第37話
『氷結の雨』イオ
『轟雷の牙』ガイア
『侵食の影』アベル VS アハト
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「…どう考えたって僕の相手多くないですか?」
アハトは、 自分の前で戦闘態勢を取っている3人を眺めながらボヤく。
『氷結の雨』イオ。
透き通るような蒼い髪をポニーテールに纏めており、 その実力は折り紙付きで、 最年少で団長に上がった少年だ。
職業は聖騎士団『氷結の雨』の名に恥じぬ氷属性を得意とする『魔剣士』だ。
『轟雷の牙』ガイア。
逆だった金髪に、 拳には爪を模した武器を施している男で、 一見して戦闘職業のように見えるが実の所は『回復術師』である。
『侵食の影』アベル。
手入れされていないであろう紫色の髪を腰あたりまで伸ばしており、 手には赤黒い表紙の分厚い本を持っている。
その本は職業柄必要なものであり、 その職業は『呪術師』だ。
「誰が変わってくれないかなぁ」
「ごちゃごちゃ五月蝿いやつだなぁ、 こっちはとばっちり受けてイライラしてるんだ、 さっさと倒されてろ」
アハトのボヤキを一蹴するイオは、 オルフェウスに怒られた腹いせをアハトに向けていた。 急に収集命令を受け、 指示通りにすると後から来た伝説の聖騎士からお怒りを受ける。 その理不尽に秘めた怒りを持っていた。
「アベルさん、 サポートお願いします。 スキル『魔剣生成』」
イオは、 『呪術師』のアベルにバフスキルの指示をし、 変哲もなかったただの剣を瞬く間に『魔剣』へと変化させる。
『魔剣士』の『魔剣生成』には、 触媒となる剣が必要となり、 その剣を元に魔剣へと変化させるスキルだ。
「……『細胞変化』」
低くしゃがれた声でイオの指示通りバフスキルを使用した。 使用した呪術師スキル『細胞変化』は、 通常のバフスキルとは違い、 その名の通り細胞自体を変化させることによる身体強化を施すものだ。 勿論呪術としての使い道もあり、 特定の条件が必要となるが、 相手の細胞を変化させ、 身体機能を停止させることも出来る。 ようは毒にも薬にもなるスキルだ。
『細胞変化』をイオとガイアに掛け、 身体強化を行うと、 2人の身体から湯気のようなものが湧き出ていた。
「へぇ、 呪術にそんな使い方があるなんて素晴らしいなぁ。 見たところ、 既に身体が温まったといった所なのかな?」
アハトは後方にステップし、 手始めに数本のナイフをイオに向けて投擲する。
「…邪魔だ」
投擲されたナイフに向けて魔剣を一振りすると、 勢いよく放たれたナイフは一瞬にして凍結し、 地面へと転がった。
「その魔剣も素晴らしいなぁ〜、 是非ともそのまま僕のコレクションにしたい所だけど…その為にも殺さなきゃね!スキル『実像分身』」
スキルを発動した途端、 アハトの姿が一瞬にして4人に分身した。 イオ達の優勢点として、 まず第1にあげられるのが人数による優勢だったが、 その利点は最早無くなってしまった。
「実像分身…気を付けておけ、 実体のある分身という事は、 ただの幻術ではない。 あちらの攻撃も当たるという事だ」
スキル名から内容を素早く解読したガイアは、 警戒すべき点を伝える。
「なんにせよ本体を叩かなければ実像は消えないだろう。 2人で2体ずつ片付ければどちらかが本体だ」
「了解しました。 では、 俺は左の2体を」
「なら、 俺が右側だなぁ!」
2人で担当を分担し、 ガイアの声を合図に同時に駆け出す。
「…全く、 弱いものいじめはしないでくれると助かるんだけどなぁ」
イオは、 まず1体の足元を氷結し、 2体1の状況から1体1の状態を作り出すような状況に戻す。相手がどういったスキルを使用出来るか分からない今、 例え動けないとはいえどんな攻撃を仕掛けてくるかわからないので、 常に警戒の包囲網は張っている。 しかし凍結された1体は足元をナイフで攻撃し、 脚の拘束を解こうとする。
が──そう容易くはない。
「俺の魔剣から放たれる氷結は特別だ。 そんなナイフで破壊出来るものじゃねぇ…本体かどうか知らねぇが、 そこでじっとしてろ」
イオは凍結されていないもう1体へと魔剣を1振りする。 そのただの1振りで氷結の斬撃が放たれるが、 その斬撃を紙一重のところで躱す。
『魔剣』は、 スキルで生成することにより、 剣そのものからタイムロス無しでスキルを放つ事が出来るようになる。 それにより、 どのタイミングでスキルを発動させるのかを相手に探らせないという利点がある。
しかし、 そのタイムロスのない斬撃をアハトは躱す。
「お前、 『魔剣士』と一戦やった事あるみたいな動きだな」
「まぁね、 これでも僕は年上だよ? 何度か戦った事はあるけれど…想像以上だよ」
指の間に複数挟んでいるナイフをプラプラと揺らしながらイオの発言に答える。
「僕はこのまま時間稼ぎをしながらダラダラやって、 他の聖騎士を倒した団員に押し付けたいんだけど…ねっ!」
挟んでいたナイフに電撃を纏わせ、 イオに向かって一斉投擲するが、 やはりその攻撃は魔剣から生成された氷結の壁によって阻まれ、 イオには届かなかった。
────かに思えた。
全てのナイフを氷結の壁で遮ったにも関わらず、 肩や腕からは切り裂かれたような傷が出来、 そこからは鮮血が滴っていた。
「…お前、 何をした」
何故自分が傷を負ってしまったのかが理解出来ず、 敵であるアハトに向けて純粋に質問をしてしまう。傷口はすぐに凍らせる事で止血をし、 キッと相手を睨みつける。
「何をと言われてもねぇ〜、 わざわざ敵に教える訳ないじゃない」
武器はまだまだあると言わんばかりに無数のナイフを巧みにジャグリングし、 イオの質問に対して煽っている様にしか捉えられない行動をとる。
「さ〜て、 ネタがわかるまで攻撃させてもらうよ…」
「畜生、 うぜぇ」
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「おらおらおらぁ!! そんなもんか!!」
本来の『回復術師』という職業は、 後衛から味方の治癒を中心とし、 状況に応じてバフや状態異常等を解除したりと、 とてもじゃないが前衛に出る事はない。
それは、 基本的に威力の高い攻撃スキルを会得する事が出来ない事で有名な職業なのである。
だが、 その固定概念を覆した人物が『ガイア』だった。 ガイアの攻撃はスキルを使用せず、 生まれ持った高い身体能力と、 努力により手に入れた技のみで戦闘を行う。
その高い身体能力により繰り出される怒涛のラッシュにアハトは防然一方で、 拳を腕でガードすることしか出来ないでいた。
「このスピード、 この威力…いやはや回復術師からこれほどまでの戦闘力を引き出させるなんて…感激です」
防然一方とはいえ、 ガイアの隙すら与えられない連続の拳はアハトの身体にダメージを与えることは出来ていないようで、 ガードの中から隈無く観察している様子だった。 そして、 ガイアの事を既に回復術師だということを知っている点から、 聖騎士団長達の職業は把握しているのだろう。
「おっと、 イオが傷を負わされてしまっているようだな! 『治癒』」
攻撃の手を止めることなく、 難なくイオへの治癒を施し、 ダメージを回復させる技術。
団体による戦闘において、 先に潰すべくは後衛の回復術師というのがセオリーだが、 その弱点を簡単には突かせてもらえない状態を作り出している。
「流石、 聖騎士団長ですね。 しかし、 こちらは2手だということをお忘れなく!」
1人のアハトに攻撃をしている最中、 後方からもう1人のアハトがナイフを投擲する。
「甘ぇ!」
しかし、 そのナイフすらも拳で弾き、 不意打ちで放たれたナイフは粉々に砕け散ってしまった。
「これほどまでの力がスキルでは無いというのが驚きですよ──でも」
「っ!?」
その時、 何か異変に気付いたガイアはすぐさま攻撃を止め、 2人のアハトから距離を取る。
「おやおや、 聖騎士団長様…お忘れ物ですよ?」
そう言って手に持っているモノを差し出すアハト。 そこには先程までアハトを防然一方にしていたガイアの肩から先の腕があった…。 しかし、 その断面からも、 切断されたガイアの肩部からも血の1滴すら出ていなかった。
「…痛みも何も無く切断しやがったのか? だが残念だったな、 俺は回復術師だぜ? 」
ガイアはすぐに自分に向けて『治癒』をかけるが、 一向に腕が再生することはなかった。
「あはは、 残念でした〜。 タネも仕掛けもございません」




