達の目の前に姿を見せるとは思っていなかった。

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