番外編 1 〜ハオ編〜
俺が15の誕生日を迎えた日だった。
…どうして、 俺たちなのか。
…どうして、 俺たちの村が襲撃されなければ行けなかったのか。
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「ちょっとお兄、 早く起きてよ! 長老の朝会が始まっちゃうよっ!」
集落に近い、 少数の人間しか住んでいないこの村では、 毎朝7時頃になると『朝会』というものがあった。 別段変わったことをしているわけではない。 ただただ村の全員を集め、 全員無事に朝を迎えられたのか、 そして、 新しく村に住むことになった人がいる場合はその人の紹介があった。
そして、 朝が弱い俺をいつも起こしてくれるのが、 妹のニーニャだった。
12歳にしてはしっかりしており、 毎朝早く起きてはお母さんの手伝いをこなしている。 そういう所から、 村1番のお嫁さんになれるとはやし立てられており、 村の男子供からは絶大なる人気があった。
「うぅ〜ん…もう少し…」
「あぁーーもうっ! いっつもそんなこといって! それ今日何回目だとおもってるの!!」
布団の上から俺の身体を勢いよく揺らし、 全力で起こしにかかる。 俺も負けじと布団を深めに被り抵抗する。
これが日課で、 ニーニャには申し訳ないが、 俺はこの時間がとても好きだった。
とても裕福とは程遠い暮らしだったが、 幸せを感じられる…平和を感じられる時だった。
……決して朝会後の剣術訓練が嫌だった訳ではない。
うん。
「あぁあぁ、 分かったよ…起きればいいんだろ?」
俺は観念し、 布団から状態を起こすと、 ぷんぷんに怒った顔をしているニーニャが立っていた。
「もうっ! わたしがおよめさんに行ったら誰に起こしてもらうつもりなの?」
「ふぅ〜ん、 誰もお前なんか欲しがらねぇよ。 黙って俺の妹やってろ」
「ふん、 そんな事いってられるのもいまのうち…って、 わしゃわしゃしないでっ!」
俺は反抗的な態度をとるニーニャの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫で回す。 口では嫌がっているものの、 俺の手を払おうとはしない。
「うぅ…もうっ! やめてってばぁ!」
「あはは、 分かったよ…そろそろ行こうか」
「じゃあ先に着替えて!」
俺はニーニャの指示通り、 すぐに身支度を済ませた後、 朝会のある村の中心広場へと向かった。
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「……これで、 今日の朝会は終わりじゃ。 ハオ、 剣術作業をサボるでないぞ?」
「…さ、 サボらねぇよ!」
村中の男達から大声で笑われる中、 見透かされたような気分になる。
この村の人達の職業はどれも戦闘向きの職業の人はおらず、 『農民』や『鍛冶師』といった、 所謂ヘボ職業の人達ばかりだ。辛うじて長老の息子が『弓士』という職業で、 弓撃ちが少し上手い位なものだ。 それゆえに男は、 子供の時は剣術に励み、 大人になると農作物を育てたりするための力仕事をし、 何とか自給自足を保っている位だ。
そして朝会が終わり、 わらわらと子供達が集まって来る最中、 いつも通り俺はこっそりと抜け出し、 剣術訓練をサボる。 勿論誰も気付いていない訳ではない。 子供にはすぐ見つかるが、 誰も俺には言ってこなかった。 俺は喧嘩だけは強く、 剣術を習っている子供達よりも強かったからだ。
剣術訓練の時、 俺は近くにある山を登り、 頂上にある花畑の中で空を見上げながら昼寝するのが日課だ。 一面の花達の香りを、 風が優しく俺の元へ届けてくれる。
「…はぁ〜〜、 ニーニャもいつかここに連れてきたいなぁ」
ここに来るためには、 まず山を登るための体力が必要だ。 14歳の俺でも結構体力を削られてしまうため、 12のニーニャにはまだ無理だろう。
そんな事を考えていると、 ふと明日が自分の誕生日だということを思い出す。
「明日で俺も15歳か、 もう少したてば俺も職業を手に入れられるし…あぁ〜、 最強の職業手に入ったらどうしよっかなぁ〜」
まずはこの国、 ガーラ王国屈指の名門である聖職業学校へ入学して、 沢山お金を稼ぐ。 それから、 そのお金でこの村の復興資金を補い、 村のみんなに贅沢をさせてあげたい…。 ニーニャにはうんと服を買ってあげて…それから……。
暖かい太陽の光と、 優しい風のせいで俺は眠りに付いてしまった…。
ふと目を覚ますと、 まだ夕焼けのように赤く明るい状態だったが、 空を見上げると星空と共に黒い煙が立ち込めていた。
そしてその時、 赤く明るいものが夕焼けではなく、 山から見下ろせる村からの火の手が原因だということにすぐに気づく。
「…な、 なんだよ……これ…」
良くは見えないが、 村には倒れている人間が沢山おり、 中には鎧を纏った兵士のような風貌の人間も倒れている。
その情報で、 今俺の村が何者かによって襲撃され、 国の兵がその何者と交戦しているとすぐに理解する事が出来た。
「…っ!? ニーニャ!!」
俺は直ぐにニーニャの安否を確認すべく、 歴代記録を裕に超える速度で山を駆け下りる。 しかし、 やはり村は火の海状態になっており、 この国の兵士と村人の屍がそこら中に転げ落ちている…。 傷口は何か鋭いもので切りつけたような見た目をしており、 刃のようなもの…もしくは爪で攻撃してくる相手のようだ。
その時、 すぐ近くの家から悲痛な叫び声が耳を劈く。
「や…やめてくれぇ!! 頼む…命だけは……ぎゃああああっ!!!?」
俺は息絶えた兵士が使用していたであろう剣を手に取り、 声のした家へとかけ出す。
扉のすぐ側で呼吸を整え、 突入の準備をしていると、 水気の多い咀嚼音が家から漏れ出て聞こえ、 咀嚼音と共に低い獣のような唸り声も聞こえてきている。
間違いなく、 魔獣の唸り声だ。
平和ボケしていた日常が崩れるのは一瞬で、 こうも無惨に崩されるとは思いもしていなかった…。
人間以外と対峙するのは初だ。 それが魔獣ともなると、 今までの剣術が通用しないことはこの村の凄惨たる光景を見れば一目瞭然だ。
自然と剣を持つ手に汗が染み出ており、 少しでも気を抜いてしまうと、 手から落ちてしまいそうだ。
「はぁ…はぁ……。 はぁぁぁぁぁっ!!!」
俺はより一層柄を握る手に力を込めて、 家に入ると同時に魔獣の姿を確認し、 奇襲をかける。
目に飛び込んで来たのは、 少し小さめで緑色の肌が特徴的な魔獣、 ゴブリンだった。 俺の掛け声に反応してこちらを振り向くが、 回避を取られる前に首へと刃を振るう。 その刃は見事にゴブリンの首を刎ね飛ばすことに成功し、 少なからず人型の魔獣で助かったと言えよう。
「や、 やった…倒した…」
しかし、 これが目的では無いことをすぐに思いだす。 そう、 まずは家族…そして、 ニーニャの安否だ。 俺はすぐに家を出て、 俺の家へと震える足を動かし始める。
山から降りた所からは、 家はさほど離れていないため、 すぐに俺の家が見えてきたが、 そこは既に大半が破損しており原型を留めてはいなかった。
「父さん! 母さん! ニーニャ!!」
俺の叫び声に反応する声は無く、 倒れた柱や落ちてきた天井などの木材を掻き分けなが家内を除くが、 何者かが暴れた形跡はあるものの、 血痕などは見当たらない…。 この様子だと、 恐らく逃げられたに違いない。
俺は不幸中の幸いと思い胸を撫で下ろす。
とりあえず家族が無事だった事は良かったが…問題は村人がどこに避難したか、 だ。
ゴブリンの中には人の言葉を理解するものがいると聞いた事がある。 それなら音声拡張魔道具で避難所を伝える事はしていないと考えられる。
…だとするならば、 向かったであろう先はだいたい予想がつく。
予想は2つ。
1つ目は屋内での訓練に使用される訓練所があるが、 場所は村の中心に近い。 この状況の中でわざわざ村の中心に避難するようなことはしないと考えられる…。 となると、 1つに絞られる。
村のすぐ隣の山にある隠し洞窟だろう。
そうと決まれば、 俺は柄を握る手に力を入れ、 目標となった洞窟へと駆け出────そうとした時だった。
「────きゃああぁっ!!」
聞き慣れた声の人物の聞き慣れていない悲鳴。 それは、 今なお探し求めていたニーニャの声だった。
今いる我が家のすぐ近くの家からだ。
俺はすぐさま家を飛び出し、 悲鳴のした家へ押し入った。 扉を蹴破ると、 そこには部屋の角に追い込まれ、 服装が乱れてしまっているニーニャがそこにはいた。
しかし、 ニーニャを襲っているのは魔獣ではなく…人間だった。 勿論村の人間ではなく、 ガーラ王国の国紋の刻まれた鎧を着た兵士が3人。
扉を蹴破った俺に気付いた兵士達は血走った目で俺を睨み付ける。 どう見ても保護しに来たというようには見えない…。
「…お、 お兄っ! た…助け…」
俺が来た安堵からか、 はたまた恐怖からか大粒の涙を流し出すニーニャを見て、 俺は一瞬で頭に血が上るのを感じた。
「…お前ら、 何してるんだ…っ!?」
「…あぁ? 見てわからねぇのかぁ?」
明らかにまともな目はしていないが、 しかし何かに操られているようには見えない。 この状況は、 こいつらが望んで行っている事であることは分かっている。
「民を守る為のお前らが…なんで襲ってるんだ!!」
「どっちにしろ俺たちはここで死ぬ…それなら、 最後位楽しませてもらってもいいだろ?」
「今まで守ってやってんだ…こういう時位恩返しとして身体位差し出せよォ!!」
柄を握る手に力が入り、 ギリギリと音がする。
「ふざ…けるなぁァァァァァッ!!」
俺は一瞬で1人の兵士の懐に潜り込み、 鎧の隙間から首へと一閃する。
「…次」
喉笛から斬り裂いた事で、 叫び声すら上げられずにこと切れる兵士。 まさかこんな子供が反撃して来るとは、 と慌てふためいてる間にもう1人の兵士の胴へと回し蹴りを入れ、 急な攻撃に受け身すら取れず倒れ込んでしまった隙を見逃さない。 すぐさま馬乗りになり、 鎧の上から全力で心臓を突き刺す。
「…次、 あとはお前だけだ」
突き刺した剣を引き抜くと、 噴水の如く鮮血が吹き出、 俺の服を汚す。
「…き、 貴様ァ! 」
残った兵士が腰の剣を抜き、 駆け出す。 が、 方向は俺では無く、 隅で怯えるニーニャの方だった。
「い…痛い…や、 やめて…」
耳を塞いで目を固く瞑っていたニーニャの髪をぐしゃっと掴み、 無理やり引き上げ首筋に刃を当てる。
「…クソ野郎が」
「おいおい、 舐めた口聞いていいのかァ?」
首筋に当てている刃に少し力をいれ、 食い込んだ部分から血が伝う。
「…や、 やめてくれ」
「へっへっへ…だったら武器を捨てて頭を地面に付けておけ」
俺はギリっと歯噛みするが、 現状こいつの指示に従うしか術がない。 俺が駆け出すよりも、 こいつが刃を振るう方が速いだろう。
「……分かった、 指示に従う。 俺はどうなったて構わない、 頼む…妹だけは」
「黙ってさっさと命令に従えっ!!」
急な大声にニーニャはビクリと身体を揺らしてしまい、 その拍子に首筋に当てていた刃は────
────ニーニャの首を裂いた。
「あぁ……お、 お…に……ぃ」
「ニーニャッ!!?」
その時、 俺は頭が真っ白になり…気が付いた時は冷たくなってしまったニーニャを抱き抱えたまま呆然の座り込んでしまっていた。
涙は全て出し切り、 もう出ない。
その後、 俺は職業を手に入れ、 その職業でガーラ王国に復讐する事を決めた。
それから15年程たった時、 俺は1人でガーラ王国の国王をできる限り惨たらしく殺害し、 聖騎士団含め全ての兵士を惨殺した。
『禁忌』を犯した俺は『禁忌』に従い精神を崩壊させられる…そう思っていたが、その時現れたのは、 白い髪をした少年だった。
少年は『禁忌化』しつつある俺の頭に手を置くと、 どういう訳か『禁忌化』が止まった。
「…これでもう大丈夫だよ、 辛かったね」
自分の半分も行かないであろう歳の少年にかけられた声に、 恥ずかしくも涙を浮かべた。
──────そんな事を思い出していた。
「…如何しましたか、 ハオ様」
空を見上げたままの俺を見て、 ガブラスは声を掛ける。
「…いや何、 昔の事を思い出していただけだ」
「しっかりしてくださいよ〜、 ハオの旦那♪ もうすぐ『律者』の少年が見えてくる頃だぜ」
ハスタはティンゼルから渡された輪っか状の通信阻害の魔道具を指でクルクルと回しながら陽気に語る。
「俺様はスキルって事でこれ使うんで、 バラさないで下さいよ♪」
そんな事を言っているうちに、 向かいから数人の人影が見え出す。
「…よし、 始めよう」




