第41話
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モノ・アラン・キアラ VS クレア
盗賊団『顎』。
団員No.2を背負っている彼女、 クレアは気だるそうな眼を擦りながら大きな欠伸をしていた。
「3対1だというのに…随分と余裕があるように見えます」
キアラは、 見た目は自分よりも幼い容姿から溢れ出る強者を感じ取っていた。
余裕であり怠惰ではなく。
余裕であり傲慢ではなく。
圧倒的な、強者の余裕。
「連携をとりつつ、 お互いをカバー…そして、 隙を作るしかないだろうね」
今こうして眠い目を擦っている瞬間にすら隙を感じない。
誰が先制を仕掛けるか、 どのタイミングで仕掛けるかを探っている中、 口を開いたのは意外にもクレアだった。
「…殺すの、 めんどう。 逃げるなら、 いま……だよ?」
学生になりたてのアラン達からすれば、 本来起こりえないこの状況に、 裸足で逃げ出してもおかしい事ではないし、 それを咎める人などいないだろう。
しかし、 それではここに来た意味がない。
何のためにここに来たのか。
誰のためにここに来たのか。
「申し訳ないが、 仲間を返して貰えなければこちらも引き下がれないのでね…その提案は断らせてもらう──『顕現せよ、 聖剣エクスカリバー』」
こちらの職業は筒抜けだろうと教えられており、 そのせいで聖剣を顕現させる隙を探っていたが、 どうやら隙を与えず戦闘するような相手ではないと判断し、 ありがたく顕現させる。
「モノ君、 作戦はあるかい?」
「…ガイル先生が、 言うには…この子は…『死霊使い《ネクロマンサー》』…」
『死霊使い《ネクロマンサー》』
どの職業にも存在する『禁忌』を侵した場合に変異した職業で、『堕職』と呼ばれる職業のひとつだ。
しかし、 通常『禁忌』を侵し、 堕職となったものは理性を失ってしまうものであり、 破壊と殺戮に身を焦がすと言われている。 こうして人との対話が可能なものでは無いはずなのだ。
「合ってる…クレアは死霊使い、 って呼ばれてる」
そう言うと、 クレアの足元からは禍々しい瘴気を放つ魔法陣が展開され始める。
死霊使いとはいえ、 死体を持ち歩いたりする訳ではなく、 死霊を召喚魔法陣から召喚させるもののようで、 それらを操作することが可能だという。
召喚魔法陣からゆらりと現れたのは、 全身を黒い鎧で覆われた体躯のいい騎士だった。
「なぜあなたは、 正気を保っていられるの!?」
クレアの会話出来る事と言い、 自由に召喚している事と言い…逃げるという選択肢を提示してくる事といい、 本来の堕職の状況とは全く異なるものだ。
「クレアは…奴隷だった」
この国では認められていない奴隷制度。
他国では未だに取り入れられている所もあり、 その目的は様々ある。
慰み者、 身の回りの掃除、 暴力…。
クレアの来ている漆黒のワンピースの裾から見える白い足や、 腕や首…至る所に打撲で負ったような傷が見える。 大事に抱えている人形は使い潰したかのように萎れており、 一時も離していないのだろうと伺えた。
「クレアの全ては…団長にあげる。 だから、 邪魔しないでっ!」
クレアの叫びを合図に、 召喚された死体騎士は鎧が擦れる音を立てながらこちらに歩んでくる。
「くるぞ! 体勢を整えるんだ!」
「…『アイシクル』」
モノがスキルを唱えると、 死体騎士の足元から氷が発生し、 動きはピタリと止まった。
だが、 死体騎士は背中に携えた大剣を抜き、 躊躇なく自分の足ごと氷を砕き始めた。
「…っな!? そうか…死体だから、 痛覚なんて存在していないのか」
生きている人間にできる芸当ではないと固唾を飲むアランだったが、 氷を砕くことに注意がいっている隙に死体騎士目掛けて駆け出す。
「はぁっ!」
既に戦死している者に対して再び剣を振るうことに躊躇いつつも、 聖剣エクスカリバーを振り下ろすも、 死体騎士の頭上で剣戟を鳴らして跳ね返されてしまった。
「クレアの死体は…たった1体だけじゃない」
躯体のいい死体騎士に気を取られていたのはこちら側だったようで、 その背後からもう1体の死体騎士が現れた。 こちらは目の前の死体騎士よりも小柄な騎士で、 それに合わせたかのように少し細めの剣を二本持ち合わせていた。
どうやら先程の一撃を塞いだのは、 後方から現れたもう1体のこの死体騎士で間違いないだろう。
「アラン君、 離れてください! 牽制します!」
後方からのキアラの声に合わせてステップすると、 キアラが魔力を拳に集めていた。
「いきます…『拳波』!!」
拳の先に込めた魔力を衝撃波として放つ、 体術を使う職業の数少ない遠距離用スキルで、 攻撃としてはそこまでの威力は無いものの、 相手をノックバックさせることの出来る優秀なスキルだ。
勿論、 拳波を防ぐ暇なく受けた大剣の死体騎士は後方へと吹っ飛んでゆく。 体勢を崩しているうちにと、 再び剣を握る手に力を込め駆け出すアランだが、 アランの攻撃を阻止しようと前方へ現れる双剣の死体騎士だったが、 その足元は既に泥沼状態へと変化していた。
「…そうくると、 思ってた…」
双剣の死体騎士の行動を先読みし、 現れるであろうアランの直線上に泥沼を発生させていたのはモノの研究した盗賊スキル『地形変化:泥沼』だ。絡みつく泥沼に足を取られ、 思っているように足を運べない双剣の死体騎士の剣を受け止め、 弾き返そうとするその威力を利用しさらに後方へと跳ぶ事に成功する。
「安らかに眠ってくれ…はぁっ!」
跳躍したまま大剣の死体騎士の胸元目掛けて聖剣エクスカリバーを突き刺す。
聖剣エクスカリバーは特殊武器スキル『聖』を持っており、 アンデット系の魔獣等に効果を発揮する。 それは死霊使いの召喚した死体も例外ではなかったようで、 聖剣エクスカリバーからの攻撃を受けた大剣の死体騎士は、 黒い黒点となり霧散していった。
「こちらは片付いたよ」
排除達成の言葉を投げかけるアランが振り向くと、 ちょうどもう1体の死体騎士をキアラとモノが片付け終わった所だった。
「…こっちも…」
「終わりました!」
作戦会議の時、 平手打ちが起きた時はどうなる事かと冷や冷やしていたアランだったが、 2人とも無傷の状態である所を鑑みるに、 心配するのは野暮だったと悟った。
「あぁ…クレアの…か、 家族…」
死体騎士を召喚したクレア本人は、 消滅させられた現実に瞳を潤わせながら肩を震わせていた。
「どうしたんだ…彼女は…」
召喚獣師という職業があり、 そのもの達もクレアと似たように召喚獣を召喚させて戦闘を行う。 勿論戦闘で消滅した召喚獣は戻らず、 永遠の別れとなるが、 その都度新たな召喚獣を呼び出すことが出来るようになる。
決して…目の前の少女のように取り乱す程のものでは無い。
「……さ、 ない…。 ゆる…さない」
ぞわりと背筋を撫でるような、 嫌な魔力がクレアの周囲に集まり始める。
「…なにか、 マズイ気が…する…」
「2人とも! 一旦離れるんだっ!」
全員一旦距離を取り、 嫌な魔力をさらに纏ってゆくクレアの様子を伺う。
「許さない許さない許さない許さない!! みんなみんなみんなみんな!!! 許さない!!」
今までとは打って変わって怒号にも似た叫びを上げるクレアは、 『堕職』だということを改めて理解させる程の殺気を周囲に放っていた。
「こ、 これ…倒せるんですか…?」
殺気に当てられたキアラは、 自分よりも小柄なモノの後ろに隠れ、 しがみついていた。
「錯乱している今がチャンスかもしれないね…モノ君、 僕に『身体強化』をかけてくれないかい? 」
「…わかった…『身体強化』」
モノが身体強化のスキルを使用すると、 アランを赤いオーラが纏い始める。
「────おっと、 そこまでにしておいてくれるかい? そこから動かないでくれると助かるよ」
突如としてクレアの隣から現れたのは、 白い髪をした少年のような風貌をした…紛れもなく『顎』の団長、 イギルだった。 急な親玉の登場に身体を動かすことが出来ない状態に陥ってしまった3人に笑いかけ、 イギルは暴走状態のクレアの頭に手を翳す。
「落ち着いて、 クレア」
イギルのその一言で、 先程まで暴走状態に陥っていたクレアは、 嫌な魔力を周囲に散らばした。
「ごめんなさい、 むかむかした…から」
「そうだね、 でもダメだよ」
「…むぅ」
クレアの頭を優しく撫でてあげているイギルは、 そのままアラン達へと目線を向ける。 その視線に警戒しつつも問いかける。
「その子は…堕職ではないのか? どうして正気を保っているんだ? 」
アランの問いに、 包み隠すことなくあっけらかんと答えた。




