第33話
「…………あれ?」
「…何故、 支配が効いていないんですか?」
う〜ん、 俺にも分からんが。
仮説を立てるとするなら、 『律者』に対しては無効化される。 もしくは、 勇者の固有スキル『強者の意思』だろうか。
1つ目に関しては立証する事は出来ないが、 2つ目ならば可能だ。
『支配者』が使用できる『支配』だが、 脳のコントロール、 つまりは精神攻撃系の状態異常と判断され、 状態異常完全無効の『強者の意思』によって無効化されたということ…なのかもしれない。
「何はともあれ、 俺には効かないみたいだな?」
俺は形勢逆転と言わんばかりに笑うが、 状況が変わっていない事には安堵する事は出来ない。
計画が狂った事に対しての怒りが表情に出るイギルだが、 すぐに平常心を取り戻す。
「そうですか、 理由はどうあれ効かなかったのならば別のプランに移るしかなさそうですね…」
そう言うと、 洞窟の奥へと入っていく。 奥は暗くて良く見えなかったが、 誰かと話しているような声が聞こえてくる…。 少したって戻って来た時には、 小さな女の子を連れて戻ってきた。
厳密に言うと女の子…ではなかった。
イギルの横に連れられてやってきた女の子は、 歪に曲がった1対の角には、 滴るほどの血が付いており、 その口はなにやらもごもごと動いていた。
白く太い尾をゆらゆらとしているその女の子には見覚えがあった。
「…君は、 あの時の変身士…なのか?」
綺麗な銀髪も、 鮮血で酷く汚れてしまっているが、 あの日ローズアイズの街に向かっている途中で見かけた女の子だった。 至る所に血がついているものの、 目立った外傷は見当たらない。
という事は…返り血?
「…お前ら、 こんな小さな子に何させてんだっ!!」
俺は咄嗟に腰に巻き付けてある蓋なしのポーチからナイフを取り出し、 洞窟の奥へと投げ入れる。 そして、 スパークの電流を利用し俺も洞窟の奥深くへと瞬間的に移動する。
「──おぅっ」
高速移動の際に、 女の子を抱えてイギル達との距離をとる。
『高速移動』自体のスピードよりも遥かに早く移動出来るので、 団員達が妨害しようとスキルを発動させるよりも早く奥へと移動する事が出来た。
「いてっ、いてっ…か、 噛むなっ!」
変身士の女の子を抱えた腕を、 女の子はなにを思ったのかガジガジと噛み始めた。
「…むっ、 食べれぬぞ。 なんでだ?」
「そりゃそうだろ…一応警戒の為に身体中を覆うようにバリアみたいなの張ってるからな」
そういって、 俺は首に下げていたネックレスを取り出す。 事前にモノに渡されていた魔道具により、 そこまで持続時間は無いものの耐久力としては鎧よりも遥かに頑丈と渡されていた魔道具だ。 首から下げたネックレスの形状をしているが、 中心部分に魔石が使用されており、 下げておくだけで発動させておくことが出来るらしい。
「ほぅ、 そんなものがあるのだな」
「…つっても、 女の子の噛みつきで多少の痛みは感じる所を考えれば、 鎧程の耐久は無さそうだけどな」
モノが作った魔道具とはいえ、 流石にそこまでの性能は作れなかったようだ。
「そんなことも無かろう。 わしが食えなかった人間など今までおらぬ。 ほれ、 そいつなんて柔らかかったぞ」
そういって俺の横を指差すが、 洞窟の奥だというせいで全く何も見えない。 俺は灯りの代わりにと回収したナイフにスパークを使用する。 放電する電撃のお陰で洞窟内が少し明るくなり、 周辺ならみえるようになった。 そして、 今一度横を見ると、 そこには無惨にも肉片を撒き散らし、 周囲に血溜まりを作っているナニカがあった。
「──は? な、 なんだ…これ…?」
「じゃから、 今まで食えんかった人間などおらんかったと言うておろうが」
この女の子の発言だけでまとめると…。
つまりは…。
この子が食していた人間…だということ…なのか?
「まだ途中なのでな、 完食するのがまなぁというものじゃ、 ちとまっとれ」
そう言うと、 女の子はするりと俺の手からすり抜けると、 徐にがっつき始める。
ゴリゴリという骨の砕ける音。
血の混じった肉を咀嚼する音。
肉の筋を断ち切るような…音。
それらが洞窟内に響きわたり、 直接脳内に響いてきているようだった。
そんな事をしているうちに、 ザッ、ザッ、 というこちらに近付いてくる足音が聞こえ始める。
「彼女、 ニルヴはね…人為的に造られた竜族と人間の混血なんだ。 非人道的な研究を数々行っていた研究所を襲撃した時に出会ったんだよ。 そして、 『顎』で保護した子だ」
「うむっ! 食事を提供してくれるとの事でな、 付いてきたのだ! わははっ!」
口の周りを血だらけにしながら快活に笑うニルヴと呼ばれた少女は、 お腹を満たされて満足気に…そしてにこやかに笑っていた。
「…さて、 改めてプラン変更としよう。 ニルヴ」
「んぁ? なんじゃ?」
少し溜め、 俺の方をちらりと一瞥すると、 不敵な笑みを浮かべるイギル。
「これからグロリアっていう王国に行こうと思うんだけど」
「…っ!? お、 おい…お前…何するつもりだ」
「…今からご馳走達が待ってるよ?」




