第61話
「ねぇねぇ! あの時の移動はなんのスキルなの!? 瞬間移動みたいなスキル? 教えて教えて!!」
ガイルの一声により勝敗が決した後、 俺の元へ駆けつけてきたクロロは負けたことをそっちのけで質問を投げかけて来ていた。
初めて教室に入った時もそうだった。 気になることがあれば直接本人に聞いてくるその性格は、 最早自由奔放という言葉だけでは言い表せない…何と言うか、 探究心とでも言えばいいのだろうか。 クロロとは裏腹にスイレンは、 自分のせいで敗北が決してしまったとでも言わんばかりに膝を抱えて顔を隠していた。
「あ、 あれは特殊なナイフを利用して移動しているんだ。 このナイフは魔道具の1つで、 その特性は『スキル融合』なんだ。 スキル融合で合わせたスキルが『スパーク』と『高速移動』────」
俺はモノやアランに説明した同じ内容で説明した。
「────という感じなんだ。 このナイフは教室で話した『顎』の団員が使ってた物をモノが俺用に作成してくれたんだよ」
「おっほん…そろそろ良いかな?」
タイミングを逃していたガイルが大きく咳払いをし、 それに合わせて移動できる位には回復した生徒達含めてガイルの前に集まった。 二ルヴはキアラの膝の上でご満悦にプリンを食していた。 その様子を見ると、 容姿は違えど仲のいい姉妹のようだった。
「先程の戦闘訓練で理解しただろうが、 授業や任務だけでは教えられる限度がある。 特に任務は生徒に危険な目に会わないように考慮された難易度の低いものが集まっている」
一応、 俺の受けた任務も学校側からのものだったのだが…今回は俺の職業が原因というのもあるので、 他の生徒にはそういったイレギュラーのようなものは起きていないのだろう。
「授業に中々参加出来ていなかった3人は知らないかもしれないが…1ヶ月後にグロリア王国中の学生が集い、 自らの力を証明する大会────『職業対抗戦』が開催される事になっている。 うちは魔族の侵入を許してしまった件もあるが、 この大会に我々教師も力を入れて生徒達の背中を押し、 優勝を勝ち取り、 信頼と希望を見せつけようと考えている」
そんな大会があったなんて…。 今まで田舎暮らしだったせいもあって、 グロリア王国の催しに参加する機会なんて無かったからなぁ。
いいとこの出のアランも、 最高位貴族のモノもこの件は熟知していたようで、 俺のような反応は見受けられなかった。
「俺が言いたい事…分かるな」
そう言ってガイルは俺へ向けてウインクを飛ばしてきた。
おっさんのウインク程得しないものがあるだろうか。
しかもガチムチの。
「でも、 学校毎にという事は…上の学年の先輩方も出られるんですよね? そんな中で1年生の俺に出場する枠なんてあるんですか?」
この戦闘訓練で言っていた通り、 場数ならダントツで先輩の方が踏んでいるだろうし、 そもそもその輪に俺が馴染める気がしない…。
「勿論ゼンが気にしている通り、 2年生、 3年生の中からも精鋭達が参加する事になっている。 1年生が参加した事は今までに1度もないが…例外はあるもんだ。お前が馴染めるかどうかは────お、 ちょうど来たか」
ガイルがそう言った瞬間、 訓練場の扉が開いた。 扉の開く音に皆の視線も一点に集まったその先に立っていたのは、 4人の生徒だった。 顔つき、 体格、 オーラ…どれも1年生には感じられるものでは無い貫禄。 男女2人ずつのその生徒達は、 視線を気にせずガイルの元へと足を運んでいた。
「紹介しよう…うちの学校の中でもズバ抜けて優秀の3年生、 通称『四皇』の4人だ」
『リュウグウ・シスカ』
見事な黒髪を地面スレスレまで伸ばしており、 前髪も長く顔の半分程見えていない女性。
『イーシェン・ライト』
左目だけを覆う片眼鏡のような物を着用している白髪の男性。
『リーシャ・アルベ』
制服のスカートの丈が異常なまでに短く、 インパクトのある豊満な胸の谷間を、 これみよがしに顕にしている金髪の女性。
『カルシム・コスモ』
聖騎士長のキンリュウ程ではないにしろ、 程よく鍛えられた肉体は、 とても3年生とは思えない程の威圧感を演出している赤髪の男性。
…これが四皇。
「この4人は既に聖騎士団に所属し、 この国に多大なる貢献をしてきている。 学生の中でも、 成績、 実力だけではなく経験もトップだ。 そして、 『職業対抗戦』では、 この4人の中から2人がゼンのチームメイトとなる」
「よ…よろしくお願いします…」
流石にオーラを目の当たりにした状態では緊張してしまう…。 『顎』戦の時の聖騎士長ローザは、 このオーラが欠けていたからこそそこまでの緊張はしていなかった。 むしろ、 この4人よりも実力はローザの方が上だという事に驚いている位だ。
俺の挨拶に真っ先に歩みを寄せてきたのは、 ダイナマイトボディ…もとい、 リーシャ・アルベだった。
「こんな小さな坊やが、 あんな濡れる試合を見せてくれるなんてぇ♡」
歩み寄る度に揺れる胸に釘付けになってしまうような…そんな感覚に襲われていた。
淫妖な雰囲気すら纏って見えるアルベが俺に近寄って来るも、 それは叶わなかった。
「──っあん♡」
まるで見えない壁があるとでも言わんばかりに進行を妨げられ、 豊満な胸を見えない壁に押し付ける形になってしまった。
ふむふむ、 こんな形になるのか…。
「…何故、 近付く…?」
見えない壁を創ったのはモノだった。 背後から般若の顔をしたオーラが飛び出てしまう程の怒りを見せ…しかし表情は無表情。
こわ。
「あらぁ、 あなたに私のような立派な胸が無いからって…僻み?」
見えない壁にわざと押し付け、 その胸の巨大さをアピールするかの如く行動でモノを更に挑発する。 その瞬間、 クラス中の余り胸の大きくない組の女子の堪忍袋が切れるような音が一斉に聞こえた気がした。 かくいう男子は血眼といっても過言ではない程血走った目で凝視している。
必死すぎやしないか…。
しかし、 先程二ルヴから叩きのめされた男子達は、 ご満悦にプリンを食す二ルヴにプリンを献上していた。
アルベと女子達はバチバチの視線を交わし合い、 1部の男子はなお押し付ける胸に釘付け、 また更に1部の男子は二ルヴに踏まれて恍惚とした表情でプリンを献上…。
学級崩壊だろ。
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学級崩壊もあらかた落ち着き、 一先ずアルベのみ退出という形で幕を下ろした。
「君達の訓練…見させてもらったのだよ!」
四皇の中でも、 一際強いオーラを放っていた男、 カルシム・コスモは仰け反りながら訓練場全体が震える程の声量を発した。 ビリビリと肌を振動させる空気は、 殺気や敵対の意思がこもっていないにも関わらず萎縮させられてしまう。
『剣王スキル: 覇気 を獲得しました』
剣王。
ありとあらゆる武器を使いこなす事が出来ると言われる職業で、 歴代でたった5人しか確認されていない職業だ。 勇者や観察者ような特殊職業…『律者』を除けば最高位に位置する職業。
す、すげぇ…覇気だけでこれほどまでの威圧を浴びせられるとは。
「とりあえず、 オレの力を肌で感じて貰ったのだよ。 さぁって、 ここで問題です! そんな凄いオレの職業…一体なんでしょう? さぁ! 当ててみるのだよ!」
Sクラスの面々は、 当たらずも遠からずといった回答を連発させ、 ズルをした気分になりながらも俺は回答した。
「…剣王、 ですよね?」
Sクラスのみんなには、 俺の職業を打ち明けてはいるものの、 獲得の条件はそのスキルの発動を見ること。 先程の威圧をスキルだと認識していない状態では俺がそのスキルを獲得したとは思っていなかったのだろう。 希少職業の剣王の名を聞いたクラスメイトはざわざわと騒ぎ始めた。
「君、 いいねぇ…流石なんだよ! よし、 オレとチーム組むんだよ! 」
そんなコスモの提案に、 俺は内心ではまたとないチャンスだと感じていた。 剣王のスキルを目の当たりにする機会などそうそう訪れるものでは無い。
「そんな簡単に決めちゃっていいものなんですか?」
「う〜ん、 オレは君の実力は見せてもらったんだよね! でもそっか、 君の方はオレの実力は見たことないんだよね…なら────」
その瞬間に放たれたのは、 威圧のスキルではなかった。
単純な敵対心。
内側に潜む好奇心を、 敵対心で囲ったような空気は、 威圧のスキルよりもよっぽど不気味だった。
「オレと一試合するんだよね!」




