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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第67話

「…クリスタ・アリス」

名前からして、 どう捉えても女性の名前としか考えられない。

しかし、 『夜』のリーダーと対面して分かったのは…得体の知れない、 躯体も大柄とは言えないまでも鍛え抜かれたような佇まいの男性だったはずだ。

「ウルスラ、 君の情報を疑うわけじゃないんだけど…この名前の人物は本当に『夜』のリーダーなのか?」

あの男が実は女性でした…なんて事は正直考えにくい。

「間違いないわよ。 『夜』が徹底していることの1つに、 依頼を受ける場合はリーダーが直々に会って受けるっていう決まりがあるみたいなの。 その情報は以前『夜』に暗殺を依頼した没落貴族から買った情報なのよ」

成程、 依頼をした張本人からの情報となれば信憑性は高い。 没落した状態で金銭と交換となればあちらも嘘の情報は吐かないだろう。 もしそれが嘘だと判明すれば、 バエル家から何されるか分かったもんじゃないからな。

「俺とアランが襲撃された時のリーダーは男性だったんだ。 しかもそいつは撤退の交渉として仲間の1人の首を跳ねるような奴だった。 それだけの事を決行出来るのはリーダーだけだと思うんだが」

そんな俺の言葉を聞いたウルスラの顔は、 全く腑に落ちないような表情をみせていた。

「待って…その話、 ほんと?」

「ん? あぁ、 俺はあんな躯体のいい女性は知らないし、 声だって男性そのものだったぞ」

「違う、 そこじゃなくて…首を跳ねたっていう所の話よ」

何をそこまで慌てているのか一瞬俺には分からなかったが、 俺もその場を見た瞬間は唖然としていたのだった。

そりゃそうか、 ウルスラは俺達よりもまだ子供だった。 そんな子供に話す内容ではなかったと少し後悔したが、 俺はその時の話を包み隠さず話した。

しかし、 どうやら俺の勘違いだったらしく、 ウルスラが気難しい表情をしていたのは決して残虐だったからという訳ではなく、 その残虐性のある()()()()()()に対してだった。

「…やっぱりおかしいわね」

「おかしい?」

ウルスラが呟いた言葉に疑念を持ちながら、 俺はノートのページを何気なく捲った。 そしてすぐに、 ウルスラの考えていることを理解した。

そこに書かれていたのは、 『夜』の鉄則とも言えるルールらしき1文。

『仲間の死は部隊全員で復讐にあたる』

という1文だった。

「そう、 その内容も依頼主を脅し…もとい交渉して得た情報なの」

この内容が本当ならば、 俺達の事は部隊全員で抹殺にあたるという事──────


────いや、 違う…そうじゃない。

そうじゃないだろ。

だって、 俺達は一切手を出していない。 強いて言うならば攻撃された鉄球を両断したくらいだ。

そして、 その仲間を殺したのは…リーダー格の男だった。

「つ、 つまり…どういう事なんだ? 仲間の死を重んじる筈なのに、 その仲間の命を交渉に使う…」

「考えられるのは幾つかあるけれど、 その中でも有力なのは…3つ」


1つ、 掲げていた鉄則を取りやめにした。

しかしこれは取りやめにする意味が分からない。 その鉄則自体がなにか支障を来すものでは無い。 故に可能性は低い。


2つ、 元々そんな鉄則なんてなかった。

これも可能性は低いと考えられる。 依頼主から伝えられた内容自体に何かすれ違いがあった可能性も考えられるが、 それにしても内容が具体的過ぎる。 依頼主もこの期に及んで嘘を付く必要性はあまりないと考えていいと思う。


そして…3っつめ。

依頼先が────『夜』では無い、 という可能性。

「でも、 そんな事をしたら…」

「えぇ、 間違いなく本物に消されるわね」



──────────────とある酒場。

そこには裏社会を生きる荒くれ共の巣窟となっている酒場であり、 表にはお店の看板など一切なく店内の光を漏らさないよう工夫された作りの酒場となっている。

「あ…あんた達、 本気で言ってるの?」

「ふむ、 今の話が冗談に聞こえたかね?」

そこの酒場のマスターは男性とも言え、 女性とも言える人物が経営しており、 主には情報屋として活動している人物だ。 故に裏稼業を生業としている人物達は自然とここに足を運ぶ。

そして、 そのマスターに今回の荒行を伝えていたのは、 深めにフードを被り無精髭を生やした男性だった。

その内容は、 『夜』を名乗って仕事の依頼を受けたという話し方だった。

「あんた、 そんな事をして無事に生きて帰れると思ってるのかい?」

冷や汗を垂らしながらも話を伺うマスターに、 追加の酒を注文しながら男は答えた。

「問題ない。 そもそも『夜』など存在するかどうかも怪しい団体に怯える必要などない」

男は鼻で笑うように息を吐くと、 追加された酒を煽った。


その瞬間、 急激な息苦しさを覚え咄嗟に酒を吐いたが、 それは遅すぎた。

「………な………に、 を……」

喉を潰された…いや、 溶かされた、 そんな曖昧な感覚に陥り、 まともに出来ない息に詰まり言葉を上手く発する事が出来ない状態だった。

徐々に意識も朦朧とし、 カウンターを挟んでいる相手を睨みつけるが、 それ以上何もする事が出来ない。

「だから言ったじゃなぁい、 ()()()()()()()()()()()()()()()()()? って」

その台詞を最後に、 男は事切れた。

「はぁ…全く、 顔だけはお気に入りだったのに。気軽に ()()の名前なんか使うのが悪いのよ」

すると、 カウンターの奥から1人の女性が姿を現した。 金髪碧眼で整った顔立ち、 誰から見ても美人としか言えない程の人物だった。

「…ボス、 言われた通り私達の名前を使った男は片付けたわよ」

「あぁ、 ありがとう。 だがまだ全てが終わった訳では無い」


「…そう、 ね。 この男が私達の名前…『夜』を名乗って依頼を受けてしまった以上、 その依頼は私達が引き継がなきゃよね」

ボスと呼ばれた金髪碧眼の美女がパチンと指を鳴らすと、 更に奥から数人の男女が現れると、 何の指示も受けずに床に横たわって泡を吹いている男を運び始めた。

「依頼対象の情報は掴んでいるのか?」

「ごめんなさい、 2日で集めてみせるわ」


「ふふ、 頼もしいな。 ならばその情報が集まり次第…2日後には始末しにこう」

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