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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第60話

こちらは2人、 俺と二ルヴ。

あちらはモノとアランを除くSクラスの面々、その数19人。

ガイルは親睦を深めるには戦闘が1番と言っていたが、 それが信用に繋がるかは別だ。

だが、 それ以上に俺は少しワクワクしていた。 俺の実力が如何程(いかほど)なのか…それを知れる良い機会だ。 更にいえば、 未だ見たことの無いスキルの使い方、 テクニック、 まだ()()ことの無いスキル…。 不安や恐怖も無いとは言えないが、 それ以上に高揚が勝っていた。


ガイルの掛け声と共に、 近接武器を持っている4人が駆け出した。 武器は剣が2人に槍と斧が1人ずつ。 こちらの1人に2人ずつで牽制する運びなのだろうが…俺も黙ってやられるつもりはない。

「二ルヴ、 左2人やれるかっ!?」

「全く…わしを誰じゃとおもっておる。 子供の相手など、 朝プリン前じゃ!」

朝プリンとは…。

しかし、 そんな訳の分からない事を言いつつも二ルヴは槍と斧を持つ生徒の対応を請け負ってくれた。 俺は右の2人を先に戦闘不能へとする。

「おらぁぁぁあ!!」

剣を持つ2人の生徒は、 その剣に何かしらのスキルで付与しているようだった。右側の剣士の持つ剣には炎、 左側の剣士の持つ剣には凍気が纏われている。 Sクラスに在籍していることを考えると、 恐らく『魔法剣士』だろう。 大抵魔法剣士の攻撃パターンは決まっており、 近接でも剣士として強く、 中距離でも纏ったスキルで攻撃出来るという利点を生かす為に、 自然と少し距離をとった立ち回りになる。 そういった相手には、 完全な遠距離攻撃…もしくはゼロ距離近接に限る。

俺が特殊ナイフを2人の足元へと投擲すると、 2人は驚き一瞬足が止まってしまう。 その一瞬に間髪入れずに瞬間移動し、 2人の腹部へと一撃を入れた。 腹部を抱えて倒れる2人をギリギリの所で支え、 ゆっくりと地面に寝かせた後、 二ルヴの方をチラリと見やると、 二ルヴは2人の武器を粉砕させ、 ついでに心もへし折っていた。

なにやらぶつぶつ呟く2人の顔は、 何かとてつもない恐怖を感じたような顔で涙を流していた。

「二ルヴ、 お前一体なにして…」

『竜種スキル: 威圧 を獲得しました』

やりすぎたのではないだろうかと、 一瞬考えたが、 紅く光る二ルヴの眼光を目にした瞬間のスキル獲得により理解できた。 成程、 威圧であんなに恐怖に満ちたような顔をしていたのか…。

『威圧』は、 使用した対象との実力差が大きければ大きい程、 与えられる恐怖は強力になっていくスキルだ。 いくらSクラスとはいえ、 竜種との魔力量、 精神力共に差が大きかったようだった。

「お、 おい…マジかよ」

「四人がかりであんな瞬殺されんのかよ…」

余裕の笑みを浮かべていた生徒も、 先程起きた現状に顔を曇らせつつあった。

「こんな早々に凹んじゃったってどうしようもないっしょ! 遠距離が出来る人達は後方で支援、 援護に徹底して! 近距離は一気にゼン君に集中攻撃! あたしと一緒にスイレンと残りは竜っ子に攻撃!!」

初めて話した時はもっと物事を楽観的に捉えている少女といった印象だったが、 ここ数日でかなり変わった印象を見せるクロロ。 的確な指示に、 その指示にしっかりとついていく生徒達を見ると、 他の生徒達も前回の訓練以降からかなりのレベルアップを成し遂げているようだった。

────しかし、 それはこちらも同じことだ。

1度距離をとり何人ずつの分担になったのかを確認すると、 俺の方へ攻撃のベクトルを向けているのは8名。 残りの7名は二ルヴへとベクトルを向けていた。 本来の達成方法はどちらかを降参、 もしくはガイルが戦闘不能とみなせば勝利だが、 人数の配分から考えるに俺達2人ともを倒すつもりの配分だ。 そうじゃないなら足止めに数人、 本命に残りの全戦力を注ぐ戦い方がセオリーだろう。

ならばこちらも全力を…だす!

「二ルヴ! 一旦集合だ!」

「折角分担させたんだから、 そんなことさせないよぉ〜っ!」

俺の指示を阻止しようと、 既に変身士(獄炎鳥)への変身を完了させたクロロは俺に『焔壊弾えんかいだん』を放つ。

「流石にこの距離じゃ避けきれないな…『幻影捕縛陣』!」

俺は自身の影を操り、 捕縛を目的とする実態の影で俺の正面を覆う。 焔壊弾は影により消滅し、 俺へダメージを与える事は出来なかった。 こちらの視界を遮る形になってしまうが、 それはあちらも同じだ。 俺が見えない以上、 どんな攻撃が飛んでくるか分からない今、 無作為に近付いて来たりはしない。 クロロを含む全員が一瞬足を止めた瞬間…その一瞬は二ルヴが俺の元へ移動するには十分過ぎる時間だった。

「二ルヴ…竜の血を俺に貸してくれ!」

「かははっ! 全くお主は欲張りじゃのう」

そう言って二ルヴは自分の指先を牙で切り裂き、 その指を俺に差し出した。

…この方法もどうにか改善しなければ、 絵面的には幼女の指を舐める男になってしまう…。

今回は一先ひとまず仕方ないと、 俺は二ルヴの指先へと舌を伸ばし、 その血を借りた。

「ありがとう」

瞬間発動させた『天眼』により、 影の横から誰かのスキルによる電撃が飛んでくるのを目視することができた。 俺は瞬時にその電撃に向けナイフを投擲し、 電撃を相殺させる。

近距離から攻めようと考えていたが、 流石Sクラス…中々の連携により遠距離からのスキルを警戒せざるを得ないだろう。 それならまずは遠距離からか…。

相殺の為に投擲したナイフが壁に刺さった事を確認し、 瞬時にそちらへ移動する。 俺のこの技を知る生徒はこの場に居ない。 勿論投げたナイフを目で追っていた者などおらず、 俺がその場から離れることで影が無くなり、 幻影捕縛陣は強制的に解除される。 クロロ達は戦闘態勢を整えるが、 影が消えて現れたのは…。

「かははっ! 次はお主らが相手かのぅ?」

「な…なんで!? ゼン君はっ!?」

「おっと、 見つかる前に…『迷彩』」

前回の訓練では『観察者』という事を隠していたので、 基本的にはモノに頼りきりだったが、 今となってはそんな心配する必要も無くなってしまった。

「わ…私が…っ! う、 『動かないで』下さい!」

急な二ルヴの登場に焦ったスイレンは、 『言霊』により行動不可状態にしようとしていたが、 先程の威圧で把握した通り、 二ルヴの身体能力を制限したとしても、 魔力量が抑えられる訳では無い。

「成程のぉ、 言霊を使ってわしを足止めしようとしておる訳か。しかしのぉ…」

「う…嘘…」

言霊によって動きを封じられているはずの二ルヴは、 平然と歩み始めた。

「これしきの言霊では、 動いてくれと言っているようなもんじゃぞ?」

「わ、 私の言霊が…『効いていない』…あっ!」

自分の言ってしまった事に口を覆うが、 それを狙っていたと言わんばかりにニヤリと口角をあげる二ルヴ。

言霊使いは、 自分の言ったことが事象として発言する強力な職業だが、 それは思いの強さにも比例する。 だからこそ、 『死ね』という単語だけでは効力を出さない。 『死』という概念を思う事が重要となるからだ。

今回は、 二ルヴを()()()という意思よりも、 二ルヴに言霊が()()()()()()という意思の方が大きく働いてしまったという訳だ。

「スイレンは、 あのネガティブ思考さえ何とか出来ればもっと強くなれると思うんだけどなぁ…。 おっと、 それよりも…」

俺は最後尾でスキル発動の機会を伺っている3人の更に後ろに向けてナイフを投擲し、 瞬間移動する。

「…っな!? こいつ何処から!?」

「『幻影捕縛陣』」

スキルを発動される前に、 3人の全身を影により捕縛する。 スイレンはもう戦える状態では無いので、 俺の担当は残り4人となっていた。

「いつの間にかゼン君が…先に竜っ子からじゃなきゃかな…」

「ふむ…策があるのじゃろう? 邪魔はせんから我が主の元へ行くがよい」

スイレンの言霊の影響が残っていないか、 指を閉じたり開いたりを繰り返し、 自らの動作確認をしながら二ルヴはクロロに告げた。

「わしには彼奴あやつ等が適任なんじゃろうから、 わしはあっちを相手するかのぉ。 格の違いを教えてやらねばいかん」

ニヤリと笑い、 地を蹴って元の位置へと戻る二ルヴだったが、 蹴った足元は勢いに負けて抉れていた。

「あの子…やばすぎじゃない? その子と契約したゼン君も規格外でしょ」

そう言いながらも、 全身を覆う炎の勢いを増すクロロは、 この状況下で俄然やる気を出していた。 移動を完了させた二ルヴの方は物凄い爆音と共に戦闘を開始させたようだが、 俺達の方は未だ拮抗状態だった。 俺の移動速度を警戒しての事だろう。 距離のある今の状態ならば何とか予備動作だけでも確認しておきたい…そう思っているのだろうか。

……いや、 違うな。

「────もらったぁっ!!」

急に背後から現れた生徒の剣を、 影で縛っている生徒が持ち合わせていた剣を素早く抜き取り受け止めた。

背後を取れたのならば、 本来声を出さずに一撃を入れればいいものの、 律儀に声を発したことにより正確な位置を把握することが出来た。 それがガイルの言う経験の差というものかもしれない。

影操術士えいそうじゅつしスキル: 影移動 を獲得しました』

声をかけられたお陰で素早く対処出来ただけではなく、 その生徒が俺の背後を取れたスキルまで獲得する事に成功していた。

どうやら影移動のスキルは、 特定の範囲ならば影から別の影への移動を可能とするスキルのようで、 移動先の影が繋がっていなくても特定範囲内ならば移動が可能のようだ。

「使い方次第ではかなりの汎用性がありそうなスキルだな…『ホーリーソード』! 更に『幻影捕縛陣』」

剣戟の最中にホーリーソードにより俺の持つ剣を発光させる。 本来の使い方とは違うが、 こういう不意打ちにはもってこいだと思う。 現に生徒は目眩しをもろに受けてしまった為、 目を覆ってしまった。 その隙に再び幻影捕縛陣で全身を捉える事に成功した。

「くそっ! 『影移動』!」

しかし影を使って捕縛するスキルなので、 幻影捕縛陣も影の対象であり、 まんまと生徒を逃がしてしまった。3秒程のタイムラグの後にクロロ達のいる場所の影から姿を現した生徒を後方へ移動させながらも、 こちらの警戒を怠っていない。 焔壊弾を常に4つ程浮遊させ、 不意の攻撃にも出来るだけの対処を可能とさせているその姿勢は、 とてもじゃないが経験がない生徒の取れる行動では無い。 普段から自分の職業ジョブの鍛錬を怠らず、 授業をしっかりと理解している証拠だろう。

「クロロ…流石だな」

「こっちもただただ学生生活を送ってる訳じゃないからねぇ〜! 任務だってしっかりこなしてるんだから!」

焔壊弾を更に追加させ、 一気に射出するクロロ。 合計12発の焔壊弾は俺に向けて一直線に近付いて来るが、 俺は直撃の瞬間に『天眼』を使用する。 未だに天眼時の情報処理には慣れず、 二ルヴの血のお陰で身体強化を施しているにも関わらず多少の頭痛はしてしまうので、 連続で使用する場合は使って2、3秒位の方がいいかもしれない…。 俺もまだまだ特訓が必要だ。

天眼を使用した瞬間、 俺は手に持つ剣で全ての焔壊弾を斬り伏せて解除し、 その爆煙に紛れて焔壊弾の軌道上にナイフを投擲する。

「俺が弾く! な、 何だこのナイフ…電流が流れてるぞ! 触ったら痺れるかもしれない…気をつけろ!」

大盾を持った生徒が居た…恐らくその生徒が俺のナイフを弾いたのだろうが、 別に俺のナイフは痺れさせたりする事が目的じゃあない。 煙幕で俺の姿が見えない今、 俺を標的としている生徒達は煙幕中に目を凝らしている事だろう。

だから、 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


「────『瞬速ノ断罪コンヴィクト・ネオ』」

魔族を討つ為のスキルなので、 人間に使った所で致命傷等にはならず、 ただただとてつもない衝撃が襲いかかる剣技だ。 瞬速の剣技にプラスし、 ナイフによる瞬間的な移動の速さを上乗せした『瞬速ノ断罪』の威力は、 衝撃に備えていなかった生徒達を蹴散らした。


「勝者────ゼン、 二ルヴチーム!」

ガイルのけたたましい声に反応して二ルヴの方を見やると、 自分の戦闘に集中していて気付かなかったが、 戦闘不能になった生徒達の山に腰を掛けて眠い眼を擦りながら欠伸をしていた…。 だが、 何故か踏み付けにされている男子生徒は恍惚とも言える表情をしていた…。

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