第43話
エレオノール・キンリュウ VS ガブラス
「…さて、私達の相手はこの男…ですか」
エレオノール・ハイライトは、 見事に手入れされた陽に輝く金髪をさらりと靡かせながら呟く。
『鮮血の薔薇』騎士団の団長で、 団員には女性が多いという珍しい団だ。 大抵が団長のエレオノール目当てで入団する人が殆どだが、 聖騎士団に入団する為の実力は各々しっかりと持ち合わせている。
かく言うエレオノール・ハイライトの職業は『三銃士』で、中でも刺突を得意とする武器レイピアを操る。 三銃士という名の通り、 マスケット銃と呼ばれる銃身の長い銃を顕現させることも可能なのだが、 騎士団としてのポリシーが本人にはあるらしく、 今までエレオノールがマスケット銃を顕現させて戦闘を行った所を見たものはいない。 基本的な戦闘はレイピアを用いた接近戦だ。
「がはははっ! 中々体躯のいい相手だなっ!」
エレオノールの横で丸太のような太い腕を組んでいる男、 キンリュウ・ダルアは対戦相手であるガブラスの鍛え抜かれた体躯を見るや高笑いをする。
『烈火の拳』の騎士団長を務めるキンリュウの職業は『拳闘士』で、 己のルールとして武器を用いないという枷を付けている…と、 思われているが、 実際は違う。 斧や大剣なんかを使おうと試みた事があった訳ではないのだが、 その生まれ持った体格と訓練のせいか、 武器を振る際の握力で柄を破壊してしまっていたのだ。 その握力に耐えきれる武器を未だ見つけられておらず、 以来拳のみを鍛え抜いていたのだ。 その自分に厳しいとされる訓練と実力により、 今や拳聖に1番近いと噂される男である。
「…さて、 貴様と共闘というのは釈じゃが」
「私もですよ…でも、 そうも言ってられない…という事ですよね」
聖騎士団長2人を相手に1歩も引かず、 挙句の果てにはその覇気にこちらが押されてしまいそうな程の威圧。
間違いなく強い。
「2人とも、 それなりの強者と見受けた。 俺は団員No.4…ガブラスだ」
聖騎士団長2人を前にそれなりと言ってのけるガブラスは、 騎士としての情けからか自己紹介をした。
「そちらの情報はあらかた掴んでいてな、 それではフェアじゃない。 俺の職業は『闘神』」
グロリア王国では誰一人として生まれてこなかったとされる『闘神』とは、 剣術、 武術の頂点とされる職業だ。 グロリア王国で現れていない事もあり、 謎多き職業として語られている。
自らの職業を明かした後、 ガブラスはゆっくりと右手を翳す。 動き始めた相手に警戒し戦闘態勢を取るエレオノールとキンリュウ。
「『顕現せよ、 喰羅怒』────」
ガブラスが武器を顕現させる瞬間、 タイミングを合わせていたかのように2人同時に駆け出していた。 特に示し合わせていた訳ではない。 直感的に、 2人ともがここだと思った瞬間に駆け出していただけだ。
「この一撃、 耐えてみよ!! 『魂闘・初撃』!!」
瞬速で繰り出されたキンリュウの拳はガブラスの心臓部目掛けて放たれた。 その拳が到達した瞬間の威力は最早大砲といっても不思議ではなく、 その証拠に放たれた拳から発生した衝撃波は辺り一面の岩を砕いた。 しかし瞬時に離脱し、 間髪入れずにエレオノールのレイピアの切っ先が再び心臓部を穿かんと刀身を輝かせる。
「いきます…『迅速刺突・踊』!」
『刺突』は本来槍を扱う職業が会得することの出来るスキルなのだが、 レイピアという特殊な武器を用いたエレオノールは、 日々の鍛錬、 観察から例外的に会得することが出来たスキルだ。 まだまだ謎が多い『職業』と『スキル』の関係は、 本人の堅い意思や努力によって新たなスキルを生み出す事が出来る。
そのひとつが『オリジナルスキル』なのだ。
レイピアが目掛けた心臓部からは、 鈍く『ギンッ』という音がなった。
まるで鉄で弾かれたような…そんな音だ。
「どうやら、 こちらが顕現させる方が早かったようだな。 打撃には間に合わなかったが、 問題ない」
衝撃波によって発生した砂煙から姿を見せたガブラスの手には、 ドス黒い刀身に赫い筋のようなものが張り巡らされており、 まるで生き物のようにその筋はドクドクと脈打っていた。
「な…なんじゃ、 あれは」
「見た事のない武器ですが…気味が悪いですね」
その見た目のおぞましさから、 自然と背筋が凍らされるような感覚になってしまう。
「この魔剣の名は、 『喰羅怒』という」
魔剣は、 武器の中でも随一を誇る強力な武器であり、 素人の兵士が魔剣を使えば聖騎士団長にも勝る程と言われている。 しかし、 それゆえに魔剣を使うには『触媒』と呼ばれる物が必要となる。 グロリア王国では今現在、4本の魔剣を国宝倉庫で保管しており、 先日取り返すことが出来た『血剣レーヴァテイン』も、 グロリア王国が保有する魔剣のうちのひとつだ。
『血剣レーヴァテイン』が触媒として必要なのは、 血液で、 その触媒にした血液の量に応じて強力になってゆく。
ガブラスの持つ魔剣の触媒を知ることが出来れば、 なにか突破口が開ける可能性があるのだが。
「知りたいか? 俺の魔剣の触媒が」
「そうですね…とでも言えば教えて頂けるのですか?」
冷や汗が頬を伝ってゆくのを感じながらも、 皮肉な返答をするエレオノールに対し、 ガブラスは答えた。
「『怒り』だ」




