第46話
「退屈させないように頑張るわね…クソババア」
ティンゼルはここぞとばかりに嫌味を吐き捨て、 瞬時に魔道具生成を行っていた。 フードの中に仕込んでいた鉄製の棒らしき物を数本取り、 それらを用いてスキルを発動させていた。ものの数秒で完成したのは6本の剣で、 柄の部分には魔石が使用されていた。
「成程ねぇ、 その手袋…生成したものに魔石を埋め込ませる事が出来る物ってことかい」
生成する際には、 ティンゼルは魔石をもってはいなかった。 しかし、 完成した剣には紛れもなく魔石が使用されている。
「流石、 伊達に長生きしてないといった所かしら。 そう、 この魔道具は『これをはめた状態で生成したものに擬似魔石を埋め込む事が出来る』という代物よ」
そして、 生成させた6本の剣はゆっくりと宙を舞っていた…。
「私とこの剣は魔力で結ばれているのよ、 だからこうやって自在に操る事が出来るという訳」
そういって指を振るうティンゼルに合わせて、 宙を舞っていた剣がまるで指示を得た兵のように動いていた。
「ふふ…貴女にこの数の攻撃が捌ききれるかしら?」
指を振るうと、 4本の剣がグリシャ目掛けて飛行してゆく。 残りの2本はティンゼルを守るかのように周囲に浮いていた。
左右から2本ずつの剣が遅いかかるが、 そんな中でもグリシャの顔色は少しも変わることはなかった。
「たった4本でどうにかなると思っているのかい?」
グリシャは構えを解くと、 左右から攻撃を仕掛けてきた剣を指の間で全て受け止めた。
「…はぁ!?」
グリシャの行った神業とも言える所業に、 驚きの声を隠すことも出来なかった。
「あたしらはね、 グロリア王国を守る為に幾度となく戦争に参加させられてたんだよ? 戦いっていうのは、 決して1体1で収まるものじゃない。 相手の国の手練に一斉に襲われるなんて日常茶飯事だったさ」
バケモノ。
ティンゼルは今自分が対面している相手のことを素直にそう思った。
「…っち、 戻りなさい!」
グリシャの指で無惨にも掴まれてしまった剣を引き戻そうと指を招くが、 多少揺れる程度でティンゼルの元へ戻ってくるまでは至っていない。
「剣技のけの字も知らない相手から攻撃を与えられる程落ちぶれちゃいないよ」
グリシャが少し指をズラすと、 指で挟まれていた剣は物の見事に砕け散った。
「剣の壊し方なんて嫌という程身体に染み付いちゃってる。 心を込めて打たれた剣を折るのは心が傷んだもんさね」
戦闘中にもかかわらず、 昔を事を思い出したグリシャは深くため息をつく。
最初から一貫して真剣な戦闘を行おうとしないグリシャに徐々に怒りを露わにしていくティンゼルは、 飛翔するだけなら捉えられてしまう剣に、 更なる生成を行う事に決めた。
飛翔している剣を手に取り、 その形状を少しだけ変化を加えた。
「ほぉ…考えたものだね。 斬ることをやめた剣になんの意味があるか分からないけどね」
ティンゼルが変形させた点は、 剣の真髄とも言える刃の部分だった。 そこには無数の小さな突起があり、 グリシャが指摘したように『斬る』という点においては些か切れ味は悪そうだ。 形状はともかく、 性能だけを見るならば鋸に近い。
「普通の兵士が振る剣なら、 使えないでしょうけれど…これで、 先程のようにはいかなくなったわ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、 浮遊する2振りの剣は回転を始めた。 その回転は徐々に高速していき、 次第にその回転力の影響で辺りに風が巻き起こり始めた。
「発送はいいわね、 だけど…大事なのはそれをどうやって当てるかだね──おや?」
「気付くのが遅れてしまったようね」
グリシャが異変を感じたのは────足場だった。
先程まではしっかりとした地面があった足元だったが、 今や絡みついてくるような沼に近い状態に変化していた。
「それは私の魔道具の効果…『物質変化』ありとあらゆる物質の状態を変化させることが出来る代物よ。 言ったはずよ、 この剣と私は魔力で繋がっている…と」
ティンゼルは、 魔力の繋がりを回廊とし、 遠隔的に魔道具を生成させることに成功し、 砕かれた剣の破片を媒体としたのだろう。
「これで終わりよ…っ!」
高速回転することで、 最早ドリルのような状態になっている剣をグリシャへと飛翔させる。 足場を崩す事で、 先程まで使用していた構えは使えない状態であり、 先程のように指で挟むことは出来ない。
────そうティンゼルは思っていた。
しかし、 足場の悪い中グリシャは拳のみを構えた。 そして、 あろう事か飛翔してきた剣の先端に拳を打ち放つ。 剣戟にも近い音が鳴り響いた後…グリシャは高速回転する剣を両方とも打ち砕いていたのだった。
「………なっ!?」
グリシャの愚行にも近しい行動に、 一瞬驚きの声すら忘れていたティンゼルは、 今起きた現状を理解することは出来なかった。 そんなティンゼルに、 無傷のグリシャは声を飛ばす。
「忘れたのかい? あたしゃは『拳聖』だよ」
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ティンゼルは昔の記憶を思い出していた。
家族団欒で夕食を囲み、 賑やかな雰囲気を噛み締めながら皆で笑い合う。
そんな雰囲気を一瞬で土台からひっくり返す様な事が起こってしまった。
急に家のドアを激しく叩く音が聞こえ、 丁度席を外してしまっていた父に変わり、 母が戸を開けると…そこに立っていたのは酒瓶を手に抱えた泥酔状態の兵士だった。
当時は恐怖から兵士が何を言っていたのか理解出来なかったが、 今となっては理解出来ていた。
国民を守るために命をかけている自分達に慰めの1つでもないのかと、 腰にかけた剣の刃をギラつかせて母を脅した。
勿論母は断ったが、 そんな母に泥酔した兵士は聞く耳を持たず、 抱きついていた。 抵抗する母に平手を打ち、 悲惨な状態に喚く事しか出来なかったティンゼル。 だが、 泣き叫ぶティンゼルの声に席を外していた父が駆けつけるも、 家の中で武器を持ち歩いている訳もなく…素手で止めに入った父の両腕を切断した兵士は、 痛みに叫ぶ父の頭目掛けてそのまま剣を振り下ろした…。 興が冷めたと言わんばかりに舌打ちをし、 鮮血が滴り落ちる剣を母に向け、 許しを乞う母の首を跳ね飛ばしていた。
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ぼんやりとではあるものの、 意識が戻ってきたティンゼルが目を開けると、 頭上の上にはグリシャが立っていた。
「…何をしたの?」
自分が生成した剣をいとも容易く砕いた所までは覚えている。 しかし、 その後からの記憶が無いことから、 その直後に何かしらの攻撃を受けたことになる。
「剣を砕く時、 一緒に衝撃に魔力を込めてあんたまで飛ばしただけさね。 まさか気絶しちまうなんて思ってなかったけど」
「私は弱いのよ…どれくらい気絶してたのかしら」
未だ近くでは戦闘音が響いている事を考えると、 そこまで長い時間気絶してしまっていた訳ではなさそうだ。
「30秒程度だよ、 それよりあんた…何か見たのかい?」
ティンゼルはグリシャの質問に少し身体がビクリとした。 記憶を思い出していた事を、 なぜ知っているのかと考えたが、 それはすぐに自分でも理解出来た。
「泣くほどってことは、 さっき言ってた家族の事かい?」
地面に向けて目からこぼれ落ちていた涙を拭うと、 ティンゼルはグリシャに記憶の話をする。
「──────成程ねぇ、 そいつは辛かったね…」
何故、 自分は敵対しているはずのグリシャに過去の話をしたのかは分からなかった。 見逃して貰えるとでも思ったのか…それとも、 他になにかあるのか。
「話せて少しスッキリしたわ…私の負けだから、 煮るなり焼くなり好きにしなさい」
ここまで完膚なきまでに負けてしまえば、 いっそ清々しいまである、 と思っていると、 勝ったはずのグリシャが何故か浮かない顔をしていた。
「…なによ、 見逃してくれるのかしら?」
少し笑いながら冗談を言ってみると…グリシャは何かを決意したかのような表情でティンゼルを見据えると…驚きの言葉を口にした。
「…その記憶、 間違ってるんじゃないかい?」




