第58話
「いや、 普通に考えて…ダメだろ」
次の日、 俺はガイルに二ルヴの在学についての提案をしてみたのだが、 速攻で拒否された。
「ですよね…何かいい方法はないですか?」
「そうだなぁ…あ、 それより、 何故か食堂から多額の請求が来たんだか、 何か知らないか?」
「……………………………………知りません」
「ゼン、 お前の仕業か?」
ガイルの鋭い眼光に身体がビクリと反応する。 瞬間冷や汗がダラダラと留まる事を知らぬと言わんばかりに溢れて来るが、 折角やる気を出している二ルヴの為にも…俺の未来の為にもどうにかして、 二ルヴを問題なくこの学校に通わせられるいい方法を見つけなくてはならない。
「すいません、 俺は分かんないですね…は、 話を戻しますけど、 何か方法はないんですか?」
俺の慌てように、 ガイルはじぃっと俺を見つめるが、 深いため息をつくと話を戻してくれた。
「そうだな…先に、 俺がダメだと言った理由から教えていこう。 まず、 彼女はゼンと違って人間としては誤魔化しきれない見た目がある。あれはどう考えたって注目の的を集めてしまう。 今は俺が保護しているという名目があるから、 この学校に居ることが出来るが、 その保護自体もいつまで適用されるかは分からない」
俺は、 ガイルの言葉に驚きを隠すことが出来なかった。 今二ルヴがここに居られるのは、 単なる国王の計らいとばかり思っていたが、 何を隠そうガイルのお陰だったとは…。
俺は食堂の請求をガイルに押し付けてしまった事をちょっぴり反省した。
しかし、 ガイルの行っている保護もいつまで適用されるか分からないとなると…その保護の許可をどこが出しているのか知らないが、 気が変わらないうちにどうにかせねばなるまい。
まぁ、 見た目はどうにも出来ん。
だとすれば、 二ルヴが竜人という存在であるという旨での在学を許可してもらわないといけない。
「次に、 今までの行為だ。 あの洞窟には無数の兵士達の亡骸があったと報告を受けている。 つまり、 彼女は人間を食事として見ているという事実がある。 それをどうやって認めさせるか…だ」
その言葉に、 俺は納得しかけてしまった。 俺もそこは懸念していた点でもあるからだ。
そりゃあ誰だって人を食べた事のある…それもごく最近まで人を食事としてしか見ていなかった人には好き好んで近付きはしないだろう。
言ってしまえば…人殺しだ。
まずはその認識から変えていかねばならないだろうし、 その償いは何かしらの形で償わなければならないとも思っている。
しかし、 そこで俺はある疑問点に気が付いた。
何故、 二ルヴは昨日の夜はプリンのみを食し、 食堂の従業員に手を出さなかったのか。
勿論プリンが気に入って…という線も有り得るが、 以前嫌いな食べ物を聞いた時は『鎧』と言っていた。 従業員は衣類だけで、 言ってしまえばそれを破くなりなんなりすれば食べられた筈だ。
もし…それが俺と結んだ『契約』と何か関係があれば。
「もしかすると…そこはどうにか出来るかも知れないです。 憶測ですけど、 俺と結んだ契約で何かしらの作用を働かせる事が出来れば…可能性はあります」
本当に可能性でしかないが、 言ってしまえば今後の重要な点だ。 人を食事として認識している事を抑制、 もしくは考え直させることが出来ればあとは何とかなるだろう。
「そうか、 それは本人に聞いてみるのが1番だろうな。 最後は…俺が何とかしてやろう」
問題点である3つ目を話さずに、 ガイルは俺の肩をポンポンと叩くと、 ニヤリと俺の顔を覗き込む。
「ゼン、 もしかして彼女に惚れたか?」
ガイルのニヤつきはその意図だったのか…。
「まさか。俺はただ、 人間の欲の為だけに作られてしまったあいつが、 人間の勝手な都合でどうこうされるのが納得いかないだけですよ。 あの時は二ルヴのお陰で助かった恩もありますし…恩を返せない男にはなりたくないと思っただけですよ」
未だニヤつくガイルの手を叩き、 俺の肩から退かせる。
「とりあえず、 彼女は一旦Sクラスで受け持つ事にしよう。 変身士という体にしておけば、 一時は問題ないだろう。ほら、 先に教室に行ってろ」
トンと俺の背中を押し、 しっしと言わんばかりに手を振るガイルにお辞儀をし、 教員室を後にした。
最近は訓練と戦闘ばかりで、 あまり授業に出ることが出来ていなかった。 そのせいか、 クラスの戸を開ける手が少しだけ緊張で汗が滲んでいた。 俺には魔族の血が流れていると知ったら…クラスのみんなはどんな反応をするだろうか。
未だ俺の職業が観察者だと言うことも言えていない。 だから、 俺は魔族の血の話を打ち明けると決めた時に、 Sクラスのみんなには観察者の事も打ち明けようと決めていた。
扉越しに聞こえるクラスメイトのざわつきにすら、 呼吸のしづらさを少しだけ感じる。
そんな時に、 不意に叩かれた肩にビクリと反応して振り向くと、 そこには汗だくになっているアランとイグニスの姿があった。
「アラン…イグニス、 先に出たんじゃなかったのか?」
同じ寮のアランとイグニスは、 俺が用事があると言うと先に行ってると言い、 俺よりも先に寮を出ていた。 その2人が何故か俺よりも後に教室に辿り着くはずがない。 更に登校だけで起きる汗の量ではなかった。 よく見ると制服自体には特に目立ったものはなかったが、 下に来ているシャツがくしゃくしゃになり、 所々に汚れが目立っている。
「イグニス君に誘われてね、 訓練所で2人で戦闘訓練をしていたんだ。 ゼン君が何かに悩んでいる様子だが、 相談されていない自分には何をしてあげればいいか分からない…ってね」
アランがイグニスの感情の全てを話してしまった事に、 ばつが悪そうに頭を掻きむしりながら唸るイグニス。
「俺達はダチだろ? だったら、 信用して何でも話してくれよ。 俺は頭が悪ぃからさ、 なんにもしてやれねぇかも知れねぇけど…それでも、 なんかしてやりたいって思っちまうんだよな」
「…イグニス」
そんなイグニスの言葉に、 俺もなんだか照れくさくなり頬を掻くと、 アランは先に扉を開けた。
戸の開く音にクラスのみんながこちらに視線を移動させると、 俺の存在に気付き、 びっくりしたような表情を見せる者もいた。
数秒の静寂が訪れ、 俺は口を開く。
「あ…あの────って、 2人ともどうしたの!?」
未だにポカンとした表情の者も居るが、 以前戦闘訓練で交流のあった『不死鳥の変身士』のクロム・ロロシエルと『言霊使い』のスイレン・アスカは瞳に涙を浮かべていた。
「あたし達はてっきりどこかで死んじゃってるかとおもったのよ!」
「…よかった」
…え、 ガイルは俺が訓練をしている事をなんと伝えていたのだろうか。
とりあえず、 今は俺の事を説明するにしてもこのタイミングではないな。
「ありがとう…後で説明するよ。 みんなにも、 聞いて欲しい事があるんだ」
程なくしてガイルも教室へとやって来たので、 ガイルからこの場を借り、 説明することにした。
「実は────」




