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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第48話

容易い…というオルフェウスの台詞に、 ハオは少しピリついた雰囲気を醸し出し始めた。 今まであっけらかんとしたような口調だった人物とは思えない程の鋭い眼光でオルフェウスを睨み付ける。

「爺さん…俺はあんまり手荒な真似なんかしたくねぇんだよ」

「知っておるよ。 お前さん、 わしの孫に傷1つ付けずに攫っていったようじゃしな…じゃから、 ()()()しておいてやっておるじゃろう?」

オルフェウスの言った手加減、 というのはハッタリなどではなく、 本当にそうしているのだろうというのは、 相対あいたいし剣をまじえているハオには伝わっていた。

グロリア王国随一の腕と功績を持つというのは、 事前の情報で耳にしており、 しかし蓋を開けてみればそう思える程の実力を確認出来ていなかった。

「手加減、 ねぇ…どうしてだい?」

剣を肩で支えるように持ち、 オルフェウスの真意を問う。

早くゼンを救出したいのであれば手加減などせずにこの場にいる敵を全員一掃してしまえばいい。 そしてそれを成し得るであろうと想像出来てしまう功績だった。

しかしそれをしなかった。

「なに、 ゼンが無傷ならばそれで良い。 返してもらえればなお良いのじゃが、 そうもいかんのだろう? ならば、 無傷で連れていったせめてもの温情じゃよ。 わしと婆さんは誰も殺しはせん」

オルフェウスのそんな言葉に────怒りを覚えていた。

何故、 自分の大切な存在が連れ去られておいてそんなことが言えるのか。

本当に大切な存在なら、 何をしてでも取り返すべきではないのか。


自分は、 そうして──────。


「…嫌になるねぇ、 こんな事で思い出させられるなんて。 そっちが手を抜くのは勝手だけど、 こっちはしっかり…殺す気でいくよ」

オルフェウスとハオは5m程の距離を保っているが、 ハオが振り下ろした斬撃はそんな距離を一瞬で詰める程の速度でオルフェウスへ飛んで来た。

それをオルフェウスは身をずらして回避する。

「スキルもなしに斬撃を飛ばしてくるとは…やはり折るべきかのぉ」

縦の斬撃を回避され、 二の手三の手と様々な角度で斬撃を飛ばす。

しかし、 その斬撃すらも全て最小限の動きで回避していくオルフェウスに、 さらに苛立ちが募ってゆく。

「それなら、 こんなのはどうかな?」

そう言うと、 ハオは自分の目の前の空間を四角に切りつけると、 その切りつけた四角の真ん中に剣を刺す。

「…成程のぉ」

何をしたのかを把握することが出来たのは、 自分の太腿にハオの持つ剣が突き刺さってからだった。 ゼンを拉致する際に使用した方法を用いて、 何も無い空間からオルフェウスの太腿へと剣を突き立てたのだろう。 予備動作として、 剣で空間を斬らなければいけないとはいえ、 その剣先がどこから出現するか分からないとなれば…正直打つ手がない。 早急にハオの持つ剣を破壊させることが先決だろう。

「さて、 どうする…おじいちゃん? これで文字通り手も足も出せないんじゃないの?」

ハオは、 太腿を刺されたというのに慌てることもなく、 ましてや痛みに悶えることもない…ただこの戦いの最善策を導き出そうとしているオルフェウスに畳み掛ける。

身動きが取りずらくなってしまっているうちにと、 次々と空間を切り裂き、 どこからでも攻撃が出来る状態を作り始めていた。

…しかし、 その行動の意味をオルフェウスは見逃さなかった。

次なる攻撃のための空間の準備をさせまいと、 すぐさまハオとの距離を詰める。 最短ルートである直線的に駆け出すが、 すぐに身体ひとつ分程隣に移動した。

「…読まれた」

先程までいた直線には、 既に剣の切っ先が飛び出していたのだ。 直線の突きを回避したオルフェウスは、 更にハオとの距離を詰め──ようとした瞬間。

背筋が凍るような魔力に足を止める。

「この魔力…誰か『禁忌』を犯したのか!?」

魔力を発する方を見ると、 『アギト』の団員として戦闘に出ていた少女からだった。

しかし、 問題はそこでは無い。

その少女と対峙しているのが、 アラン、 モノ、 キアラということだった。

すぐに救出に向おうとした時、 目の前からハオの剣がオルフェウスの首元目掛けて出現するも、 間一髪でそれを回避する。

「おじいちゃん、 まだこっちが終わってないんだけどねぇ…それに、 彼等なら大丈夫だ。 ()()()()()()()()()()()()()

救出に向かおうとするオルフェウスに剣を振り下ろすハオは、 オルフェウスに対しそんな助言をする。

言われた瞬間こそ、 それこそ早く救出に向かわねばと思いながら剣を受け止めたが、 ハオの伝えたかった意味を理解するのにはそこまで時間を要さなかった。

『禁忌』によって溢れ出す膨大な魔力を放つ少女の傍に現れたイギルは、 そっとその少女の頭に手をやると、 その溢れ出す魔力は徐々に抑えられていき、 やがて周囲に霧散していった。

「あの少女…まさか『堕職』なのか?」

「ご名答…でも、 団長の『支配』のスキル無しではただの『堕職』だろうけど…今は正気を取り戻しているよ」

支配者という異色の職業ジョブには、 そんなことも可能なのかと驚いてしまうオルフェウスだが、 そこまで悠長なことはしていられない程ハオと剣戟を重ねる。

一切気の抜けない状況ではあるものの、 イギルの言葉に耳を貸していると、 あろう事かアラン達に撤退の許可を出し始めていたが、 それに対してアラン達は戦闘を続行させようとしていた。

「彼等、 団長と戦う気なのかなぁ、 あまりオススメできないね」

「そうはさせん、 なんの気の迷いか…彼等はまだここで死ぬ人材ではない」

そして、 オルフェウスはアラン達に向けて声を飛ばす。

「ここで死ぬことはないっ! 好都合じゃ、 引け! ゼンの友人に何かあったら、 わしらはゼンに顔向け出来ん」

アラン達に撤退の指示を出している間もハオは連撃を放ち続ける。 それをなんとか受け止めていると、 オルフェウスの意思が伝わりアラン達は後方へと移動し始めた。

「…さて、 それじゃあ…本腰入れるとするかのぉ」

そう言うと、 オルフェウスは気合いの限りを尽くしてハオの剣を強く弾き返した。 少しよろめいたハオだったが、 すぐに体勢を整え今一度剣を振り下ろそうとし────その手を止め、 後方へと移動した。

「な〜んかまだ隠してるね……タヌキジジィが」

オルフェウスが何をやるか知らないが、 如何なる攻撃であろうと追撃しようと、 自らの周囲を無数に斬りつける。 しかし、 先程の空間を斬りつけるような動きではなく…それよりも前に行った『斬撃を残す』という方を用いているようだった。

そして、 その間にオルフェウスは…あろう事か剣を地面に突き立てた。

「…戦意喪失かい?」

「たわけ、 若者の前で背を向けて逃げるものか」

オルフェウスは、 発言の通り戦意喪失などしていなかった。 それどころか、 突き立てた剣の刀身はみるみる魔力を纏うように増幅してゆく。

「こんなスキル…聞いてないじゃろ? 」

何も言わず、 ただ眺めていただけのハオの心情をピタリと言い当てるオルフェウスは、 刀身が耐えるギリギリまで魔力を増幅させた剣を地面から引き抜くと、 その剣を鞘に収めた。

「このスキルは、 ゼンの修行に付き合っておる時に編み出したものじゃからの。 殺すつもりで人に向けて使うのは初めてなのでの…どれ、 確かめてみるか?」

くいくい、 とハオに向かって手招きをするオルフェウスに、 ハオは力任せに斬撃を放つ。 しかしその放った斬撃は、 今までとは比べ物にならないほどの大きさで、 衝撃が通った地面は抉られたような跡が残っている。

その光景を、 もしこの2人以外の一般人が目撃してしまっていたら、 おもわず目を背けてしまう程…。

受け止められるはずもない、と…。


…だが、 その斬撃はオルフェウスに直撃する瞬間に2つに分断され、 オルフェウスを通り過ぎて行ってしまった。

まるで、()()()()されてしまったように。

「抜いた素振り…なかったと思ったんだけどねぇ…」


ここに来て、 ハオは初めて自分が対峙している人間がどれ程の実力者なのかということを、 冷や汗を垂らしながら感じていた。


「さて…終いにするかのぉ」


オルフェウスの尋常ならざる実力で、 呆気に取られてしまっていたハオの目の前には、 既に構えきっているオルフェウスが存在していた。

「安心せぃ、 少々痛い目をみせるだけじゃ。 『神速────



「────待って! じいちゃん!!!」

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