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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第40話

さて、 やろうか…。

とは言ったものの、 ナイブスは未だに悩んでいた。 敵国の兵士にも今まで女性はいたが、 『侵略』という明確な目的をもち、 襲撃している以上グロリア王国に務める聖騎士として戦う事については仕方の無い事だと思っている。

ただ、 目の前で再び両腕を鎌に変形させている女性は、 自分を殺そうとしたとはいえ、 目的が分からないとなれば、 話せば何とかなるのかもしれない…。

そう思ってしまう。

現にナイブスの語りかけにより、 幾つもの盗賊団を解散させ、 今ではグロリアの聖騎士団に加入している人もいる。

悩んでいる…とは言ったものの、 この少女には自分の声は届かないということは相手の目を見たら分かる。 目的自体は分からないものの、 確固として決めている何かがこの少女にはある。

「ごめんね、 2人共…」

ナイブスが謝罪した2()()というのは、 自らが持つ二振りの刀にであった。

「その癖、やめな」

「どうしても、 斬りたくないものを斬らせてしまうのは申し訳ないんだよね。 でも、 今回はそういう訳にいかないから…いくよ!」

柄を握る手に自然と力がこもり、 ぎゅっと音がする。

ナイブスの掛け声に反応するように、 ナナは背中に一対いっついの羽根を生やし、 回避特化のフォルムへと変形させる。 変形させるのに要する時間はせいぜい2秒程だが、 ナイブスが間合いを詰めるには十分すぎる時間だった。

「はぁっ! 『一閃』!」

聖騎士スキル『一閃』によって繰り出される一撃を見事に上空への飛翔で回避したナナだったが、 次なる攻撃への反応は出来ていなかった。

「…そう来ると思ってた。 『黒雷』」

羽根を生やした変形から、 上空への回避をする事は容易に予測出来る。 イチイは相手の回避場所を予測建て、 予め発動準備をしていた『黒雷』をナナへと直撃させた。

「あがががががっ!!?」

黒雷に打たれ、 全身を痙攣させながら落下するが、 全身火傷になったその身はすぐに回復した。

「超速再生…? あの子、 一体何者?」

自身の黒雷をなかったことにされたような状況に歯噛みしつつも、 敵の能力を調査する。

異常な回復を施す『超速再生』は、 そう簡単に発現するスキルではなく、極限られたスキルで極限られた条件下のみで発現すると言われている。 しかも、 身体の一部分のみではなく全身の至る所で複数の変形を可能とする職業ジョブなど聞いたことがない…。

「まだどんな変形が可能なのか分からない…迂闊な攻撃は避けるべき」

「そうだね、 慎重に…畳み掛けるよ!」

超速再生を終え、 立ち上がり始めたナナに対して再び距離を詰める。

「これはどうかな? 『形状変化・多』!」

ナイブスが振り下ろす刃を咄嗟に左腕で受け止めるナナだったが、 無惨にもその腕は地面へと転がった。 その時ナイブスが持っていた『高波』は、 鍔から伸びる刀身を4つ見せており、 先程までとは全く性能の違う刃を輝かせていた。

「へぇ、 君の変形はそんなことも出来るんだね」

「流石ですねぇ…真逆まさか硬質化こうしつか』の上から斬られちゃうなんて思ってなかったですよ…」

「成程、 彼女の変形の原理はだいたい分かった」

イチイの考えでは、 形状そのものを変形させるには少しだけ時間を要するが、 形状の変化ではなく性質自体の変異には時間は要らない。 恐らく一瞬なのだろう。

ただ、 そのレパートリーまでには至っていない。 で、 あれば戦闘の際に気を付けなければいけない事には変わりない。

「いくら治るといっても、 痛いんですよぉ」

超速再生で斬り落とされた腕をすぐに再生させるナナは、 ナイブスに向かって嫌味を飛ばす。

「だったら、 すぐにでも降参してくれると嬉しいんだけど…?」

「嫌ですよっ!」

「ナイブス、 早くして」

やたらと戦闘中に会話を挟むナイブスに、 怒りに近い声色で催促するが、 そのせいで足元からの不意打ちに気が付かなかった。

「…っ!?」

「イチイ!」

イチイの足元から突如姿を表したのは、 黒く鈍色に照らつかせた鱗の大蛇だった。 その大蛇はイチイの身体の周りでとぐろを巻き、 イチイを締め上げた。

「全く、 奇襲なんて盗賊の基本ですよ〜」

やれやれとばかりに首を振るナナは、 ナイブスに向かってにこやかに笑いかける。

「動けばあの女の人は…あのまま絞め殺しますよ♪」

「…くっ、 真逆…()()()()()()()すら変形させる事が出来るなんてね…」

「あら、 気づいちゃいました? カメレオンの『変身士ヴァリアント』の私は、 捕食した ありとあらゆる生物に変形する事ができるんですよ。 それが、 たとえ切り離された身体だったとしてもです」

変形するだけではなく、 その変形させた先に応じて自由に操作させる事が可能…鳥を捕食したならば翼を操る事が出来、 蛇を捕食したならばこの性能を有する。

もし…それが、 ()()ならばどうなる?

「…これは、 ちょっと本気を出さないとダメかも知れないね」

ここで倒しておかねばならないと、 ナイブスは直感していた。 今はまだ少年1人が目的でこのような戦いをしなければならない状態になっているが、 いずれ強大な力を持てば…一国を制圧することなど容易くなってしまう。

「あまり本気を出すのは好きじゃないんだけどね」

ナイブスの一言にナナはゲラゲラと嘲笑する。

「今の状況分かってます? あなたが動けばそこの女性は死にますよ? それでもいいって言うなら────」


「────『神器解放じんぎかいほう:神閃しんせん』」


「…は?」

刹那、 ナナの変形した部位…両腕両脚全てが斬り落とされており、 支える腕もなく地面に顔面から激突する。 すぐに超速再生を発動させ、 切り落とされた部位を再生させようとするも、 その思いが叶うことはなかった。

「さ…再生しないんですけど…っ!? で、 でも…これであなたのお仲間はこれで終わりです」

「その処理も終わってるよ」

顕現させていた『高波』を解除し、 『漣』を腰の鞘に戻しながら呟く。 鞘に鍔が当たる『カチン』という音の後に、 イチイを囲っていた大蛇が瞬く間に輪切りになってゆく。

「…初めから、 本気出して」

解放されたイチイは首をコキリと鳴らしながらナイブスの隣まで歩んでいく。

「お前の傷は『石化』させたから出血はしない。 まぁ、 重ねて『再生』もしないのだけど」

イチイは、 自分が隔離されると分かった瞬間、 脱出ではなくナイブスの刃への『石化付与』を施していた。

「その石化は徐々に全身へと広がっていく。 運が悪かったな、 お前の相手がこいつで」


「…あ……ぁ」

やがて、 ナナは全身を石に変えてしまい、 呻き声すら出せない状態になった。


『黒百合の雫』イチイ

『白銀の翼』ナイブスVS ナナ

────────────勝者、イチイ、ナイブス

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