第38話
「…どういう事だ?」
大魔道士や魔法使いといった魔法系統を扱う職業にも『治癒』は使えるが、 それは回復術師のそれには劣っており、 回復術師が使用する回復系スキルに勝るものはないと言われている。 どんな傷も癒し、 病や呪いなんかも癒すことが可能なのだ。
だが、 現状起こっている事は…切断された腕の治癒が出来ないということ。
「何が…起きているんだ…」
『治癒』よりも強力な回復スキル『再生』を使用してみるも、 結果は同じであった。
「──ほら、 警戒が乱れた」
そのアハトの呟きは耳元で囁かれ、 反射的に残っているもう片方の腕を振る──おうとしたが、 それは叶わなかった。 すぐ後ろに佇むもう1人のアハトの腕には、 大事そうに残りの腕も抱えられていたのだ。 先程同様痛みもなく、 血の1滴すら出ていない。 見事なまでの断面図だけが見えている。
「これが僕の職業、 『奇術師』だよ。 だからこんな事も出来ちゃうんだよね」
そう言って、 指をパチンと鳴らした途端、 ガイアの足元から火柱が襲う。 スキル発動の隙すらなく受けた攻撃に、 防御する暇もなく、 そして防御出来る腕もなくダメージを負ってしまったガイアは、 白目を向いて地面に突っ伏した。
「ガイアさん! くっそ…」
未だに見えないナイフに対応しきれておらず、 ひたすら自分の周囲に氷結の壁を張って凌ぐことしか出来ていないイオは、 壁の隙間から見えるガイアの状況に歯噛みする。
「あらら〜、 逃げられないと判断した瞬間、 全魔力を防御に使ったみたいだっけど…残念だったね。 さっきの火柱はスキルじゃないから、 魔力障壁じゃ防ぎきれない……って言っても、 意識はないみたいだね」
倒れているガイアの身体を足でつんつんとやり意識の確認をとるが、 発言通り意識はなく、 足蹴にされている事に対して抵抗することも怒ることすらも出来ない。
「…おっとと、 そう言えばもう1人いたね」
辺りをきょろきょろと見回すが、 呪術師スキルで存在を隠蔽しているのであろうアベルは視界の中には居ないようだ。
「う〜ん、 ちょっと面倒だなぁ。 とりあえず先にあの魔剣士を殺っちゃおうかな」
アベルを見つける事は諦め、 先にイオの始末の為に歩み出す。
──が。
「おや?」
アハトの歩みは急に制止した。
身体が言うことを聞かず、 足を前に出すことが出来ない。
「…ふむ、 どうやらちゃんと近くには居るみたいだね。 しかし…この状況じゃ魔剣士の始末は行けないなぁ」
どうやら分身体だけでは、 傷は与えられているが決定打には至らないらしく、 始末にはまだまだ時間がかかるようだ。
「呪術師のスキルで相手を拘束出来るスキル…となれば…」
スキル自体は判明したとはいえ、 そのスキルを解くには必要なものがある。 しかしその必要なものを使おうにも身体が動かない…。
チラリと洞窟の方を見ると、 各々の戦闘を様子見ているイギルと目線を合わす。
「…なんだい、 アハト。 動けなくなっているのい」
アハトの目線から状況を把握しきったイギルは、 アハトに向けて手を向けて『支配者』スキルを使用する。
「『好きに動け』」
『支配者』のスキルを受け、 言葉通り好きなように動けるはずだが、 アハトは全くその場からピクリとも動かない。
「ダメだね。 どうやら僕の支配より強いみたいだよ」
動くことの出来ないアハトに向け、 首を振ってみせるイギル。
その瞬間を、 ずっと様子を伺っていたアベルは見逃さなかった。
「…『細胞破壊』」
文字通り、 近くの岩影から現れたアベルは、 思うように動けなくなっているアハトに向けて呪術師の中でも、 相手を抹殺することに最も長けたスキル、 『細胞破壊』を使用した。
『細胞破壊』は、 対象へ直接触れることが発動の条件になるが、 触れることが出来た場合、 相手に触れた箇所の細胞を壊死させることが可能となるスキルだ。
動くことの出来ない状況で、 岩影から突如として鉄針牢獄現れたアベルの手を────
────アハトは躱した。
「…っ!?」
「まんまと釣られるんだからさ。 演技に決まってるじゃん──『鉄針牢獄』」
途端、 アベルを囲うように、 内部に針が無数に突出している鉄製の檻が現れた。
「…な、 なんだ…これは」
「捕まったら最後…避けられない死が君を襲うスキル『鉄針牢獄』さ」
檻は徐々に縮まり始め、 やがてその針はアベルの肉へと突き刺さり始めた。
「…っぐ!?」
それでもなお、 止まらず縮まり続ける檻はアベルの全身を突き刺し、 大量の出血を促す。
「ぐぁぁあぁあっ!?」
「なんだぁ〜、 君ってちゃんと大きな声出るんだね」
悲痛に叫ぶアベルの声に拍手を送るアハトは、 完全に檻が縮まるのを見届けた後、 優しい眼差しをイオに向ける。
「お待たせしました、 君で最後の舞台としようか」
「……けるな」
「なんだって?」
「…ふざけるなって言ってんだよォ!!!!」
怒りの感情を咆哮に乗せ、 握る氷結の魔剣を輝かせる。 この場で新たに獲得した新スキル、 『氷気結界』で、 自分の周りを冷気が覆うように発生している。 そのお陰か、 先程まで見えていなかったナイフが冷気に触れることで姿を見せ、 投擲されたナイフを魔剣で弾き返す。 類まれなる戦闘戦闘センスにより、 その弾いたナイフでアハトの分身体へ攻撃し 1人を消滅させた。
「すごいね! 土壇場でのスキル獲得なんて、 そうあるものじゃない。 恐らく、 仲間の死が君を成長させたのだろうね…僕に感謝の言葉は無いのかい?」
その言葉にイオは唇を咬み、 冷静さを欠かぬよう耐える。 唇から血が垂れ、 それが冷気によって凍りつく中、 アハトだけをじっと睨みつける。
「お前はもう喋るな…俺が苦痛を与えて始末してやる」
「あっはは〜、 楽しみだなぁ」




