第34話
「…さて、 まだ援軍は来ていないが…作戦会議を始める」
聖騎士団用の作戦会議室に、 アラン、 キアラ、 モノ、 ガイルの他には、 それぞれの聖騎士団団長が7人集まっている。 ゼンが『律者』と呼ばれる存在であることは、 各聖騎士団団長達には隠しているが…。
「その前に、 1つ質問をよろしいですか?」
そう言って挙手したのは、 『鮮血の薔薇』と呼ばれる聖騎士団の団長、 『エレオノール・ハイライト』だ。 男性でありながら見事に手入れされた金髪を靡かせ、 紅い瞳をしている。
「なんだ、 エル」
エル、 というのはエレオノールの名称のようで、 エレオノールに質問を許可するガイル。
「他の団長達も疑問に思われている事でしょうから、 ここは私が代表して問わせて頂きますが…その、 『ゼン・アルファ』という少年をここまで戦力を用いて奪還する必要性は何ですか?」
そう、 『律者』という存在…そして、 『観察者』という最強といっても過言ではない職業を持っていることを知らされていない者からすれば、 疑問に思うことは必然だ。
「一生徒、 一国民と言えど、 ここまで戦力を注いだ救出任務は今までの記録からしても異例なハズですが?」
勿論今まで国民等が拉致されるような事がなかった訳ではない。 しかし、 救出任務を行うのは精々1つの団くらいなものだった。
しかし今回集まっているのは、 王国の精鋭中の精鋭…更に言えばまだ援軍を呼んでいるとの事。
誰がどう考えたって人1人の救出に過剰な戦力を注いでいる事は分かる。
「…確かに、 今までの任務に比べれば戦力は過剰と言えよう。 しかし、 相手は『顎』、 更にいえばその上団員の補充まで済ませている。 先の任務での通り、 生半可な戦力では太刀打ち出来ない事が分かった。 それ故のお前達だ」
『顎』は、 今までいくつか小さな問題を起こしていたに過ぎない盗賊団だったが、 一向に壊滅出来ない組織だった。 現にここに集まった団長達も、 何度か『顎』絡みの依頼を受けたが、 しっぽを掴めず逃がしてしまっていたのだ。
「仮に、 先の任務の大惨事が『顎』の仕業だったとして…そこまでの戦力をもっているにも関わらず、 何故彼を攫ったのかが分かりません」
そう、 今までの小さな問題から、 今回の惨事を『顎』の仕業と思っていないのは、 『顎』絡みの依頼を受けた事のある聖騎士団長全員が思っている事なのだ。
その時、 ガイルとエレオノールの話を遮るように声を発す。
「だが、 もしその小僧に何か隠している事情があり、 更にそれをガイルさんが知っている…ということなら理由になる…そういうことじゃろ?」
話を割って入ってきたのは、 まさに筋骨隆々《きんこつりゅうりゅう》という言葉が合っているスキンヘッドに道着の男性、 『烈火の拳』と呼ばれる聖騎士団をまとめる団長 『キンリュウ・ダルア』だった。 キンリュウは聖騎士団団長の中でも最年長であり、 1番の古株だ。
「ガイルさんの頼みとあっては、 もちろんわしらは喜んで使命を全うしよう…しかし、 理由も知らされずというのはいささかガイルさんらしくないのう」
丸太のような腕を組み、 ちらりとアラン達を見やる。 この場にいる…ということが、 キンリュウ達のいう『隠している何か』について知っていると物語っている事に気付いているのだろう。
「それは……申し訳ない、 言えない」
そのガイルの一言の後、 その場にいた全員が息を呑んだ。 厳密には、 ガイルが放った一言の後の…土下座に息を呑んだのだ。
「頭を上げてくださいっ! ガイルさん…私はそのような姿を見るために言ったのではありません!」
エレオノールは、 自分の発言のせいだとばかり思い、 立ち上がる。
「馬鹿者…これじゃから童はいつまでたっても童なのじゃ。 いいか小僧共、 わしらの恩師であるガイルさんがこうまでしておる。 理由など、 最早なんでもよい…聖騎士団団長の誇りにかけ、 攫われた小僧の救出に向かう」
異論は認めん、 と言わんばかりの眼力で団長達を眺めるが、 最早この状況下でそのような事を思う者は誰一人としていない。
その時、 ガチャりとドアノブが回る音の後、 ゆっくりと扉が開いた。
現れたその人物の姿は見えていない。 にも関わらず聖騎士団団長クラスの面々ですら知らず知らずのうちに固唾を呑んでいた。
それほどの重圧的な殺気を放つ人物こそ、 今回のゼンの救出に行く為の助っ人だった。
「…ガイル、 貴様はそのままそうしていろ…」
現れたのは、 言わずと知れた伝説の聖騎士と聖拳…『オルフェウス・デウス』と『グリシャ・デウス』。
ゼン・アルファの育ての親だった。
「…貴様ら聖騎士団団長はこんな所でいつまで長話をしている…」
その一言で、 集まった団長全員が椅子を鳴らしながら直立する。
「き…貴殿があの…伝説の『二頭竜』のデウス夫妻でございますか…!?」
過去の英雄を前に、 今までの煌びやかさ等微塵も感じない程に、 エレオノールは慌てふためく。 そんなエレオノールの発言を気にもとめず、 未だに地に額を擦っているガイルに声をかける。
「ガイル、 貴様は王の前でわしらになんと言った…?」
「……今後、 ゼンの…ゼン君の身は私が守ると…発言しました…」
「それで、 これが貴様の言う『守る』という事なのか?」
現役の頃よりも、 更に圧の強い言葉に冷や汗が止まらなくなってしまったガイルは、 大声で謝罪の声を上げる事しか出来なかった。
「…仕方ない、 元はと言えばわしらもゼンにもっと気をつけるように言っておくべきだったのじゃ。 それで、 ゼンの居場所は突き止められておるのか?」
少し落ち着いた様子になったオルフェウスに安堵の息を漏らすガイルは、 ゆっくりと頭を上げる。
「それは、 彼女が」
そう言ってガイルは、 モノへと目線をやる。 その目線にモノはこくりと頷く。
「…これが、 居場所を…教えてくれる…」
その手に握られていたのは、 ロケットペンダントのような作りになっており、 ロケットの中は写真ではなく、 小さな水晶画面が施されていた。
「…ゼンが人質として、 歩いていく時…袖に、 発信魔道具を、 つけた…」
「あの時か…」
アランは、 モノが発信魔道具を装着したタイミングを思い出し、 心の中で感銘を受けていた。 状況的にはどうしても感情的になってしまう中、 転んでもタダでは起きないとばかりに行動を起こせるその意思に…。
そして、 次こそは同じ『律者』として、 名に恥じぬ働きをしようと拳を握る。
「居場所が分かっているのであれば話が早い。 よくやったよ、 お嬢ちゃん」
グリシャは発信魔道具を付け、 既にゼンの居場所を突き止めていたモノの頭を優しく撫で、 ペンダントの水晶画面を眺める。 そこには恐らく周辺の地形を表す波のような線が無数にあり、 真ん中にポツリと赤い光が点滅していた。
「…ふむ、 この地形…どこかで覚えがあるような気がするねぇ」
グリシャのその一言に反応し、 オルフェウスはモノのペンダントに歩み寄り、 覗き込む。 水晶画面を数秒覗き込んだ後、 何かを思い出したかのような表情を見せる。
「これは、 確か30年程前に害獣を殲滅する任務に出向いた時に拠点として使った洞窟の近くじゃな…」
「つ、 つまり…その拠点を今は『顎』の隠れ家として使用している可能性が高い…という事ですか?」
「そういう事なのかもしれんの」
そうと決まれば話は早い。 オルフェウスの返事に全員の気が張る瞬間を肌で感じる程に空気がピリついていた。
「では、 これからどうしますか?」
ガイルは今後の方針をオルフェウスに尋ねると、 オルフェウスはどこかに通信魔道具で連絡をとる。
「…アル、 わしらの装備を国宝庫から借りるぞ」
その言葉に、 ガイルは自然と喉が鳴る。
オルフェウス達の装備は、 国宝として取り扱われる程の性能をもっており、 それを使用するという事は…本気を意味する。
「盗賊退治と行こうではないか…」




