第62話
ガイルの開始の声と共に…。
気付いたら負けていた。
決して不意打ちだった訳でもなく、 正々堂々開始の合図と共に負けた。
始め! というガイルが声を発した直後、 一瞬で目の前が暗くなり、 瞼を開くと俺は地面に突っ伏していた。 剣王のスキルを獲得出来るというラッキーなんて話はどこへいったのやら…。
唖然とした表情のままみんなの方を見るが、 やはりみんなも俺と同じ表情をしていた。
「いやぁ〜、 済まないんだよ。 少し本気を出し過ぎたかもしれないんだよね」
そう言って倒れ込んでいる俺に近付いてくるコスモは、 本当に申し訳無さそうに頭を掻きながら手を差し伸べてきた。
これが四皇…この職業学校の頂点に位置する4人の実力。
「あまり新人を虐めてんじゃねぇぞ、 コラ」
片目のレンズ越しに睨みつけるようにコスモを眺める四皇の1人、 『リーシャ・ライト』は、 白髪の前髪を弄りながら怒声をかけた。
「お前は手加減を覚えろ。 相手は子供だぞ、 コラ」
自分では天狗になっていないと思っていたが、 心のどこかで俺は『強い』と思っていたのだろう。 『顎』の団長、 イギルを相手にし、 『指』と言われる古の存在との戦闘でも生還…だからこそ、 3年しか違わない相手に子供とまで言われてしまい、 胸の内から恥ずかしさと虚しさが込み上げてくるのを感じていた。
「いやいやぁ、 だからすまないと思っているんだよ」
ヘラヘラと笑うコスモを思いっきりグーで頭にゲンコツを与えるライトを見て、 虚しさの後から少しだけ怒りすら感じていた。
そんな俺の頭をポンポンと叩いてきたのはガイルだった。
「あれがうちのトップだ。 お前の職業は無限の可能性を秘めていると俺は思っている。 だからこそ、 更に上がゴロゴロ居るということを知っておくんだ」
ガイルは決して俺の目を見ずに、 まっすぐ四皇の先輩達を見ていた。 『前を向け』というメッセージを伝えたいのか分からないが、 今はその気遣いに救われていた…。
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「いやぁ〜、 ゼンの野郎つよすぎるだろ!」
「あんなのチートだよな!」
戦闘訓練が終了し 一旦教室へ移動した所、 今まで話した事のなかったクラスメイトが沢山俺の元へ集まってきていた。 その集団にモノはこめかみに怒りマークが出ているのではと思わせる程の怒りを露わにしていた。
…暴発してしまわないだろうか。
「あ、 あの…えぇと…」
「君達、 ゼン君は戦闘の後で疲れているだろうから、 話はまた今度にしてあげてくれないかい?」
ここまでの人数から声をかけられることなんてなかった…そのせいで少しテンパってしまっていた所を、 アランが気を使って散らしてくれた。
「あ、 ありがとう……これでモノが暴発せずに済んだ」
「あはは…それは危なかったね」
隣のモノはブツブツと詠唱のようなものを唱え始めていたが、 アランのお陰で詠唱をやめた。 ムスッとした表情は変わらないが、 とりあえずは一安心だ。
しかし、 四皇の実力は想像以上だった。
ガイルの言っていた通り、 上には上がいることは承知の上だった。 実際最上位魔族とやらには太刀打ち出来る自身は毛頭なかった訳で、 更に言えばじいちゃんにもばあちゃんにも勝てる自身はない。
スキルを模倣するだけではダメなんだ。
俺自身の実力も高め、 あのナイフのように多種多様なスキルを駆使していかなければならない。
俺の強みは職業に縛られていない事。 剣士が魔道士のスキルは取得出来ない。 しかし、 俺はそれが可能…ならば通常では使えない戦略が出来るはずだ。
そういった所から見直そう。
それに協力してくれそうな人…といえば、 俺は真っ先にモノが浮かんだ。 特定ではあるものの、 あらゆる職業に詳しく、 更に俺と同様で多種多様なスキルが使用出来るならば、 研鑽にもうってつけだろう。
「モノ──」
と、 俺がモノに話しかけようとしたタイミングでガイルが教室へ入ってきた。
「さて…疲れきった後で申し訳ないが、 これから総合体育館へ向かって貰う。 ゼン、 モノ、 アラン…覚悟しておけよ」
…え、 なにその言い方…。
俺は名指しを受けた他の2人を見ると、 モノはいつもと変わらない無表情のままだが、 アランも分からないといった表情のままこちらにアイコンタクトを送って来た。 ということは、 2人とも理由は知らされていないということか…。
兎にも角にも、 俺たちはガイルの指示の元総合体育館へとクラス全員で足を運ぶが、 どうやら他のクラスも移動しているようで、 総合というその名の通り全生徒が集まっているようだった。
そこには未だ顔も合わせていない2年生や3年生も集まっており、 教員が立っている壁側には数人の聖騎士長達も集まっていた。 その聖騎士長の面々には、 先日の『顎』戦で顔合わせをした聖騎士長達も集まっていた。
俺達は指定されている場所に並び、 ひとまず椅子に腰掛けた。 ざわざわとする中、 隣のAクラスの話し声が耳に入ってきた。
どうやら、 国王から何か発表があるらしく、 わざわざこの学校まで足を運んでいるらしい…。
そう言えばニルヴはどうしているだろうと考えながら、 ふとキアラのいるAクラスへと目を向けると、 大人しくキアラの膝の上にちょこんと座っていた。 明らかに尻尾がキアラの邪魔になっていたが、 妹が出来た感覚に似ているのか、 キアラは気にする素振りもなくニコニコとしていた。 ニルヴの様子からも随分と懐かれている。 既にAクラスには紹介済みなのか、 誰も不審がってはいなかったが、 それでも他のクラスには悪目立ちしていた。 やれ魔物が居るだのと話し込む声が聞こえてくる度に、 苛立ちを感じながらもそれを気にしないニルヴを見て少し安心した。
そんな時に、 急に変なラッパのような音が流れ始めた途端、 体育館中で起きていたざわつきが一瞬にしてピタリと止んだ。
上界に出たことがなかった俺は知らなかったが、 どうやらこのラッパの音色が国王の登場メロディのような役割をしているのだろう。 そして、 そのラッパの音色が止まった瞬間、 護衛として両隣にじいちゃんとばあちゃんが正装をして並んでおり、 その後ろから先日の護衛2人も着いてきていた。 引退して隠居していたとはいえ、 流石にこういう催しには出席せざるを得ないのだろう…国王の面目もあるし。 一応バレないように俺の名前は魔族だった母親の名前のままにしているので、 じいちゃんとばあちゃんとの関係性自体は極わずかな人達にしか知られていない。
勿論有名人である2人には黄色い声援が飛び交っており、 そのどれもに神対応としか言えない対応を見せながら国王と共に壇上へと上がってゆく。 その瞬間、 国王の側近である護衛2人と目が合うが、 前回同様親でも殺されたかのような恨みの篭った睨みを受ける。
…何もなければいいんだが。




