第36話
「…出てきたようじゃな」
そういったのは、 怒りと殺気を鎧のように全身に纏っているオルフェウスだった。 オルフェウスの独り言通り、 目標の洞窟から現れたのは『顎』の面々のみで、 本来の目的であるゼン・アルファの姿は無かった。
「ここに何か用ですか? 御老人」
あくまで白を切るつもりなのか、 『顎』の団長イギルは知らぬ顔で殺気を纏っているオルフェウスに向けて言い放つ。
「なに、 散歩がてらゆかりの地に足を運んだだけじゃよ…ちと、 中を見せては貰えぬかね?」
白を切るイギルに、 隠し切れていない怒りをどうにか抑えつつ、 会話を進めるが、 目的は洞窟内…基ゼンがそこにいるということを比喩しているセリフにピクリとイギルが反応する。
「団長、 やはり何故か『観察者』の居場所はバレてますね…」
目線はオルフェウス達を見据えたまま、 ティンゼルはイギルに耳打ちする。
「ぎゃははは! 関係ねぇよ、 とりあえずあいつら全員ぶっ殺せばいいんだろぉ♪」
空気を読まないハスタのセリフに、 全員が素早く戦闘態勢になる。
「そんだけ聖騎士連れといて、 散歩ってのぁいくら何でも無理すぎるだろぉよぉジジイ♪ し・か・も…」
そう言って、 オルフェウス達の面々の中に紛れる1人…すなわちキアラを見据えると、 下卑た笑みを浮かべる。 その笑みに、 あの時恐怖した感情を呼び戻され、 キアラは膝が反射で笑っていることを自覚した。 ゼン・アルファ救出の為に握った拳も徐々に握る力を失い初め、 やがてその拳すらも震え出した。
しかしその手を、 モノは優しく…そして強く握った。
それだけで、 キアラの震えを止めるには十分すぎる程に力強かった。 恐怖し震えていた事が嘘だったように、 一瞬にして止まっていた。
「モノ…ちゃん…」
「…だい、 じょうぶ…」
2人のそんな支え合うやり取りを見て、 ハスタは再び快活に…下卑た笑い声を上げる。 その声から与えられる感情は『不快』でしかなく、 その場にいた皆誰しもが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
「ロリっ子ちゃんは趣味じゃねぇが…据え膳食わぬはなんとやらってやつだ────なぁッ!」
その掛け声を合図に、 ハスタはモノとキアラの元へと跳躍する。
「いっただっきまぁす♪」
尋常ならざる跳躍によって、 一瞬にしてモノとキアラの目の前まで移動し、 その手を伸ばすが…再びその右腕は空を切り、 地面へと落ちた。
「オリジナルスキル、 『空斬』」
ハスタの右腕を一瞬にして切り伏せた本人、 オルフェウスは使用したスキルを言う。
「おいおい、 ジジィ…まさか腕1本斬っただけで勝ったとか思ってねぇよなぁ〜♪」
「おいおい、 小僧…まさか斬られたのが腕だけとは思っとらんじゃろうなぁ?」
「はぁ? 何言って──」
オルフェウスの言葉に疑問を持ちながらも反撃しようと動き出したその時、 残りの左腕、 両脚、 首がぐらりと歪み…崩れ落ちたのだった。
一瞬の出来事に、 オルフェウスの妻、 グリシャ以外の全員が状況を呑み込めないままでいた。
「今の剣筋…ハオは見えたかい?」
「…いや、 俺でも見えなかった。 ったく、 あの坊主はなんつーバケモンを味方につけてんだか…」
ハオはオルフェウスの剣筋に頭を掻きながらボヤくが、 すぐにその目には決意の光が宿っていた。
「俺はあの日1度、 人間として死んでいる。 今や俺は坊ちゃんの剣になると決めてるんでね…殺れと言われれば殺りますよ」
そう言い放つと、 ゆっくりと背中の大太刀の柄を握り、 その刃を陽の光で光らせる。
勿論、 剣筋すら見えなかったハオに勝ち目は薄い事は明白であり、 死にに行くようなものだろう。 だが、 オルフェウスが隠居していたのにも関わらず、 ゼンの為に自ら救出に赴いたように…ハオも同じだ。
自暴自棄になり、 復讐に駆られて一国を殲滅し、 生きる意味も目的すらもうしなっていた…。
「今の俺にやるべき事は、 坊ちゃんの悲願達成のみ…恨みなんかないんだがな」
そう言って、 ハオはオルフェウスの前まで歩いて行く。 あたかも1体1での戦いを望むように…。
ハオに続いて他の団員もこちらに歩み寄り、 それに応じるようにこちらの聖騎士団長達も各団員に歩み寄る。
それにより、 対戦する相手が決まった。
オルフェウス VS ハオ
グリシャ VS ティンゼル
エレオノール・キンリュウ VS ガブラス
モノ・アラン・キアラ VS クレア
『黒百合の雫』イチイ
『白銀の翼』ナイブスVS ナナ
『氷結の雨』イオ
『轟雷の牙』ガイア
『侵食の影』アベル VS アハト
「…さて、 戦争を始めよう」
未だ動かずのイギルは対戦カードを眺めながら不敵な笑みを浮かべていた。




