第57話
「王よ、 1つお願いがあります」
俺は片膝を付き、 頭を垂れる。 そんな俺の雰囲気に、 兄弟子感覚でいた気持ちを切り替えた王の面持ちは、 一国の王の顔そのものへと変わっていた。
「良いぞ」
「今回の『顎』壊滅、 更に負の遺産である『指の怪物』からの応戦…つきましては、 アラン…勇者に褒美として────聖騎士団を受け持たせることは可能でしょうか」
その言葉に、 周囲がざわつく事はなかった。 なんせ、 あれだけの戦闘を目にしており、 更にあの指の怪物からの猛攻を先陣を切って防いでいたのだから、 その実力はあの場にいた者達が証明してくれている。
強いていえば…。
「貴様ぁ…聖騎士団長を侮辱している事が分からんのかっ!! そんな子供に務まるとは到底思いません、 王よ、 ご決断を早まらぬよう!」
あの場にいなかった側近達の癇には障るだろう。 しかし現状この場にいる聖騎士長達からの反応は、 側近達の思っているものとは違ったようで、 自分達以外に俺の提案に対して意義を申し立てる者はいなかった。
それは現国王も同じようだった。
「…お前達の気持ちもよく分かるが、 実際にあの勇者アランはここにいる者達をこの通り無事に守り抜いている。その事に関しては評価せねばなるまい」
王の俺の提案を認めるような一言により、 側近の2人は歯噛みをしていた。 この2人の様子を見るに、 どうやらアランが聖騎士団長になる事に対して余っ程嫌なのだろう。 本来ならば称えられて然る行為に向けられる態度ではない。
「よかろう、 勇者アランよ…そなたの聖騎士団の創設を許可する。 そして、 勇者アランが創設した団へ、 ゼン・アルファの入団を許可しよう」
アランは俺の隣へ並び、 片足を付いて頭を下げる。 その様子を見ていた側近の唇からは血が滲んでいるようにも見えた…。
「そういうことを考えているなら先に伝えてくれると助かるんだけどね…」
と、 解散した後に寮へと足を運ぶ途中で言われてしまった。
「わ、 悪い…咄嗟に思いついた事だったからな。 でも、 国王が言っていた通り、 アランがいたお陰で俺たちは無事で居られる。 助けに来てくれてありがとう」
俺の率直なお礼に、 少しはにかみながらも手を差し伸べるアランの手を俺は握り返した時。
「そういえば、 なんで俺の居場所が分かったんだ?」
空間を移動したことを考えると、 追跡していた訳ではない事は想像していた。
「…モノが、 やった…」
「うわっ!? 」
急に背後からかけられた声に驚いてしまったが、 モノの行いとなれば、 確かに有り得る話だった。
誇らしげにVサインをぴょこぴょこさせるモノは、 自分のポケットからなにやら魔道具を取り出していた。
「…連れていかれる前に、 発信魔道具…つけた…」
ということは、 俺の袖を掴んだ瞬間に俺に発信魔道具を付けたのだろう。
「なんだよ、 てっきり俺に行って欲しくないからだと思ったんだけどなぁ…ちょっとショックだぜ?」
そう言うと、 モノは自分の持つ発信魔道具を俺に投げつけてきた。
「危なっ!? 」
チラリとモノを見やると、 モノは若干怒っているかのような表情をしていた。
「…ばか…」
その一言を言い残し、 モノはスタスタとどこかへ行ってしまった…。
「な、 なんだったんだ…?」
しかし隣のアランは何かを察しているように、 深々とため息を漏らしていた。
「ゼン君、 モノ君は君を心配していたからこそ、 その発信魔道具を付けたんだと思うよ? そうでなければ、 わざわざそんな事しないと僕は思っているよ」
ぐうの音も出ない。
「後で彼女に謝ることだね」
そう言ってアランは俺の肩をポンポンと叩く。
そんな事をしているうちに、 いつの間にか食堂の近くまできており、 その前を通りかかった瞬間、 『ガシャーン!!』という物凄い音が廊下まで鳴り響いてきた。
「…何かあったのだろうか」
俺達はそっと食堂の扉を開けると、 そこには食堂で働く人達が十数人単位でひたすらに走り回っていた。 その手にはなんと────プリンが。
「ま、 まさか……」
一際お皿が積み上げられているテーブルの下からは、 白い鱗を持った尾のようなものが陽気にゆらゆらと揺れていた。 積み上げられたお皿に埋もれてその人物の顔は見えないが、 そもそも人間に尾などない…。
俺はそっと扉を閉じ、 この場を後にしようとした矢先に、 その人物…いや、 竜人から声をかけられてしまった。
「おぉ〜!! 我が主ではないか! 」
ビクリと身体を跳ねさせ、 諦めた俺は従業員の元へとぼとぼと歩いていく。
「い、 今どれくらい食べてますか…?」
お皿の数からしても相当な量を食べているに違いない…これは────高くつく。
「今の段階で…既に280杯目です…」
280!?
普通の人間が食せる量ではない…。
「ち、 ちなみに…おいくらですか?」
俺は恐る恐る尋ねると、 従業員の固唾を呑む音が聞こえてきた。
「…………聞きますか?」
「いえ、 それはガイル先生に請求しておいて下さい」
これで良し。
アランが隣でドン引きしているが、 まぁいいだろう。
それよりも、 そろそろあの大食い乙女をどうにかせねばなるまい。 俺はスタスタとニルヴの後ろまで移動した時。
「おかわりじゃ!」
「まだ食べる気か!!」
ごっ。
俺は水平チョップを二ルヴの頭に叩き込み、 握りしめているスプーンを取り上げた。 そのスプーンは握りしめられ続けたせいなのか、 持ち手が歪んでいた。
「痛いではないか! 主は好きなだけ食べさせてやると言ったではないか!!」
「食べさせてやるとは言ったが、 好きなだけなんて言ってねぇよ! お前…これいくらすると思ってんの!?」
水平チョップで出来たたんこぶを摩り、 涙目になりながら睨みつける二ルヴ。
あの時は二ルヴの助けがあってこそ、 俺は負けずに幕を閉じる事が出来たとはいえ、 契約のお陰で俺と二ルヴは出来るだけ近い場所で暮らさなくてはならない…。 世間一般な知識を持ち合わせていない二ルヴの面倒を見るのは俺だ。 ならばここらで更生させておかねば手遅れになってしまう…。 将来俺の給料がこいつのご飯代に消えていく未来が容易に想像出来てしまう。 そんな事は避けなければ。
…ならば。
「よし、 二ルヴ…お前もこの学校に通って、 依頼をこなしてお金を得よう。 そのお金でなら、 好きなだけプリンでも何でも食べていい」
「本当か! よし、 我もその学校とやらにいく!」
二ルヴは椅子の上に立ち上がり、 なにやら珍妙なダンスを踊っていた。
…勝手に言ってしまったが、 大丈夫だろうか。
俺は1年後の事といい、 二ルヴの事といい、 思いやられる未来に頭を痛めていた…。




