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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第59話

俺は、 授業の前にガイルから時間を割いてもらい、 クラスの全員に俺のこれまでを話した。

職業ジョブは剣士などではなく、 観察者だという事。 この事は絶対に口外しない事。 アギトという盗賊団の罠にハマってしまった事。 そのせいで…数十人の騎士が命を落としてしまった事。 1年後、 最上位魔族という存在と再戦しなければいけないという事。


そして────俺には魔族の血が流れているという事。

俺が全てを話し終える頃、 やっとみんなの顔を見渡すことが出来た。 予め知っているモノとアランは周りの反応を気にしているのか、 少しだけど落ち着かないような表情を見せていた。

「あ、 あのぅ…」

そういって、 唖然としていた教室の静寂を切って手を挙げたのは、 『言霊使い』のスイレン・アスカだった。 極度の人見知りの為なのか、 クロム以外と一緒に行動している所を見たことがないが、 そんな彼女が注目の的にされるような状況で手を上げているという事が、 彼女にとってその質問がどれだけ重要なのかを物語っていた。

おずおずと手を下げようとしたスイレンに、 俺は咄嗟に声を出してしまった。

「ま、 まって! みんな、 思ったことは気にしないで言って欲しい…頼む」

俺はクラスのみんなに向かって、 深々と頭を下げた。 恐らくみんなは俺が何をしでかしてくるか分からない、 そんな恐怖から声を出せずにいると思っている。

「で、 では…アルファ君は、 その事実を知った上で、 何をしたいと考えてます…か?」

スイレンの言葉に、 次は俺が呆気に取られてしまった。

てっきり俺は魔族か人間、 どちら側の立場にあるのか…とか、 これから先、 人間側に仇なすことがあるのか…とか、 そんな質問が来るのかと思っていた。 しかしスイレンが聞いてきたのは、 ()()()は何がしたいのか。

正直何も考えてはいない…というのが事実だが、 それではスイレンの質問に対して納得のいく答えにはなっていないだろう。 俺は数秒の沈黙の後、昔の自分が聞いたら恥ずかしさから卒倒してしまうような言葉が出てきた。

「俺は……3年間でこのクラスのみんなとの思い出を作りたい。 俺はまだ、 アランにモノ、 イグニスとしか、 あまり話したことが無い。だから、 今後はみんなとも仲良くして、 より強くなりたい……です」

最後は恥ずかしさから尻込みしてしまったが、 スイレンには納得のいく答えだったようで、 静かににこやかに笑ってくれていた。 それに合わせるが如く、 みんなは一斉に拍手を俺に送ってくれた…が、 そんな中でもう1人手を挙げていた。

「ど、 どうした…モノ」

俺の答えのどこか納得がいかなかったのか、 俺には分かる不機嫌そうな顔をしていた。

「…ゼンと、 なかよし…モノが、 先…」

それだけ言って再び椅子にちょこんと座る。

…つまりは、 先程の俺の話でアランの名前が先に来たことが気に食わなかった…と?

訳が分からず混乱している俺を差し置いて、 モノは満足気な顔をしていた。

そんな中、 ガイルが1つ咳払いをして話を切り出した。

「ゴホン…とりあえず、 今話した事を把握している人物は限りなく少ない。 各聖騎士団長、 国王、 国王の側近…そしてお前達だ。 この国の最重要人物しか知りえない情報を、 何故ゼンが打ち明けようとしたのかは、 言わんでも分かるな。 仲間と必要なのは信用だと俺は思っている。 信用は、 先に相手を信用してなければいけない。 だから、 この話がゼンにとってのお前達への信用だということだけは言っておこう」

なにやら急に教師らしい事を言い始めたガイルの言葉を、 クラスメイトは真剣な面持ちで聞いていた。

「そして、 いい仲間を持つために最短な方法はなんだと思う?」

唐突なガイルの質問に、 クロムは真っ先に答えた。

「やっぱりみんなでパーティーとかいいんじゃないの? 盛り上がるし、 仲良くなれるっしょ〜!」

「それはクロムがやりたいだけだろ? 」

そんなクロムの提案に被せて来たのは、 確かクロムと幼馴染生徒だったはずだ。 茶髪に整った顔立ちをしているにも関わらず、 何故か彼女がいないという話を聞いたような…。

「なら、 やっぱり俺ちゃんは依頼を一緒にこなしていくってのが良いと思うなぁ」

『俺ちゃん』という変わった一人称なのは、 確かアインツィン•ベリアル…いや、 アインツと呼んでくれと言っていたか。

やはり、 あまり交流のないクラスメイトは名前すら覚えていない人物だっている。 まずは全員の名前と職業位は把握していかないといけない。

そんなことを考えていると、 急にガイルは教卓を力いっぱいぶっ叩いた。 バン!!という強烈な音に一同は一気に静まり返った。 話に飽きて船を漕いでいたモノは、 その破裂音に身体をビクつかせていた。

「お前ら…まだ分からないのかっ! 信頼を築き上げる為に必要で、 そして最短な方法…。 それは────戦闘訓練だろ!!!」

あれだけいいことを言っていたのに、 これだけ真剣な顔でこんなことを言われては台無しだ。


──────────────────


ガイル改め脳筋教師の案により、 俺達は戦闘訓練を行うこととなった。 しかし、 前回行った親善試合と違う点は、 俺は単騎での戦闘で、 既に実践経験のあるモノ、 アランは参加不可となった。

モノとアランを省いた残り人数は19人。 流石にその人数を相手取ったことなど無い。 一人一人の実力は、 『アギト』の団員程はないとはいえ、 紛れもなくSクラスに所属する精鋭だということを忘れてはいけない。

もちろん、 アランは自分とモノが参加不可という内容に反対したが、 ガイルは聞く耳を持たずにそれを一蹴していた。


とりあえず、 やれるだけのことはやってみるしかないだろう。

今現在で俺が把握している職業は…。

クロム・ロロシエル『変身士ヴァリアント:不死鳥』

スイレン・アスカ 『言霊使い』

この2人だけだ。

どういったスキル構成なのかは把握しているので、 対策のしようはあるが…問題は他のクラスメイト達だ。 一応、 チラリとガイルへ目線を送るが、 俺の意志をくんだガイルは堂々と首を横に振った。

「クラスメイトの職業を教えてやることは出来んが、 ゼンにもアドバンテージをやる」

そういうと、 タイムリーに訓練所の扉が開け放たれた。

「わっはっはっは!! 探したぞあるじよ! なにやらピンチらしいのぉ!」

「ま、 まってぇ〜…」

堂々と現れたのは、 その正体を隠すつもりもない二ルヴと、 二ルヴをここまで案内してきたのか、 息を荒らげて二ルヴの隣に座り込むキアラだった。

「今回、 事情を知っているAクラスのキアラに頼み、 彼女を連れてきて貰った。 ゼンは今回、 二ルヴとチームを組んで訓練と親睦会を兼ねた戦闘を行って貰う」

流石のクラスメイトも、 二ルヴの登場には驚きが隠せていなかった。 パッと見は擬似的に竜に変身している変身士ヴァリアントだと思うだろうが、 全てを話した今はそうは思うまい。

「しかしのぅ、 主よ。 今はこの首輪のせいで力が発揮できておらぬ」

そういって見せてきた首元には、 赤黒い石で造られた首輪が付けられていた。

「それは『抑制の首輪』という物だ。 それをつけておけば勢い余ることは無いだろう」

成程…万が一、 二ルヴが力加減ちからかげんを間違えてしまえば、 人間を食事としての認識を外すどころの話では無くなってしまう。 竜族用の抑制の首輪なんてものが都合よくある訳も無いので、 この首輪はモノが作ってくれたのだろう。 そして、 今まで二ルヴの面倒を見ていたのはキアラだろうか…。 何から何まで俺は恵まれていると痛感せざるを得ない。

「今からお前達には、 ゼンと彼女…二ルヴとのタッグに挑んでもらう。 どちらかを降参と言わせる、 もしくは俺の判断で戦闘不能となれば、 Sクラスの勝ち。 ゼンと二ルヴはSクラスの全員を、 俺の判断で戦闘不能となれば勝ちだ。 お前達に言っておくが、 いくら2人だと言っても経験を積んでいる者とそうでない者との差は大きい。 くれぐれも気を抜くな」

ガイルの言葉に数名が固唾を呑むが、 それでもやはり何名かはそんなことは無いと高を括っているようだった。

正直あまり気乗りはしない。

ガイルはハードルを上げるような事を言っているが、 実戦経験があるとはいえこの人数では何をしていいのか分からない。

対する二ルヴはそういう訳でもないようで、 見事な尾を激しく振り、 やる気十全といった様子だった。 とりあえずは万が一が起こらないように釘だけは刺しておこう。

「二ルヴ、 くれぐれも殺したりとかするなよ…」

「任せておれ! 主と契約してから、 どうも人間を見ても食欲をそそられんのでなぁ。 契約の影響にこんな事があるとは予想しておらんかった」

そうか、 本来竜の契約は竜同士で行われるものだから、 種族間の相違の影響なんてものはない。 今回俺が主として契約したことによって、 俺の影響を受け、 人間は食料では無いという価値観が影響したのだろう。

…もしこれが、 二ルヴを主として契約していたら…俺は人間を食事として認識していた可能性があるわけか…。

アランがのちに言っていた、 契約という言葉に怒りを顕にしていたモノの理由が分かった気がする。


…そんなことを考えている場合ではなかった。

まずは目の前の戦いに集中せねばなるまい。

「主よ、 まずはどんな作戦でいこうかのぉ」

「二ルヴなら…何となく分かるんじゃないか?」

俺は二ルヴを横目に見ると、 屈託のない笑顔で俺にピースサインを送ってきた。

「やるからには…全力で行く」

俺の一言に合わせて、 Sクラスの面々が戦闘体勢へと移行し始める。

「ガイル先生…お願いします!」

クロムの合図に、 ガイルも大きく頷いた。 その行動からも、 Sクラスの司令塔的存在はクロムなのだろう。 そうなれば、 クロムの周囲を取り囲むように構えているクラスメイトは、 そこそこの実力者だということになる。 だったら、 先に攻撃部隊となり得る所から攻めていこう。

俺は少し…高揚していることに気付いた。


「それでは────────始め!!!」

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