第45話
グリシャ VS ティンゼル
「おや? どうやらばあさんの相手はお嬢さんなのかな? 」
各チームに配置された中、 個人戦となったグリシャの前に立ちはだかったのは、 1人の女性だった。
正に冷静沈着といった見た目をしており、 翡翠色の髪を三つ編みを2本に纏めており、 眼鏡の位置を正すようにクイッと指で持ち上げる。
「…貴女、 『拳聖』だったのね」
視認した相手の職業を把握する魔道具で見抜いたグリシャの職業に、 少しだけ驚いたような顔をした。
「あらやだ、 そんなことも分かっちゃうのねぇ…今の魔導具は」
自分の職業を看破された事など取るに足らぬと言わんばかりに余裕な表情で会話を進めるグリシャは、 ティンゼルの職業を把握するべく会話を進める。
「それで…私達の可愛い孫に何か用事でもあるのかい? 拉致までしてるんだ…相当な事が無ければしないだろう?」
にこやかに微笑むグリシャの表情の中からは、 怒りの般若のようなオーラを発しているかのような表情で語りかけている。 しかし、 無意識にそんな圧をかけまくっているグリシャを前にしても、 ティンゼルは一切表情を変えてはいなかった。
「教える訳がないでしょう。 全ては団長の為…ただそれだけです」
ティンゼルが『顎』の紋様の入ったローブを羽ばたかせると、 ローブの中には無数の魔道具が陳列されていた。
「私は魔道具製作を生業とする職業…『生成術師』。 生成に必要な素材があらかたあれば大抵のものは瞬時に作れるわ…こんな風に…ね!」
徐に取り出していた試験管から何かを掌に出し、 何かの入った手でそのまま地面の土を掴む。 そして、 まるで泥遊びでも行っているかのようにその土をグリシャへ投げ飛ばす。
だが、 グリシャはその土をまるで攻撃かのように避けた。 するとその土が地面に触れた瞬間、 小規模な爆発が発生した。
「流石…ね。 大抵はあのまま受けるか、 キャッチしたりするのだけれど、 そこまで簡単じゃないみたいね」
軽く避けた程度ならば、 後の爆発に巻き込まれていただろう。 しかし、 その爆発の圏内からも離れていたグリシャは──哀れみの表情をしていた。
「そんなに立派な職業を持っておいて…なんでこんなことしてるんだい…」
単純に、 グリシャはただ疑問を零したつもりだった。
ティンゼルに言った訳ではなく…しかしティンゼルはしっかりとそれを聞いていた。
「……貴女に…貴女に何が分かるのよ!!」
グリシャの零した一言に、 怒りと悲しみの入り交じったような表情で叫びを上げる。
「家族を全員酒に酔った騎士に殺され…挙句の果てには無罪。 復讐の機会すら与えられずに…その騎士は戦死したわ。 こんな職業、 何の役にも立たなかった。 でも、 団長は違う。 何も出来ない私に期待してくれて…何も出来ない私を必要としてくれている。 なら、 それに応たい!!」
ティンゼルは再び土を掴み取った。 しかし、 その動きは先程までとは全く異なり、 その掌に何を持っていたのかが全くわからなかった。
ならば、 正面から打ち破る他ない。
「…何も知らないばあさんが失礼な事言ったね。 ならせめて、 全力で来な」
そう告げると、 グリシャは自分を中心に足で円を描く。
「あたしのオリジナルスキル『天拳陣』さ…さて、 拳聖グリシャ・デウス…久々に全力で相手してあげるよ」
ティンゼルから見ても、 特に変わった構えという訳でもなく、 だからといって魔力が増幅している訳でもない…。 どこがオリジナルスキルなのか、 どの要素がオリジナルスキルを発動しているのかが分からない。
「……ハッタリね」
何もしないと分かるや否や、 身動き1つ取ろうとしないグリシャに向かって先程生成した物を投げつける。 すると、 それはグリシャが描いた円付近に到達した瞬間、 ティンゼルの意志とは関係なく爆ぜた。 響く爆音からしても、 やはり先に生成したものよりも遥かに威力の大きいようで、 周辺を砂埃で蔓延させていた。
「直撃を避けて先に爆発させたみたいだけれど、 そんな事は容易に想像出来るわ。 だから、 爆破の大きな物を作らせて貰ったわ。 その様子だと、 無事じゃなさそう…だ…けど…」
ティンゼルが台詞を言い終わる頃には、 爆破の影響による砂埃も落ち着いてきていた。 そして、 その中でグリシャは全く同じ構えで何一つ変わってはいなかった。
勿論、 傷のひとつも与えられていなかった。
「……貴女、 何をしたの?」
いつもは落ち着いていて、 団員を冷静にさせる側のティンゼルだったが、 目の前で起きている事に対しては苛立ちを覚えていた。 何せ、 自分が導き出した計算を真正面から受けきり、 あまつさえ微動だすらさせることが出来なかったのだから無理もない。
「答えをすぐ知りたいのかい? はぁ、 全く…近頃の若いものは」
自分の攻撃が全く意味をなさなかった事に関してと、 そのうえため息する吐くグリシャに、 ギリリと歯噛みする。 そこに追い討ちをかけるが如く煽るようにグリシャは手招きをする。
「言われなくても自分で探るわ。 次は…そんな暇ないかもしれないけれどね」
そういうと、 ローブの中に備蓄されている複数の魔道具の中から漆黒のレザーグローブをとり、 着用する。 赤黒い魔石が手の甲の中心部分に埋め込まれており、 着用したレザーグローブすら魔道具だということを物語っていた。
レザーグローブの魔石に気付いた時、 そういったものすら魔道具だということを意識した途端に、 靴、眼鏡、 髪留め、 ベルト…様々な所に魔石らしき物が使用されている事に気付き始める。
「退屈させないように頑張るわね…クソババア」




