第63話
何のためにわざわざこの学校まで国王が足を運んだのかが疑問だったが、 先日の盗賊団『顎』での賞賛だけが目的ではなかった。
『顎』との戦いに参加したメンバーの面々の名を次々と呼んで壇上へと上げていく。 その中には勿論俺とアラン、 キアラとモノも並び、 更にはニルヴまで壇上へと呼んだのだ。 俺と契約したお陰で、 事実上の無害認定は受けているとはいえ、 一時はグロリアの軍隊を捕食していた存在だが、 その点は控えて発表されていた。 そして、 更に驚いたのは…。
「この人物…ニルヴを正式に我が国の民として迎え入れる事にした」
という国王直々の発言だった。
スピーチ力がとてつもない国王の言葉に学校の生徒達、 更に聖騎士長達も拍手を送っているが、 どうやら内容を聞いていなかったであろう側近は慌てふためいている様子だった。
「お、 王よ…こんな素性も知れぬ奴を…本気で言っているのですか!?」
拍手の中に響いた荒々しい声により、 喝采の雨すらピタリとやんでしまった。 そして、 次に皆が思うのは────不信感。
ニルヴの存在自体を知る人は多くない。 側近達と同じように思われては折角ニルヴを認めてくれたグロリア国王の手助けが無下になってしまう。 しかし、 今の俺がこの側近2人に何を言おうが聞く耳すら持たないだろう…。 実際総合体育館に集まる生徒達もざわつきが聞こえ始めていた。
一体どうすれば…。
そう考えれば考える程、 俺もパニックに陥ってしまい、 まともな解決策が浮かんでこなかったその時──。
そのざわめきを一瞬にして静寂へと変えたのは、 国王による開手を打つ音だった。 乾いた音が響き渡ると、 疑心を持っていた生徒達の口も止まると同時に、 生徒達の視線も自然と国王の元と吸い寄せられていた。
「安心してくれ、 この少年…ゼン・アルファがこの少女の今後の安全を全面的に保証している」
国王が言うのなら…そう思い安心する者も居はするものの、 やはり俺と関わりがない人達からしてみれば「誰だあいつ」くらいの感想にしかならないだろう。 ここは何か言った方がいいのだろうか…。
しかし、 そんな俺の不安はすぐに杞憂へと変わった。
「その少年の事は、 オレも信用しているのだよ! あっはっは! 彼は強いからね!」
先程ボコボコにされた相手から『強い』などと言われても、 お世辞としか捉えきれなかった俺の器の小ささは置いておくとして、 強いはイコールで信用に繋がるコスモ理論は理解出来なかった。
しかし、 四皇であるコスモの一声にはその理論が通用していた。 先程まで疑心感に囚われていた生徒達も「四皇のコスモが言うなら…」と徐々に納得していっている。
誰にでも出来ることでは無い…。その強さによって獲得した実績、 そしてその実績によって与えられた信頼があるからこそ為せる事だと俺は痛感した。
それでも尚、 側近2人の恨みまでは収まりきらなかったようで、 歯噛みした唇からは再び血が流れていた。
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ここまでの殺意を向けられるのであれば、 それ相応の何かがある筈だ。 それを探る為に俺は総合体育館を出た後、 アランと2人きりの状態を作って相談してみる事にした。
忘れかけていたがアランも貴族なので、 そういった事情に何か心当たりがあるかもしれないという算段の元を頼りに相談することに決めた。
イグニスが聞くと、 話を聞かずに飛び出して行ったりしないように席を空けて貰っている。
寂しそうに寮を出たイグニスの背中を見た時に、 今度何か奢ろうと決めた。 すまん。
「──成程、 確かに僕が新しい聖騎士団長として認めて貰えた時も、 そんな顔をしていたね。 あの2人もそれなりの貴族の出の兄弟だよ。 名前は『アダンス・クロウ』と『アバンス・クロウ』クロウ家は代々国王の側近を仕事としている家系でね、 王に忠誠を誓う近衛兵だよ」
う〜ん、 だとすると更に分からないことだらけだ。 敵の狙いが俺で、 その俺を拉致するためにグロリア王国を攻めた事実に変わりはないが、 その攻撃が国王に向けられたものではなかった。 もし国王に向けて攻撃されていたのであれば俺達に憎しみの籠った眼光を向ける意味も理解出来るというもの…。
「国王は関係していなくて、 私怨だと考えるのが妥当なのかも知れないね」
だとしても、 『顎』との結果を報告する際に初めて会った相手だ。 そんな相手から私怨を向けられるような事があるか…?
「俺はあの時初めて会ったんだぜ? 王都に来るのだってこの学校の入学試験の時が初めてだし、 それまでに会っている可能性はまず無い」
俺の答えに再びアランは頭を悩ますが、 直ぐに何か思いついたような仕草を見せる。
「私怨は私怨でも、 僕達個人じゃないのかも知れないね」
「個人じゃない?」
アランの導き出した答えに、 次は俺が頭を悩ます。 私怨なのに…俺達個人じゃない。
「どういう意味だ?」
「これは僕の推測だけども、 『クロウ家』は王に忠誠を誓う家系だと言うのはさっき説明したけれど、 クロウ家は側近としての役割が決まっている。 だから、 彼等はそれが気に食わないんじゃないかな」
「…でも、 それと俺達とどういう関係が────」
と、 そこまで言って俺も気付いた。
他の聖騎士長達は、 それなりの成果と信頼を得ている。 だからこそ、 聖騎士長達には特に不満などは生まれないのだろう。 しかし、 俺達はどうだ?
学生という身分だけではなく、 更に入学して間もない。 そんな俺達を国王が認め、 あまつさえアランに新しい聖騎士団を立ち上げる事を許可したのだ。 自分達には決して出来ない事を、 あたかもそれを簡単かのように…。 俺達も決してそれが目的で行動してきた訳ではないが、 恐らくクロウ兄弟はそう捉えているのだろう。 だからこそ、 俺達に対する国王の対応のその全てが気に食わない。
「こりゃ…どうすっかな」
「強い思い込みを払拭させるのは中々難しいからね。 あの様子だと、 僕達から何を言っても嫌味としか捉えて貰えないだろうし」
打開策が思いつかず、 俺達は2人で唸るばかりだった。
「……とりあえず、 外の風でも浴びようぜ」
「そうだね、 その方がいいと思うよ」
そうして俺達は一旦寮の外へ出て、 風当たりのいい丘へと向かった。 その丘は王都の中でも珍しい自然豊かな場所だが、 都会に慣れ親しんだ王都の人達はあまり来ないらしい。
こういう目的では来たくなかったけど…。
「──で、 お前らは何の用だ?」
少し拓けた場所まで移動した所で、 俺達を付けている相手に向かって話しかける。
「寮の時から監視していたみたいだけど、 移動した後も付けているって事は、 僕達が目的みたいだね」
どうやら相手も観念したのか、 暗闇から黒いローブを深く被った風貌の人が4人程現れた。 ローブで隠れてはいるものの、 その下にはしっかりと武器を潜ませているようだった。
「熱烈なアプローチなら喜んで受け取るんだけど…どうもそんな感じじゃないよな」
「……我らは依頼を受けた。 名しか知らぬが、 その命…頂戴する」
その瞬間、 羽ばたかせたローブの下には無数の武器が準備されていた。
「今日は先輩にコテンパンにやられた後なんでな…八つ当たりさせてもらうからな…」




